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2,000万ドルをかけて最先端3Dプリンターを導入する米海軍の思惑と背景とは

アメリカ海軍が3DプリントメーカーのStratasys社と2,000万ドル(約22億円)の契約を締結した。これは同社設立以来、最大の契約だ。

契約内容の主要部分は、Stratasys社の主力3Dプリンター「F900」を最大25台アメリカ海軍に供給することだ。それに必要な材料やサポート、トレーニングも併せて提供される。契約は5年かけて履行される予定。

3Dプリンターの供給が、米軍のサプライチェーンを短縮する

Stratasys社の米国政府事業部門のディレクターであるMark Menninger氏は以下のように述べている。

今回の契約は、海軍に強化された航空機修理機能を提供しながら、アメリカ軍のサプライチェーンを短縮するのに役立つ可能性があります。アメリカ海軍のような軍事組織が3Dプリントを行うことは、航空機などの戦略的および戦術的資産の寿命をコスト効率よく延長することや、維持活動を事実上どこからでも迅速に実行できるようにするという大きなメリットがあります。またStratasys社において最大の政府プロジェクトとなるこの契約は、Stratasys社からの産業用3Dプリンターの存在感を米国政府全体に拡大することになるでしょう。

Stratasys社製3Dプリンター「F900」

「F900」はFDM(Fused Deposition Modeling/熱溶解積層方式)と呼ばれる方式で造形を行う3Dプリンター。熱可塑性樹脂を熱で溶融し、ノズルから吐出して層を形成する工程を繰り返し、一層ずつ積み重ねて造形する。

Stratasys社のFDM型3Dプリンターの第3世代にあたる「F900」。超大型の3Dプリンターで強度に優れた多彩な材料を使用することができ、大型パーツ製作や小ロット生産などへの対応を可能にする。モデル試作だけではなく、冶具・備品・生産パーツなどを直接生産することも。

 Stratasys社の3Dプリンター「f900」

Stratasys社の3Dプリンター「F900」

アメリカ国防総省の3Dプリント戦略

Stratasys社とアメリカ海軍で結ばれた契約は、今年初めにアメリカ国防総省の積層造形戦略が開始されたことに続くものだ。アメリカでは3Dプリントの採用を通じて国防システムの近代化や機器の維持管理の改善、戦闘機の整備の強化といった目標を掲げている。政府機関は3Dプリントを「もっとも広い実用的な範囲で防衛に採用する」という旨のポリシーガイダンスを発表している。

そしてアメリカ国防総省は情報共有のために合同防衛製造評議会を設立し、職員に対して高度な技術に対する特定の訓練を提供する計画を立てている。

2021年1月に戦略を発表して以来、アメリカ国防総省は3Dプリント技術の採用を拡大しており、1ヶ月後には3DプリンターメーカーのExOne社と契約し「ポータブル3Dプリント工場」を開発した。これは40フィートサイズの輸送コンテナ内に収容され、軍人が陸上、空中、海上のいずれにおいても必要備品のスペアを3Dプリントできるシステムだ。

今回のStratasys社とアメリカ海軍の契約では、まず2021年末までに8台の「F900」3Dプリンターを米国海軍基地に出荷する予定となっている。基地では最終的に現場で使われる部品や工具、訓練用具の製造のほか、海軍の航空機のメンテナンスと、地理的に分散した製造施設のネットワークを用いて行われる分散型製造プログラムに活用される。

航空宇宙における「F900」

2018年4月に発売されたStratasys社の3Dプリンター「F900 Pro」は、大型で精度が高く、幅広いアプリケーションに対応可能だ。特にULTEM 9085と呼ばれるような難燃性材料と機械の互換性は、厳しい航空宇宙規制基準を満たす部品製造への展開が期待されている。

たとえばイギリスの国防・情報セキュリティ・航空宇宙関連企業であるBAEシステムズは同社が掲げる「Factory of the Future」の一環として、4番目のStratasys社製F900システムのインストールを発表した。現在イギリスのサムルズベリーにある防衛産業の製造現場に設置された3Dプリンターは、戦闘機のプロトタイプ、工具、および最終用途の部品を製造するために使用されており「大幅なコストと、発注から納品までの時間の削減がもたらされた」と報告されている。

Stratasys社は2020年にラトビアの3Dプリントサービスプロバイダ AM Craft社から、過去最大となる航空宇宙産業関連プロジェクトを受注した。同社から4台のF900の注文を受けたことで実質的にStratasys社内の印刷容量が2倍になり、航空機の座席やパネル、ダクトといった部品の製造が可能になった。

アメリカ海軍の3Dプリントへの野心

アメリカ海軍は、航空機メンテナンス以外においても3Dプリントに多額の投資を行ってきた。それは配備された部隊への備品供給を3Dプリンターによる分散製造で加速させるためだ。

2021年初めにアメリカ海軍大学院はサプライチェーンの柔軟性を高めるための手段としてゼロックス社の新しい液体金属3Dプリンターの機能をテストしていると発表した。

Xerox社の3Dプリンター

また、3Dプリンター関連のソフトウェアの開発者である3YOURMIND社は、NIWC(海軍情報戦争センター)と契約を結び、新しいシームレスな「デジタル制作」ワークフローを開発した。これによりNIWCは、常に警戒を怠らずに、より迅速に脅威に対応できる体制の確立を目指している。

他方、NRL(アメリカ海軍研究所)のエンジニアは3Dプリンターを配備して、アメリカ海軍のレーダー監視機能を進歩させるための鍵となる可能性のある最適化されたアンテナの部品を製造した。3Dプリンターを利用することで、従来の専用機器を使用する場合に比べて、低コストでかつ短期間に専用のアンテナ部品の作成を可能にした。3Dプリンターにより作成された部品は、以前のものよりも大幅に軽量であることも証明されている。

国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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