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SOLIDWORKSのアドオン 熱流体解析ソフトのセミナー内容をご紹介

セミナー風景イメージ

概要

2019年11月8日(金)にANAインターコンチネンタルホテル東京(赤坂)で行われたセミナーイベント・SOLIDWORKS WORLDJAPAN 2019にて、受講したセミナー「熱流体で現象解明SOLIDWORKS Flow Simulation 活用術」の全容をご紹介する。

ShareLab編集部として取り上げたのも、3D CADの利点を最大限に生かすなら、外在的な要因に対する試験・評価が重要なモノの試作に限れば、シミュレーションをやらないという選択肢はないと思うからだ。

今回紹介するSOLIDWORKSのアドオンソフトであるSOLIDWORKS Flow Simulationを販売している株式会社構造計画研究所の人に、こういったソフトの普及状況についてお話を伺ったところ、現時点では、3D CADの導入が進んだ企業の次のステージは、強度や安全性を検証するための解析。そしてその次が熱流体解析のようなシミュレーションになるため、まだそれほど普及はしていないとのことだった。

つまり3D CADの活用が進んだ第三ステージと考えられる。3D CADの普及が進み一般化してくれば、当然その効果を実感できた企業から間違いなく、シミュレーションソフトの導入も進むことは容易に想像できる。

実際3D CADによる設計データをフル活用している技術者にとっては、 シミュレーションソフトの導入についてその是非を聞いてみると、「メリットしかない」と言いきる方もいた。

問題はシミュレーションの精度だが、それについては当然のことながら初期設定した一般的なデータから、試作段階のデータ、最終製品データへと、パラメーターとして設定するためのデータを蓄積、都度修正し、精度を上げていく他ないだろう。

では、現時点で考えうるシミュレーションソフトを利用するメリット・デメリットを上げてみた。

3D CADシミュレーションソフトのメリットとデメリット

■メリット

  • 機能的な設計の精度を上げられる
  • 設計段階で無駄な素材の量を減らして製造コストを削減できる
  • 形状試作による現物としての試作品を作成する回数を減らせる
  • 試作品試験・評価までのPDCAサイクルの回数自体を減らせるため、試作全体のコストを削減できる

■デメリット

  • シミュレーションの作業という時間的コストがかかる
  • 適切なシミュレーションができる人材の育成コストがかかる
  • シミュレーションソフトの導入及び運用にコストがかかる
  • 従来の製造フローを変える際に生じる課題解決の時間と労力がかかる

リストアップしてみて思ったが、人材の育成からして大変であるし、今まで効率化してきた開発・製造フローを崩してまでいちいち開発時にシミュレーションを行うような資金や時間的余裕はない……と考える企業は多いだろう。だが今は導入できなくても視野に入れておいて損はない情報であることは間違いない。

では、ここからは参加できなかった方のために、セミナーの内容をできるだけキャッチアップしやすく、ご紹介する。

■セミナーの内容

セミナーは、まずとっつきやすく、わかりやすい導入として、 5歳の子の質問の例から始まった。

セミナー受講シーン1

なんで「ふー」と「はー」には温度差があるの?

「ふー」と「はー」には、なぜ温度差があるのか?
これについて不思議に思った人もいるだろう。

ラーメンなど熱いものを食べる時、人は「ふーふー」と息を吹きかけて熱を冷まそうとする。逆に寒い時は、かじかんだ手を温めるために「はー」と息を吹きかけて手を温めようとする。

これは皆自然とやっている行為なので、実際に「ふー」と「はー」に温度差があるのかないのか知っている人はあまりいないだろう。人間のその時の感覚だけで実際は温度差がないかもしれない。

そこで、実際に SOLIDWORKS Flow Simulation を使って、その検証が行われた。まずはSOLIDWORKSでモデリングを行う。以下の図では、赤い部分が高温を示している。

設定条件として、室温20度の中で口からの呼気を33度に設定。測定用のパーツを作って、10センチ先に置き、そこで温度の確認をしている。
最小値、最大値、平均を図ったところ、「はー」の方がやはり温度は高い。
感覚値だけでなく流体解析した結果、実際に「はー」と方が温度は高いことが判明した。

この温度を可視化してみると・・・、

左が横からみた図。「ふー」は25度ぐらいの温度が棒にあたっており、「はー」の方が30度以上の一番高い温度(赤い部分)が棒に届いている。

右が上からみた図。「ふー」は空気が口の周りが密になっており、空気が外側から巻き込まれているのがわかる。

つまり、「ふー」は、「はー」より空気を巻き込んでいるから冷たい。「はー」の方は巻き込まれていないので、口からの温度がかなりそのまま伝わるということだ。

空気の流れの特性として、巻き込むという現象を理解するためにわかりやすい例としては、電車が体のすぐ近くを通ると巻き込まれて体が引っ張られる現象を体感している人は多いと思うが、まさにそれだという。

このシミュレーションはアニメーションで空気の動きを見ることができる。

この空気の流れを実際の粒子の動きとして目視できることがまずすごい。これがパラメーターを少しいじるだけでまた全く見え方が変わる。数十年前であれば、このようなシミュレーションや解析は、大きな研究部門を持っている大手企業か、専門の研究所に依頼して相当なお金を払わないと得ることができなかった。

それがこんなお手軽に自分でモデリングもして自由にシミュレーションして試せるのだから、ついにここまで来たか……と思った。

製造業には60を超えても熟練者として現場で汗を流す技術者の方も多いと思うが、そのような方ならなおさらではないだろうか。人間歳をとってくるとそういうものへの抵抗感が強くなると思うが、 もし現場の責任者であるならば、 それならそれで自分でやらずに割り切り、思い切って若手に全部任せてみるというのも一つの手だ。

実際の解析事例1(電子機器)

次に実際の解析事例として、電子機器など産業機械の世界において、流体解析がどのように使われているかだが、 電子機器の場合、以下のようなシミュレーションによる解析ができる。

■筐体内部の温度分布
■基板の温度分布
■チップの温度
■ヒートシンクの放熱効果
■ファンの冷却効果
■ふく射、日射熱の影響

空気の流れを最適化

大型のサーバ機などを例にとると、さまざまな配線により内部の密集度があがってきている状態の時、内部の空気をどのように通していくのか、またファンをどこに設置したらよいのか、入口からファンで風を送った方がいいのか、出口側から引いた方がいいのかといったことを SOLIDWORKS Flow Simulation によって検証することができる。

ほかに、ファンがおけないような壁用の製品、例えば家庭用照明器具の放熱について考えた時、熱は上に上がっていく特性があるが、シミュレーションすることによって、各部品のどこに穴をあければ熱を解放していけるのか?といった検証が可能だ。穴をあけすぎればホコリが入ってしまうし、逆だと熱が中にこもってしまう。

SOLIDWORKS Flow Simulation を使うと穴をどこに空けるのか、穴の数や大きさをどこまで抑えられるのかといった検証を実施できる。これができるとデザインは良いが、製品性能はよくないし安全性については不安があるといった製品化手前で生じがちな設計側と製造側との軋轢があった場合、議論のための具体的で前向きなデータを提示できるだろう。

パラメータースタディによる設計の最適化

ほかにもヒートシンクの形状やピンの形状、長さ、配置をどうしたらよいのかといった パラメータスタディをすることによって最適な設計を行うことができる。

ふく射を考慮した照明機器の放熱

ふく射によってどれくらい熱が伝わるか、表面の形状を変えたら、どのくらい熱が収められるといった検証も可能。

熱がどこにこもっているのか、各部の部品ごとに熱のバランスもみることができる。シミュレーションを試してみると、思ったより基盤に熱が逃げていないなどといったことも具体的に目視で確認できる。

実際の解析事例2(産業機械)

次は、産業機械の解析事例だ。

■バルブ内の速度分析。圧力分布の確認
■ダクト通過時の圧力損失の測定
■ファンやポンプの回転による流量測定
■キャビテーションの発生予測
■ガス混合の解析
■熱処理炉のふく射熱

バルブやナット、ダクトなどは、シミュレーションによってどれだけの圧力損失が出ているのか確認できる。曲がったところで、問題が起きていないか、回転による流量測定など。輸送の量によって圧力損失がでないように設計することが可能である。

形状に対して流量が多すぎる場合、キャビテーションの発生予測を計算して設計を修正することもできる。ほかに製品の寿命も予測できるという。

流れをつかって、モノを分離する、混ぜるといったことも可能だ。

SOLIDWORKS Flow Simulationでは、液体、気体/蒸気、非ニュートン液体、圧縮性流体などを10種類まで混合することができる。液体数種類の混ざり方が違うとどう変わるのか、どう変えればよいのかさまざまな切り口で試すことができる。また、攪拌状態も確認できる。

また SOLIDWORKS Flow Simulation は、構造解析と連動することによってさらに精度をあげることができるという。粒子スタディという機能については、粒子を飛ばした時にどのように変化するのかなど、空気の流れを計算できる。

主に電子機器機は、熱を冷却するという観点だが、熱処理の方は過熱するという観点で、例えばやきむらがでないかということもモデリングされた中の色による熱分布状態をみて確認できる。

従来機能と2020の新機能(アドイン)

以下が2020の新機能だそうだが、従来機能へのプラスワン的なご紹介になっていた。

  • ファンのディレーティング
  • 従属設定「方程式定義」における論理式の適用
  • 高度
  • その他の新機能及び改良点

内容は以下のスライドでご確認いただきたい。

■導入が進む業界

セミナー終了後、ソフトを販売している構造計画研究所のブースに向かい、説明されている方にどのような業界で導入が進んでいるか伺ったところ、最も進んでいるのは、まず電子部品業界、例えばPCの設計などだそうだ。

これは非常にわかりやすい。特にノートパソコンやスマートフォンなどは、年を追うごとに、発注元から軽量、薄型が求められており、筐体の狭いスペースの中で、いかに熱を逃がすか、という点が非常に大きな課題となってくるからだ。

電子機器は筐体の内部に熱が長いこと放熱されずにこもってしまう場合、不具合や故障につながってしまうし、PCの寿命も短くなってしまう。デジタルに強い人材が揃うコンピュータ製造企業なら、可能な限り開発時にシミュレーションは行うだろう。

次に導入が進んでいるのが自動車産業だそうだ。

日本の自動車産業は、今現在トヨタをトップとしてAIによる自動運転の実用化などが進んでいるだけにテクノロジー分野でも最先端を担っているのでこれもわかりやすい。

さらにプラントの設計など、総合設備企業でもやはり昔から導入は進んでいるそうだ。大規模設備における巨大なバルブなどは、性能はもちろんだが、シミュレーションの良否で素材にかかる製造コストも莫大な差が生じることから、むしろできるのにやらないという選択肢はちょっと考えられない。

そのほかにどのような業界で今後シミュレーションソフトの導入が大きく進むか繰り返し聞いてみたが、それについてはまだ見えてこないという。

とはいえ、今の日本国内では人口減少に対するテクノロジー視点での解決策として、AIや自動化というキーワードを下に政府だけでなく製造業界のリーディングカンパニーも動き出しているだけに、全体的にじょじょに導入が進んでいくことは間違いないだろう。

さてここまで来ると気になってくるのがこの製品の価格だが、軽く質問したところ240万円と伺った。これを高いと感じるか安いと感じるか、購入を希望する企業の費用対効果における判断によるだろう。

今はまだまだ3DCADソフト時代でさえ社内で十分に使えてないから導入については時期尚早と考える企業が多いかもしれないが、ソフトというのは全部の機能を使う必要もない。特定部品の試作品について試験・評価コストが多大にかかっていたりするケースがあるなら、一部導入して試してみる価値はあるのではないだろうか。

また中堅企業であれば、競合他社より少しでも先んじるためにも視野を広げて導入への検討を行う価値は十分あるように思う。

感想

ここからは今回のセミナーに関係のない筆者の個人的な感想になるが、今回のシミュレーションソフトのようなデジタル化の最先端技術となると、やはり先鋭的なスタートアップか大手企業から段階的な導入が進むのだろう、と考えたところで以下の記事に出合った。

>> せっかく3DCADがあっても、派生するものづくりツールがないと業務は何も変わりません

この記事で紹介されている株式会社今野製作所は、SOLIDWORKS Simulationを活用しておりデジタル活用の第二ステージといったところだろうか。企業サイトを拝見したところ、社員数は36名(2017年1月現在)と多くはない。

3D CADソフトを自分たちのビジネス内でうまく適合させ、フル活用することで売り上げを拡大することに成功したという点から、会社の規模による資金の問題よりも、技術者の取組み姿勢次第で中小でも結果を出すことは可能なのだと気づかされた。

むしろ大企業よりフットワークが軽く、連携の取りやすい中小企業の方が導入後の活用方法によって、売り上げ拡大へとダイレクトにつながることもあろう。企業内でデジタル活用の旗手となっている方は自社の規模にとらわれず、その取り組み姿勢や着眼点を参考にされてみてはいかがだろうか。

関連情報

>> SOLIDWORKS Flow Simulation

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