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大林組 セメント系材料を用いた3Dプリンターで国内最大規模となる構造物の製造に着手

シェル型ベンチイメージ

概要

株式会社大林組(本社:東京都港区)は、3Dプリンター用特殊モルタル(※1)と超高強度繊維補強コンクリートスリムクリート(※2)」を一体化する構造を開発し、セメント系材料を用いた3Dプリンターで国内最大規模となる構造物の製造に着手した。

幅7メートル、奥行き5メートル、高さ2,5メートルのベンチで、外観は貝殻をイメージした シェル型のデザインとなっている。(上記画像は、 設置完了部分にCGを重ねた完成イメージ )

一見モルタルで作られているため、屋根部分など重そうに見え、地震の際など強度の点からも大丈夫なのか?と心配される方もいると思うが、そこは先述の素材となっているモルタルそのものが通常のものとは違う点、超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」の技術、さらに3Dプリンターお得意のトポロジー最適化 (※3) を採用している点で、担保されている。

3Dプリンターによる製造状況

大林組は2017年にロボットアームに取り付けたノズルから3Dプリンター用特殊モルタルを吐出して積層造形する3Dプリンターの開発を発表しているが、現在も引き続き実用化をめざした研究開発を行っている。

今回の発表は、その一環だ。

中でもセメント系材料を用いた3Dプリンターの実用化において一番の課題は、引張力の負担方法の開発だったという。

コンクリートをはじめとする多くのセメント系材料は、主に構造物に生じる圧縮力を負担する。そのため、セメント系材料を構造物に用いる際には、鉄筋コンクリート構造に代表されるように、引張力を負担する鉄筋などの鋼材と組み合わせた複合構造とする必要がある。

今回の構造物は、その課題をクリアした開発の実証例として、外形を3Dプリンター用特殊モルタルで製造した構造物の内部に、引張力を負担できるスリムクリートを流し込む複合構造となっている。

このシェル型ベンチは、12ピースの部材に分割して製造し、部材完成後に設置場所に据え付ける。完成は、2019年10月末を予定しており、完成後に暴露試験をして耐久性などを評価するという。

今回開発した技術の特長

  1. 超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」との複合構造

    スリムクリートは、引張強度が高く、単独でも構造物として使用できるセメント系材料で、常温で硬化する。また、自己充てん性のある材料であることから、3Dプリンター用特殊モルタルで製造した外形の内部に流し込む作業も容易で、鉄筋を人力で配筋する場合と比較して、作業を大幅に軽減することが可能。

  2. 独自の積層制御技術および大型ロボットアームを用いた3Dプリンターの開発

    従来は、3Dプリンター用特殊モルタルの吐出を途中停止することができず、積層経路が一筆書きとなる制約があった。今回、ロボットアームとポンプを連動して制御することで、吐出の開始と停止を自由に行うことが可能となり、一筆書きによらない積層経路による自由な積層造形を実現できるようになった。積層経路は、三次元の設計データから自動的に生成する。また、アーム長約3.0mの大型ロボットアームを導入したことで、大型の部材製造が可能。

  3. 複雑なデザインの実現とトポロジー最適化(※3)による構造的な合理性の追求

    シェル型ベンチのデザインには、「型枠を使用せずに、複雑な形状の部材を製造できる」という3Dプリンターの特長を活かし、曲面や中空を取り入れた。
    また、内部構造の形態の検討に、骨のように軽量で丈夫な形態を導出できるトポロジー最適化と呼ばれる技術を用いることで構造的な合理性も追求した。この技術により、内部構造の中空部分を決定した結果、内部構造を密実とした場合と比較して、構造性能を損なうことなく、重量を約50%軽量化した。
複合構造の概念図

【トポロジー最適化を用いた内部構造の検討】

トポロジー最適化の実行前
トポロジー最適化の実行後

大林組は、お客様の多様なニーズに応えるため、複雑なデザインを実現するだけでなく強度や耐久性も兼ね備えた構造物を製造できる次世代技術の一つとしてセメント系材料を用いた3Dプリンターの研究を進め、将来の実用化をめざす。

注釈

  • ※1 3Dプリンター用特殊モルタル
    デンカ株式会社(本社:東京都中央区、社長:山本学)が開発した特殊なセメント系材料を用いたモルタル。建築物や土木構造物に必要な強度と耐久性を持つとともに、吐出直後でも形状が崩れることなく維持されるチキソトロピー性と呼ばれる性質があることから、型枠を使わずに部材を製造することができる
  • ※2 スリムクリート
    大林組の保有技術である常温硬化型のモルタル材料で、圧縮強度180N/mm²、引張強度8.8N/mm²、曲げ強度32.6N/mm²を達成できる。さらに、引張強度や曲げ強度が高いだけでなく、高い引張靭性を有するため、単独でも構造体としての使用が可能な材料である。スランプフローは600mm程度あり、自己充てん性を有する
  • ※3 トポロジー最適化
    荷重条件に対して、構造物として必要となる部分に材料が分布するような形態を求めることができる。生物の形態を模倣するバイオミメティクスと呼ばれる分野でも用いられ、構造設計では、骨のように丈夫で軽量な形態を導出する際に用いられる

国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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