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新型コロナ検査用の綿棒不足問題対策として3Dプリントでつくる高性能綿棒を開発

高密度マイクロファイバー構造の積層造形技術を持つ OPT Industries(オプトインダストリーズ / 米マサチューセッツ州)が、新型コロナ検査用の綿棒不足問題の対策として、優れた溶出性と吸収性をもつ高性能な綿棒を3Dプリンターで製造した。

新型コロナ到来から、鼻腔内の新型コロナウイルス検査用綿棒は多く利用されてきた。しかし、この綿棒は予想していたよりも手に入りにくいという課題があった。2020年5月に米国の118のラボを対象に行った調査では、60%が綿棒の供給に限界があると回答。サプライチェーン上のもっともよくある問題は綿棒の不足であると報告している。
(写真は従来の綿棒との比較/出典:OPT Industries)

綿棒不足問題の解決策として3Dプリンター技術を活用

綿棒の製造に参入したのが、高密度マイクロファイバー構造の積層造形技術を持つ OPT Industries だ。OPT Industries はマサチューセッツ州を拠点とし、従業員15名の小さなスタートアップ企業である。創業者の Jifei Ou(オウ・ジーフェイ)氏(以下、オウ氏)は、マサチューセッツ工科大学のメディアラボで7年間、3Dプリント技術を活用した繊細かつ複雑な構造の高度なエンジニアリング素材を作る研究を実施。卒業後、OPT Industries を設立してから今日までの研究成果を活用した新しいタイプの人工素材を開発してきた。そして2020年3月に「InstaSwab」と名付けた新たな綿棒を開発した。

同社のプリンターとソフトウェアは、綿棒以外のものにも対応しているが、2020年以降は新型コロナウイルス試験で使用する3Dプリント綿棒「InstaSwab」に力を入れている。

3Dプリント綿棒「InstaSwab」の特徴

特許を獲得している3Dプリント綿棒「InstaSwab」は、優れた溶出性と吸収性をもっているところが特徴だ。

サンプルの採取や移送に使用した場合、細菌の溶出量が少なくとも20倍以上となるデータが出ている。これは従来の綿棒のなかでもトップクラスの性能である。例えば、液体と固体の混合物を採取した場合、InstaSwabは捕獲した試料を素早く放出できるが、繊維構造が密な従来の綿棒では試料を閉じ込めてしまい、十分な検査結果を出すことができなかった。新型コロナの審査の際に、素早い溶出性と吸収性は作業効率とともに、正確な診断を出すために必要な要素となる。

従来の綿棒との比較テスト(出典:OPT Industries)

Jifei Ou 氏は、「今回のパンデミックは、当社の技術が貢献できる医療分野を示す機会になった」と語っている。2020年、OPT Industriesは、Kaiser Permanente(カイザーパーマネンテ)や医療製品販売会社 Henry Schein(ヘンリーシャイン)といった商業パートナー向けに、4ヶ月間で80万本の鼻腔綿棒を製造。この試験製造に成功した同社は、さらなる生産能力の向上のため最新のモジュラー機器の使用し、1台の機械で一日に約3万本の綿棒の生産に成功した。

3Dプリンターで製造するメリット

OPT Industries が発表した研究結果によると、3Dプリントで製造された鼻腔用綿棒は、平均で63%のウイルス遺伝子を分析装置に移すことに成功している。(繊維製の綿棒移行率:36%、ポリエステル製の綿棒の移行率:14%)

OPT Industries製「InstantSwab」の性能を従来の2種類の綿棒と比較したグラフ
OPT Industries製「InstantSwab」の性能を従来の2種類の綿棒と比較したグラフ(出典:OPT Industries)

これらの試験はボストン大学メディカルセンターで実施されたが、試験はヒトの新型コロナウイルス患者ではなく、試験管内で行われたものだ。

理論的には、高密度のマイクロファイバー構造で設計された綿棒「InstaSwabs」は鼻や喉の奥にあるウイルスの痕跡をより多く捕獲することが可能。そのため、「感染初期の体内にウィルスが少ない時期に偽陰性を防ぐことができる」とオウ氏は主張している。

臨床検査の偽陽性と偽陰性について(出典:順天堂⼤学医学部附属浦安病院臨床検査医学科)

この綿棒は単一のフォトポリマーから作られており、顧客の要望に応じて長さやデザインなど用途に合わせたカスタマイズ生産ができる。3Dプリンターならではの少量生産にも対応しているため、ネット上で購入も可能。

サンプル事例数種類。用途に合わせて長さや大きさなどを柔軟に変更できる。
サンプル事例(出典:OPT Industries)

OPT Industriesの今後

今後 OPT Industries に求められるのは、3Dプリンターで作れる綿棒の優位性を証明することだ。

  1. 優れた綿棒は本当に感染の初期段階で十分なウイルス RNA(Ribonucleic acid / リボ核酸)を捕獲することができるのか
  2. 高い捕獲率が実際に偽陰性に影響を与えるのか

新型コロナウイルス検査の偽陰性率を推定しようとしている論文は多く存在している。その中で、綿棒自体が検査結果に及ぼす影響の分析では、研究室で使用された2種類の綿棒で偽陰性の結果が出ている。このことから、綿棒の種類は偽陰性率に影響を与えていないとも言われているが、それゆえ実験を重ねていかねばならない。

また別の研究では、綿棒のデザインを変更してより多くのウイルスを捕獲し、綿棒が患者の鼻のなかに留まる時間を短縮することで、検査の最適化に効果があると主張している。

OPT Industries の論文(査読なし)は、同社の綿棒がより多くのウイルスを捕獲できることを主張しているが、そのことがヒトの新型コロナウイルス検査の精度向上につながることを十分に証明できていない。そのため、OPT Industries は今後2つの臨床パートナーと協力し、証明するための臨床研究を実施予定。その結果から、査読付きのジャーナルに掲載してもらうための原稿の準備をおこなっているとのこと。

OPT Industries が3Dプリントで製造した綿棒の優位性を証明した場合、次は市場変化が大きな課題となる。米メディア ウォール・ストリート・ジャーナルは「2021年初春にワクチンが普及し始め、新型コロナウイルス検査の需要が全米で約46%急減した」と報じている。今後、米国のみならずワクチン接種した人の定期検査は減っていくことが予測される。

そこでオウ氏は「在宅検査の領域にはまだ成長の余地がある」と考え、在宅検査キット企業との提携、協力を検討していることを公表している。米国では、検査の大部分が診療所や病院での検査から家庭での検査に移行しており、OPT Industries の綿棒はほとんどすべての体液から検査できるため、在宅検査にも対応が可能となる。

すでにいくつかの在宅検査キット企業と提携関係を構築しているとのこと。新型コロナウイルスに限らず、在宅検査キットの分野には、最近では大手通販サイトで有名な米多国籍テクノロジー企業 Amazon など、興味深い企業が参入している。また、Amazon は新型コロナウイルスと性感染症の在宅検査キットを販売する予定もある。

パンデミック後も OPT Industries は在宅検査の市場へ展開していくことで、綿棒需要に対応できるように準備を進めている。

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シェアラボ編集部

3Dプリンターの繊細で創造性豊かなところに惹かれます。そんな3Dプリンターの可能性や魅力を少しでも多くの人に伝えられるような執筆を心がけています。

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