1. HOME
  2. 業界ニュースTOP
  3. 『500倍速く90%安い』国産金属3Dプリンターで世界の市場を塗り替えるーSUN METALON西岡和彦氏

『500倍速く90%安い』国産金属3Dプリンターで世界の市場を塗り替えるーSUN METALON西岡和彦氏

SUN METARON 西岡和彦氏

日本は3Dプリンターを活用したモノづくりが遅れているといわれている。しかしそんな中でも気炎を吐く装置メーカーやAM技術を活用したモノづくりを行うメーカーも当然存在する。日本から世界を相手にAM技術で商品やサービスを提供しようという人や企業がいることを取り上げていきたいのがこの企画だ。

第一弾は従来の金属3Dプリンターの500倍の造形速度と90%のコストダウンを実現することを標榜するSUN METALON(サンメタロン)社を取り上げる。代表の西岡和彦氏は、当初からアメリカのマーケットを念頭におき活動を進めており、まだ技術の詳細は明かせないということだったが、創業2年弱ですでに累計800万ドル(日本円で10億円以上)の資金調達を行い、急速に体制を拡大している。同社の取り組みを代表の西岡氏に伺った。

***

SUN METALON 創業のきっかけはアフリカでの原体験

シェアラボ編集部:そもそも何を目指して起業されたんでしょうか?創業のきっかけや経緯を教えてください。

西岡氏:大学3年生の時に、1年間休学し世界を旅する中で、アフリカの孤児院で3ヶ月、ボランティアをしました。アフリカの人々は貧困の中で苦しい生活を送っているのですが、ほかの国からの経済支援が当たり前になっていることで、自力でなんとかしようという意識がなくなっている姿を目にしました。荒野と太陽の光しかないアフリカで、現地でも無理なく継続できる産業を作りたいという気持ちを強く持ちました。実はその体験がこの事業の出発地点です。

原体験はアフリカと語るSUN METALON西岡氏
原体験はアフリカと語るSUN METALON西岡氏

その後、新日鉄(現日本製鉄)に入社し、会社員としての生活を送っていたのですが、ある時ふと全く新しい金属3Dプリンターの着想を得ました。会社でも金属3Dプリンターに関する取り組みは行っておらず、自分が担当していた事業とは全く関係もなかったのですが、思いついてしまったんですね。で実際にその原理を非常に安価な器具で実験してみると、金属が造形できてしまいました。

SUN METALONの技術的優位性は500倍速く90%安い金属造形

「面で光を当てるような仕組みですか?」と聞いたところ「そう見える絵になっているがまったく違う仕組み」との回答。

会社の事業とは全く異なる取り組みでしたので、サークル的に休日を利用して仲間を集め、実験を行ったり特許を出願したりと活動を行いました。在籍していた日本製鉄の知財部門にも、会社の活動と抵触するかを確認の上、個人的な取り組みとして問題がないことを公認してもらった上で、特許を出願しています。

シェアラボ編集部:すごいクリーンですね。具体的などんな技術ですか?

西岡氏:私たちの技術に関しては、詳細は説明できません。3Dプリンター分野の特許に関しては、非常に縛りがきついのですが、競合に真似をされるリスクはあるため、現時点では詳しい原理をお伝えしないことにしています。今できていることをお伝えすると、パウダー材料から金属部品を造形できます。将来は、鉱石から金属部品を造形できるようにしたいと思っています。私たちの装置の原理からすると可能なのですが、鉱石から直接部品を造形するまでにはまだ時間がかかりそうです。詳細をまだ公開できないのが本当に申し訳ないところです。

シェアラボ編集部:いままで点で造形していたものを面で造形するという説明を拝見しましたが、正しいですか?

パンケーキのように積み重なる造形サンプル。この1層が2分で造形できるという。
パンケーキのように積み重なる造形サンプル。この1層が2分で造形できるという。

西岡氏:おそらく皆さんが想像するのとちょっと違うと思います。例えばこの金属部品、層が重なっていますが、この1層を2分で造形できます。実は立体的に造形しているんです。詳しい原理はお伝え出来ずすみません。

シェアラボ編集部:この1層が2分!とにかく早いですね。

SUN METALONのめざすものは世界に広がる補修部品市場

西岡氏:これほど単純な形状のサンプルは、ほかの装置メーカーは作らないと思います。より複雑なメッシュ構造だったり、精密なサンプルを提示されるかと思います。我々も内部流路はもちろん製造可能ですが、こんなに簡単なバルク形状のものであっても、特殊事情が絡み、コストが下がれば3Dプリンターで作る意義があり、引き合いをいただいています。大幅にコストが下げ、3Dプリントを市民化できるのが我々の技術の特徴です。

シェアラボ編集部:確かに3Dプリンターの造形サンプルというと、ラティスや内部流路が代表的ですね。では話題を変えて、この装置で実現できること、したいことは何でしょうか?

西岡氏:私たちは地産地消と表現していますが、アフリカの荒野や火星で金属部品を生産できると、輸送コストが削減できます。たとえば資源を採掘している鉱山では非常に巨大な建機が稼働していますが、都市から数百キロから数千キロ離れている場合もあります。巨大な建機で一日数億円の資源を掘り起こしている巨大な採掘場もありますが、そこで稼働している建機が故障すると、大きな機会損失につながります。そんなとき、正式な補修部品が届くまでのつなぎでよいので、代替部品を素早く造形できると、機会損失を回避できるわけです。

高精度なモノづくりではなく、一般的な部品を素早く安く作ることを狙う
高精度なモノづくりではなく、一般的な部品を素早く安く作ることを狙う

シェアラボ編集部:他の手段がないアフリカや火星でも金属部品が生産できる装置があれば、産業になりますね。

西岡氏:そうです。私たちは現地の資源で、工場や生産設備から遠く離れた環境でも金属部品を製造できる装置として、金属3Dプリンターを開発しています。だから地産地消という言葉を使っているんですね。

丁度、世の中の金属3Dプリンターが高精度で精緻な部品を造形しようという動きにあると思うのですが、私たちは全く逆です。より汎用的な金属部品を、素早く安価に造形しようとしています。なぜならロケットや衛星部品よりも自動車や建機に使う、汎用部品の方が圧倒的に大きい市場だからです。もちろん部品を使う箇所によっても差が大きく存在しますが、造形できる金属の密度が99.9%も必要なく98%でよい部品の方が圧倒的に多いわけです。

金属3Dプリンター製部品のコストは設備代金の減価償却と材料費が大半。造形速度が圧倒的に早くなれば、チャージ代を削減でき安価な造形が可能になる。
金属3Dプリンター製部品のコストは設備代金の減価償却と材料費が大半。造形速度が圧倒的に早くなれば、チャージ代を削減でき安価な造形が可能になる。

そしてこの部品を圧倒的に安く造形するには、原価にあたる単位時間当たりの装置の利用価格を安くし、材料を安くする必要があります。装置の利用価格は、一時間当たりの生産性によって変動します。つまり同じ1億円でも造形速度が遅いと、マシンチャージが高くつきます。私たちは素早く造形できる装置をつくることで、マシンチャージを圧倒的に安くしました。500倍速く造形できるので、コストが90%OFFできるわけです。

また材料パウダーをどこのメーカーのパウダーでも利用できるようにすることで、業界最安水準の材料でも利用できるようにしました。他にかかる経費は作業するオペレーターの人件費と電気代ぐらいです。

シェアラボ編集部:かなりの手ごたえを得ていらっしゃる様子が伝わってきますが、実際顧客や業界の反応はいかがでしたか?

西岡氏:この着想を得てから私たちは海外の3Dプリンターメーカー大手の経営経験のあるキーマンに着想とサンプルを見せながら話をしました。すぐにEOSと3DシステムズのCEOや経営幹部経験がある2人がアドバイザリーとしてチームに加わってくれました。具体的な社名は明かせませんが、日米欧のトップものづくりメーカーから、数10に渡る具体的な金属部品の造形に関する検討依頼を日々頂戴しており、それぞれ1日も早い量産化に向けて取り組んでいます。

アドバイザーに東大の杉田教授、元EOS社のCEOのAdrian Keppler氏、3Dシステムズ社のMark Cook氏らが名を連ねる
アドバイザーに東大の杉田教授、元EOS社のCEOのAdrian Keppler氏、3Dシステムズ社のMark Cook氏らが名を連ねる

この装置は世界を一変させる可能性がある、そう感じています。構想段階では技術的に実現できるかは30%か40%程度の見込みしかありませんでしたが、優秀なチームメンバーが参加してくれたことで、いまは確信しかありません。

シェアラボ編集部:自信にあふれたお言葉は大変心強いですね。ところで装置は日本で作っているんでしょうか?

西岡氏:はい。静岡のOEMやレースカーを1人で作ってしまうエンジニアなど、日本にはすごい技術をもった人たちがごろごろいます。その方たちの力を借りながら、装置の開発・製造は日本で行い、販売先はアメリカを中心とした海外で行っていくという予定です。

SUN METALON の今後の展望

シェアラボ編集部:すごく方向性が明確ですね。ご自身ではいまどんな事業フェーズだとお考えですか?

西岡氏:現状は試作機を製作している段階ですが、すでに数台納入予定です。実は12月には初号機を納品します。まだ改善しなければならない点が多いのですが、問題ないから早く欲しいという声が日本の企業からも海外の企業からも寄せられています。まだ名前を公開はできないのですが、国内で大手企業にも数台納入して、その後はアメリカを中心とした海外でも展開していきます。当初思い描いていた計画よりも数か月前倒しで動いています。それだけ多くの反響をいただいている状況です。実は昨日も装置の構造を大幅に単純化できるアイディアがチームから出てきました。全世界で使っていただけるように、とにかく手間がかからないように改良を続けています。日々装置は進化しています。

すでに国内のファーストクライアントへの納入が間近に控えているという西岡氏

シェアラボ編集部:かなり手ごたえが良いんですね。研究開発フェーズでも装置を販売し、リスクマネーだけでなくその売上も活用して、さらに新しい機能開発や改善をおこなっていくというスタンスなんですね。ちなみに1年後の目標は何ですか?

西岡氏:1年後の目標は量産が可能な金属3Dプリンターとして市場に装置を送り出すことです。私たちの装置はPBF方式の装置のような精緻なモノづくりを目指していません。むしろバインダージェット方式の装置が目指すような量産や早いモノづくりを目指す装置です。バインダージェット方式は我々よりも低速(特に3Dプリント後の後工程)であり精度も同程度であることを考えると、私たちの方式でそのシェアを取り込み、更に拡大できると思っています。

特許で技術を守っているとはいえ、最速での事業の拡大を目指します。ニーズは世界中にあり、より早く、より大きく世界を変えることにチャレンジし続けます。火星とアフリカで当社の装置が何百台と稼働し、必要な金属部品が地産地消されている世界を、1秒でも早く実現したいですね。

シェアラボ編集部:世界を変えるという気概が伝わってきます。創業時は何人で取り組んでいましたか?現在は何人くらいでご活動ですか?

西岡氏:創業時は4名ですね。いまはパートや業務委託を含めると30人以上で取り組んでいます。世界には1年で2,000名を採用するスタートアップもあります。私たちも、まずはプロダクト・マーケット・フィットを実現し、その後グロース段階においては超速での成長を目指していきます。

***

西岡氏は技術的な革新や具体的な顧客に関しては言葉を選びながらも、私たちの質問に誠実に答えてくれた。それだけ今が同社にとって大事な時期なのだろう。すでにファーストクライアントへの納品が間近に迫っているということだったが、同社から導入初号機の発表があるかもしれない。時期が許せば是非、技術的な面でも取り組み内容を伺いたいと思う。(秘伝の粉に関しても是非!)

SUN METALONの関連記事

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

3Dプリンター国内市場の最新動向レポート 無料ダウンロード

関連記事

3Dプリンター国内市場の最新動向レポート 無料ダウンロード

最新記事

おすすめ記事