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いま日本で購入可能な最大級の造形体積と造形速度を誇るワイヤーDED方式の金属3Dプリンター―米サイアキ

金属3Dプリンターにとって大型造形ができる事は大きな価値だ。では大きいものを最も早く作る事ができる金属3Dプリンターとは何だろう。そんな観点でFormNextTokyo2020の会場を見渡したところ、目に入ってきたのが今回紹介するサイアキ社のワイヤーDED方式の金属3Dプリンターだった。

最大 5.7m × 1.2m × 1.2m の大物造形

国際競争力のある3Dプリンターを開発しようという国策プロジェクトTRAFAMの活動成果として三菱重工工作機械や芝浦機械など各社が1mを超える大型造形が可能な金属3Dプリンターを相次いで発表しており、年々大型造形が可能になってきているが、長さという意味では、米SCIAKY(サイアキ)のワイヤーDED方式の金属3Dプリンターが突出した大きさを発揮している。国内では愛知産業が取り扱うサイアキの金属3Dプリンターの中でも最も大きな造形装置であるEBAM300は最大 5.7m × 1.2m × 1.2m の大物造形が可能で、ビルドレート(造形速度)は最大 13.6kg/hrとのことだ。

金属AMのワイヤーDED方式とは

ワイヤーDED方式は、材料として金属ワイヤーを使用し、エネルギー源として電気アーク、レーザー、または電子ビームなどを利用する金属3Dプリンターの造形方式だ。熱源の種類ごとに、独自のAMプロセス(アークDED、レーザーワイヤーDED、電子ビームDED)に分類される。主なメーカーとしてはWAAM3D、Lincoln Additive Solutions、GKN Aerospace、Sciaky、AddiTec、Gefertec、MX3DAML3Dなどが取り組んでいる他、国内でも三菱電機が開発に取り組んでいる。

金属AMのワイヤーDEDのメリット

多くの場合、ワイヤー原料は金属粉末原料よりも50%程度安く、安全で保管が簡単だという利点がある。金属粉末は表面積が大きいため、環境に影響を受けやすく、空気中に存在する水分、酸素、その他の元素を吸収し材料特性が変化しやすいため、特に日本では湿度の影響に対する対策が必須と言われている。また金属粉は粉塵爆発の危険性や可燃性対策、作業者の吸入による健康被害対策が必要になる。金属ワイヤーではこうした懸念がないため、取り扱いは比較的簡単だといえるだろう。今回は紹介しないが、ロボットアームにワイヤーDEDを積み込んだタイプも市場には存在している。

金属AMのワイヤーDEDのデメリット

ワイヤーDEDはワイヤーを高温で溶かしながら積層していく。そのため形状精度は、粉末床溶融などの他のAM技術ほど高くない。また高い入熱が、高い残留応力と歪みを引き起こし、塑性変形によって幾何学的精度に悪影響を与えやすい。疲労寿命や引張強度の低下など、造形物の機械的特性や性能に劇的な影響を与える可能性は考慮が必要だろう。さらに高温を発生させるという点で、大量の電力を必要とする。

サイアキのEBAM300(金属3Dプリンター)

「EBAM300」サイアキ社ウェブサイトより

「EBAM300」はロッキードマーティン社などでの導入実績があり、チタン、インコネル、ニオブ、銅ニッケル、ステンレス鋼など、さまざまな高価値・難削材を使用する高レベルの研究開発プロジェクトや航空宇宙産業に関連するプロトタイプおよび製造部品の製造などで活用されており、チタンで作られた球形の衛星用燃料タンクなど、軽く強く切削で実現しにくい造形物では数か月かかる調達時のリードタイムを数週間レベルに削減できる破壊的なイノベーションを実現できるとのことだ。また損傷した金属部品や陳腐化した金属部品を現場で修理または再製造して、さまざまなコンポーネントの耐用年数を延ばすことも可能になるととのことだ。

大型造形を早く造形できるサイアキのEBAM300だが、その装置は巨大でものものしい。w7620 ×d 2743 × h3353という大きな装置サイズで、造形時には20-30分かけて造形領域内を真空にする必要がある。

また造形精度は+2mm ~ 6mmと細かい造形には向いておらず、追加工は必須と考えたほうがよさそうだ。先ほど紹介した動画の中でも、杯のような形状の造形物に溝のような積層痕が確認できる。もちろん追加工することで対処できるが、早く大きく高級材を造形できる点を活かしてアプリケーションを選んでいく必要はありそうだ。

ワイヤーDED方式の金属3Dプリンターはニアネットシェイプで効果を発揮

早く・粗く・比較的安価に難削材を造形できるというワイヤーDED方式の金属3Dプリンターは追加工を行うことで、かなり大型の金属部品を造形できる。また金属パーツの補修にも効果を発揮できる。製造現場ではニアネットシェイプ(完成品に近い状態に加工すること)までを電子ビーム式のやワイヤーDED方式の金属3Dプリンターで担当し、最終仕上げを切削加工で行うなどの取り組みがなされているようだ。

大型造形や設置場所や運用環境に左右されにくいという長所をもったワイヤーDED方式の金属3Dプリンターだが、国内でも三菱電機が独自にレーザー式のワイヤーDED方式の金属3Dプリンターを開発中だ。三菱電機の装置は筐体内に5軸の加工台を持ち、レーザーは固定されているようだが、海外ではワイヤーDED方式の熱源を溶接ロボットのようにロボットアームに設置することで、筐体レスで造形するアプローチも見受けられる。大型造形に取り組むアプローチとしてのワイヤーDEDの可能性には今後も注目していきたいところだ。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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