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BMW、「画期的な」ゲル3Dプリンティング開発社に投資。その背景とは

自動車メーカーのBMW社の戦略的投資部門であるBMWi Ventures社が、3Dプリンター用エラストマー(TPE・TPU・ゴム系)フィラメントの新興企業であるRapid Liquid Print(以下、RLP社)にシードラウンドの資金を提供した。

MITのSelf-AssemblyLabから独占的にライセンス供与されているゲルディスペンシング技術は、フォーム、ゴム、シリコーンなどの業界標準の材料を使用して、柔らかくしなやかな製品の製造を可能にすると言われている。また、RLP社は、MM Catalyst Fund(MMCF)を通じてMassMutualの支援も受けており、この資金調達により製品ポートフォリオの拡大と幅広いマーケティングの両方が可能になると期待されている。 

なぜBMWは投資したのか

BMW iVentures社のMarcusBehrendtCEOは、今回投資した理由について以下のようにコメントしている。

RLP社の画期的なテクノロジーは、あらゆるサイズと複雑なエラストマー構造の高速印刷を可能にすることで、3Dプリンター業界で驚かれている。当社のサポートにより、RLPチームは高品質で低コストのエラストマー製品を作成するというコミットメントを引き続き示すことができる。

このことから、BMWグループとして高品質で低コストのエラストマー部品製造に高い関心があることがわかる。

なぜBMWがRLP社のゲルディスペンシング技術に関心があるのか。ここからは推測ではあるが理由を2つほど記載する。

ひとつめは、段取り替えや後加工なしにソフトで柔軟な製品を生産する革新的なゲルプリント技術を活用することで、3Dプリンターのメリットを最大限に生かすことができる点だ。

そもそも自動車製造におけるエラストマー製品は幅広い用途が想像できる。その中でも、例えばポルシェが展開しているシート部分を顧客にあわせたカスタム製造や、クラシックカーの部品製造など、多品種少量生産が可能なため、より自由造形を可能としたRLP社のゲルプリンティング技術は活躍するのではないか。

ふたつめは、自動車業界におけるカーボンニュートラルの活動に関連があるのではないかと推測した。

自動車産業界は、2021年のCOP26を機会と捉え、脱炭素に大きく舵を切った。脱炭素は直接的にはパワートレインに影響があると考えられているが、電動化によってパワートレインは大幅にシンプルになり低価格化が進むとされる。そして、自動走行が現実的になるに従って競争領域がより人間に近い領域にシフトすることが示唆されている。一言で言うなら自動車はコンパクトなリビングや応接室のような存在になると目されている。

応接室の重厚感は「重量」によって作られている面があるが、自動車の場合は「軽量」であることが求められる。それでいて、人に触れる部分には適切な柔らかさや弾力性のバランスも求められる。一方で、柔らかい車体という提案もある。どんな変化が起きても慌てず、むしろその変化を牽引するための投資にも見えてくる。

ラピッドリキッドプリンティングとは

今回注目されている、後処理がより効率的になった「ラピッドリキッドプリンティング技術」について解説する。

2017年にデザインマイアミでデビューしたゲルディスペンシング技術をベースとしたラピッドリキッドプリンティング(RLP)技術は、液体内に「描画」できる印刷プロセスだ。擬似的な無重力状態での印刷を可能とし、製造時に硬化させることで、サポート材が不要になり最小限の後処理で済む。また、この技術は拡張性が高く、非常に高いスループットで大判部品を製造できるとされている。 

液体の中で作られるエラストマー部品(出展:RLP社)
液体の中で作られるエラストマー部品(出展:RLP社)

RLP社によると、そのアプローチは、速度、ビルドボリューム、従来の信頼性が低い材料の欠陥に制限されないため、従来のエラストマー3Dプリンティング技術よりも優れており、同社はこれを 「気密で高品質な製品」を迅速に3Dプリンティングする「ゲームチェンジャー」になるとしている。

この技術が開発された当初はインテリアデザインの用途に割り当てられていた。しかし、RLP社は「世界中の業界をリードする企業と協力して、その新しい機会を特定し始めている」と述べている。そうすることで、同社は独自のプロセスで医療、靴、航空、自動車の各セクターに参入することを目指しており、新たな資金調達はこれらの計画を実現するために役立つ可能性がある。 

「私たちは何年にもわたって技術を完成させ、3D印刷業界が直面している問題点を解決する製品を構築してきました」とRLP社のSchendyKernizan CEOは述べている。「BMWiVenturesとMMCatalyst Fundからのこの資金提供により、より幅広い市場に多種多様なソリューションを提供する能力を加速させる。」

「RLP技術はデザインの制限を取り除き、大規模で複数のオブジェクトを一度に印刷でき、現在市場に出ている他のどのソリューションよりも高速です。」

BMWの今後の展望

今の段階では、BMWグループとしてRLP社のRLP技術をどう活用していくのかはわからない。しかし、創業段階の会社に前のめりで投資してくる姿勢にはまさに自動車産業界の「ゲームチェンジャー」になる意気込みが感じられる。

関連情報

自動車業界で活用される3Dプリンター

ShareLab編集部

電機メーカー、デジタル地図ベンダーのソフトウエアエンジニア、サービス企画の経験を経て、コンサルティングファームのメンバーとして自動車会社の開発を支援する。予防医学を学び、幹細胞に興味を持つ。3Dプリンターで自身の車や家を作る時代がくることを夢に見ながら日々執筆に勤しむ。

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