廃PETボトルから「3Dプリントクッキー」へ、米大学が微生物で食品原料化―NASA支援で宇宙食への応用目指す

2026年9月18日
出典:米南イリノイ大学カーボンデール校
出典:米南イリノイ大学カーボンデール校

米南イリノイ大学カーボンデール校(Southern Illinois University Carbondale:SIU Carbondale)の研究チームは、PETプラスチックや農業廃棄物を微生物の働きによって食品原料へ変換し、3Dプリンターでクッキーとして成形する技術を開発した。完成した高タンパク質クッキーは「µBites(マイクロバイツ)」と名付けられている。

研究はNASAが主導する深宇宙向け食料開発プロジェクトの一環として実施されたもので、プラスチック廃棄物のアップサイクルと、資源が限られる環境での食料生産を組み合わせた取り組みである。研究成果は2026年8月23~27日に米シカゴで開催された米国化学会(ACS)の秋季大会「ACS Fall 2026」で発表された。

PETと農業廃棄物を微生物が利用できる原料へ分解

研究チームが着目したのは、飲料ボトルなどに広く使われるポリエチレンテレフタレート(PET)である。PETには多くの炭素が含まれており、これを分解・再構成することで、より価値の高い物質へ変換できる可能性がある。

研究を率いるSIU CarbondaleのLahiru Jayakody准教授らは、PETや廃棄されたトウモロコシの茎・葉などのバイオマスを、「酸化的水熱溶解(oxidative hydrothermal dissolution)」と呼ばれるプロセスで処理した。

これは同大学の地質学教授Ken Anderson氏が開発した技術で、高温・高圧条件下で水と酸素を利用し、分解しにくい物質を微生物が利用できる状態まで細かく分解する。

その後、分解によって得られた物質を、研究チームが改変した酵母に与える。酵母はこれらを利用して、タンパク質や脂質、酸などの食品成分を生産する。

つまり、PETプラスチックを直接食品として利用するのではなく、いったん分解したうえで、その成分を微生物の代謝によって食品原料へと作り替える仕組みである。

食品原料を3Dプリンターで押出成形、「µBites」が完成

研究チームは、微生物によって生産した食品成分に食物繊維、デンプン、甘味料を加え、3Dプリンターから押し出してクッキー状に成形した。

こうして完成したのが、タンパク質を豊富に含む「µBites(マイクロバイツ)」である。

研究データではµBitesの安全性が示されているものの、研究チームは現在、実際に人が食べて味を評価する試験について機関からの承認を待っている段階だ。

一方、香りについてはすでに評価が行われており、多くの参加者が、食料などの資源が限られた状況であれば食べてもよいとの意向を示したという。

研究チームはさらに、非常時だけでなく、一般消費者にも受け入れられる食品にするための改良を進めている。

大学院生のSandhya Jayasekara氏は、植物由来バイオマスからバニラ香味成分を生産できるパン酵母を開発した。また、別の酵母株では、PET由来のエチレングリコールをβカロテンへ変換することにも成功している。βカロテンは体内でビタミンAへ変換される物質である。

NASAの深宇宙食開発から、月・火星での利用も視野

今回の研究は、NASAの「Deep Space Food Challenge」の支援を受けて実施された。

長期間にわたる有人宇宙探査では、地球から大量の食料を運び続けることが難しい。そのため、限られた資源を循環利用しながら、必要な食品や栄養素を現地で生産する技術が重要になる。

研究チームは今後、現在外部から加えているデンプン、食物繊維、甘味料についても微生物によって生産し、µBitesを構成する主要原料の多くを微生物由来にすることを目指している。

Jayakody准教授は、数年以内にµBitesを一般の人が実際に食べられる段階まで開発したいとしており、地球上での食料問題への対応だけでなく、潜水艦などの閉鎖環境、さらに将来的な月・火星の居住施設での利用も想定している。

プラスチック廃棄物を単純に再利用するのではなく、微生物によって食品成分へ変換し、さらに3Dプリンティングで食品として成形する今回の研究は、材料リサイクル、バイオテクノロジー、デジタル製造を組み合わせた新たな資源循環の可能性を示すものといえる。

編集部コメント

「ペットボトルからクッキー」という言葉だけを見ると、プラスチックを溶かして食品に混ぜるような印象を受けるが、実際の仕組みはまったく異なる。PETや農業廃棄物を分解し、それを原料として改変酵母にタンパク質などの食品成分を作らせ、最後に3Dプリンターで成形するという多段階のプロセスである。

特に興味深いのは、3Dプリンターが単なる「変わった形のクッキーを作る装置」として使われているのではない点だ。宇宙空間や災害現場のように、利用できる材料や設備が限られる環境では、現地で得られる原料から必要な食品を必要な形・量で製造できることに意味がある。微生物による原料生産と3Dフードプリンティングを組み合わせることで、将来的には「廃棄物から食料をオンデマンド製造する」という製造システムにつながる可能性がある。

用語解説

PET(ポリエチレンテレフタレート)
飲料用ボトルや食品容器、繊維などに広く使用される熱可塑性ポリエステルの一種。本研究ではPETを直接食品として利用するのではなく、分解した成分を微生物が利用し、タンパク質などの食品成分へ変換している。
酸化的水熱溶解(Oxidative Hydrothermal Dissolution)
高温・高圧条件下で水と酸素を利用し、プラスチックやバイオマスなどの分解しにくい物質をより小さな成分へ分解する処理技術。本研究では、PETや農業廃棄物を酵母が利用できる状態にするために用いられている。
µBites(マイクロバイツ)
SIU Carbondaleの研究チームが開発した高タンパク質の3Dプリント食品。PETや農業廃棄物に由来する成分を微生物によって食品原料へ変換し、食物繊維、デンプン、甘味料などを加えた後、3Dプリンターでクッキー状に成形する。
3Dフードプリンティング
ペースト状やゲル状などの食材をノズルから押し出し、デジタルデータに基づいて積層・成形する技術。形状の自由度だけでなく、栄養成分や食感、1食あたりの量などを調整した食品製造への応用も研究されている。
NASA Deep Space Food Challenge
長期間の有人宇宙探査に向け、限られた資源や設備の中で安全かつ栄養価の高い食品を生産する技術の開発を促進するNASAの取り組み。将来の月・火星探査などを見据え、食料の保存性や資源循環、現地生産などが重要なテーマとなっている。

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