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金属3Dプリンターの巨人が日本のモノづくりにもたらすもの(後編)―EOS Electro Optical Systems Japan

TCT Japan 2020参加企業をめぐる取材特集としてEOS Japanのお話を前編・後編にわけてお届けする。後編にあたる今回は、Jack Wu(ジャック・ウー)氏にお話を伺った。同氏はEOSシンガポール支社から日本にAM(積層造形技術を活用したモノづくり)の生態系を構築するために転勤してきたという。世界的3Dプリンター企業であるEOS社が、アジア市場および日本市場をどのように観ているのか。お話を伺った。

* * *

私は、EOSのアジア地域を担当するジャック・ウーです。2010年からEOSに参画し台湾、中国、シンガポールでAMに関する仕事を手掛けてきました。その経験から日本の市場に関してお話したいと思います。

「AMジャーニー」は万国共通

「日本市場はAMへの取り組みが遅れている」、「日本はAMになじまない特殊な事情がある」といわれているようですが、私たちEOSはそう考えていません。既にモノづくりを行っている企業にとって、新しい技術を受け入れ製造ラインに乗せるには一定のプロセスが必要ですし、そのプロセスは万国共通だからです。私たちはそのプロセスを旅に例えて「AMジャーニー」と呼んでいます。

AMジャーニー画像
「AMジャーニー」は万国共通のモノづくりのAM化プロセスだ。

 多くの企業は、AM技術がない段階から「モノづくり」を行っていたわけですから、AMが「どんな成長機会を生み出せるか」という導入の必要性を理解しない限り、取り入れる動きは始まりません。出発時点ではAMに取り組む必然性がないのです。次に「自社の製造工程の何に適用できるか」というアプリケーションの想定と、実際に活用するために何が必要か、検討することになります。実際に一台導入してテスト導入・テスト稼働させた後に、試作なり量産に用いていく。そして少しづつ適用範囲を広げていく。

こうした共通の上記のようなプロセスを一歩一歩たしかめながら進んでいく必要があるはずです。それがAMジャーニーです。

EOSは早い段階から3Dプリンターの活用を自社に当てはめる検討プロセスの支援を行ってきました。世界中で3500以上、日本だけでも200以上の導入実績があり、そのほとんどで上記のような検討プロセスをコンサルテーション部隊が支援してきました。

日本は非常にまっとうな方法で時間をかけてAMへの取り組みを検討していると思います。その検討プロセスは上記のような原理原則にのとったものだと思います。私たちがAMジャーニーと呼んでいるAMへの取り組みをどう定着化させるか、考える長い道のりにいるのです。

早い段階から取り組んだヨーロッパ、野心的に挑戦したアメリカ

Jack Wu氏( 写真右 )
「AMジャーニー」に関して EOS Singapore Pte Ltd のJack Wu氏( 写真右 )
EOS Electro Optical Systems Japanのリージョナルマネージャー 橋爪 康晃氏(写真左)

ヨーロッパやアメリカではAMへの取り組みが早い段階から行われていました。よく金属3Dプリンターではドイツを中心としたヨーロッパ勢が、樹脂3Dプリンターではアメリカ勢が勢いがあるといわれていますが、いずれも日本や中国、そして他のアジア諸国の量産化能力への危機意識から挑戦を強いられたものでした。ヨーロッパでも自動車メーカーは検討に時間をかけていますが、スタートが早かったのです。アメリカはベンチャー企業を中心にもっと野心的に取り組むケースもあります。ですが既存の取り組みで量産を成功させている分野への反映はきちんと手順を踏んでいます。そこは世界共通なのです。

私たちはアジアマーケットをで日本・中国を同じくらい重要に思っています。その次にインド、シンガポールが続きます。その理由としては市場拡大への期待があります。左記に市場が急拡大したのは中国です。

政府支援で爆発的にすすんだ中国の3Dプリンター導入

中国では特殊な事情があり、政府が3Dプリンターの導入に多額の補助金を用意し、導入を強力に支援しました。その結果「何に使えるのか」、「どのようにデータを用意するのか」、「自社の現在の生産設備とどのように調和を図るのか」等々の検討を全くせずに、とりあえずスペックの高い3Dプリンターを導入するという非常に特殊な形での導入ラッシュがおこりました。

何を作るために導入するか、ではなく政府の助成金があるうちに導入してしまい、その後で使い方を考えようという動きです。

Jack Wu氏
中国はアプリケーションのマーケットではなかった。

この助成金を目当てに、金額も高額なものから低額なものまで非常に多種多様な市場が爆発的に発生したのです。まさにカオスです。このような市場はダイナミックではありますが、導入のされ方としては健全ではありません。導入後に企業が活用方法を考えるのですから。

私たちは常々、AMとは3Dプリンターを導入することではない、というメッセージを発信してきました。3Dプリンターを活用することで、事業にプラスの影響を与えることが大事だというメッセージです。それが健全だと思うのです。

健全に検討を重ねて「3年から5年」かけて導入を進める日本の民間企業

日本はそういう意味で、非常に健全なプロセスで、自社の現在実現している品質を落とさずに、新しいAMへの取り組みを始めています。水面下で多くの企業が、AMという製造方式による付加価値向上やイノベーションを検討しているのです。検討に3年から5年かけているという、検討の時間の長さは日本人の考える安全や品質への姿勢の表れでしょう。それだけ日本のモノづくりでは重要視されているのです。

こうした水面下での検討はR&D部隊を置き、自社で研究開発を旺盛に進めている大企業ほど積極的です。ごく少数ですが、自社で0からAMに関してノウハウを積み上げる姿勢の企業も存在します。一方で多くの企業は1週間から2週間の短期間のコンサルテーションや長期にわたる共同作業など、程度や内容は異なりますが、積極的に私たちの支援を受け入れ、導入を検討を進めています。その件数はすでに20件以上にも上ります。

私たちというガイドと供に、AMジャーニーを着実に進んでいるのです。3Dプリンター自体は二の次です。AMという新しい技術をどのように理解し、受け入れ、自社で活用していくのか。その道筋をきちんと検討し、積極的に取り組んでいく事が重要だと思います。そうした水面下での取り組みを経て、日本でも段階的に公表される事例が増えていくと思います。もうすでに旅は始まっているのです。

* * *

恥ずかしながらこの取材の前までは、「EOS=金属3Dプリンターのメーカー」という印象しかなかった。樹脂も扱っている事、コンサルに力を入れ、AMの生態系を作ろうとしている事など、今回はその一端を伺うことができた。TCT Japan 2020では、こうしたEOSの取り組みに直接触れることができる。

日本でも既に200を超える導入実績があり、豊富な知見の多くはNDAがあるので大々的には公表ができないものの、具体的な相談をすれば適切なヒントを返してくれるはずだ。その時に具体的な指針を示してくれるのが、AMジャーニーという考え方だろう。

導入までのロードマップには、そこで何を検証するべきかというタスクの一覧も紐づいている。当然、その検証項目も存在している。実績がある企業への相談というメリットを十分に生かして、自社のAM活用を推進したい担当者の強い味方になってくれるに違いない。

TCT Japan 2020のEOS/NTTデータエンジニアリングシステムズのブースでは、日本初公開となる造形サンプルや欧州ですでに実現しているAM無人工場の動画が公開される予定と聞いている。マテハンまでロボットがやってくれる完全自動化工場がすでに実現している!非常に興味深い事例だ。シェアラボ編集部でも会期中に改めて訪れたいと思う。

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編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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