ShareLab NEWSハイライト記事 ー 2022年12月

毎日こまめに3Dプリンター関連のニュースを追いかけるには、時間と労力が必要だ。そこでShareLab NEWS編集部では月に1回、その月で何があったかをまとめるハイライト記事をまとめている。2022年12月は注目動向と合わせて、改めて昨年2022年の注目イベントであったJIMTOF2022のポイントを紹介する。
2022年は建築3Dプリンター大躍進の一年
2022年を振り返って、特に印象深いのは、日本における建築用3Dプリンターの大躍進だ。
土木分野ではPolyuseが、住宅分野ではセレンディクスが日本の建築基準法対応という大きな壁に挑戦し、実証実験という形で相次いで風穴を開けた。Polyuseもセレンディクスもベンチャー起業家がヴィジョン先行で、事業を立ち上げゼロから事業を具現化している。ポリウスもセレンディクスも共通しているのは、業界の生態系を作り出そうとしている点だ。自社単独で事業を進めるのではなく、既存の建築・住宅業界のプレイヤーとのアライアンスで着実に事業を根付かせようとしている。また官との関係をおろそかにせず、丁寧な関係構築を進めている点にも老練さすら感じるほどだ。
300万円で住宅を建設できる時代を切り開くことを標榜するセレンディクスは慶応大学と連携して住宅のモデル開発を推進するほか、世界5カ所で同時に同じ部品を製造するという取り組みを行った。すでにセレンディクスには1000件を超える問い合わせが寄せられており、供給体制の整備が急務だったわけだが、建築用3Dプリンターを持っていれば世界中で並行生産できることを秘めしたことで、輸入と現地住宅・建築会社による製造の両方を視野に入れることができたことになる。現地で完全に製造する以外に工場生産された部材を組み立てるなどの方式で、大きな受注を捌く事業推進体制を構築できることは、短期間に大きな市場を切り開くポテンシャルを感じさせる取り組みとなっている。
★NASAが月面インフラ建設のための3Dプリンティング技術の研究と開発に投資ー総額5,720万ドルをICON社に発注
世界でも着々、住宅・建築分野での取り組みが進んでいる。NASAが、アメリカのテキサス州を拠点とする建築用3Dプリンター装置メーカーICON社に対し、月面の住居、道路を建てる施工技術など、インフラ建設のための研究開発を5,720万ドル(日本円で約78億円。1ドル136円で換算)で発注した。この契約はNASAの、月での人類の持続的な活動を目指す「アルテミス計画」の一環として行われる。
ICON社は、本格的な2階建て住宅の製造を可能にするために設計された建設用3Dプリンターの「Vulcan」を開発し、NASAでも採用されているが、アルテミス計画においては、すでにロケットエンジンや月着陸船の開発で3Dプリンターが導入されているが、今回の契約ではさらに一歩踏み込んだ「地球外の素材で建造物を作ること」が目標だ。今回の契約はICON社の宇宙環境での施工システムコンセプト「Project Olympus」を踏まえたものだ。月の表面を覆うレゴリスという土砂のような物質や岩石といった、月で入手できる資源を用いて建造物を作ることを目指すという。
ICON社は、今回のNASAとの契約について、以下のように述べている。「宇宙探査のパラダイムを「行って帰ってくる」から「滞在する」に変えるには、月や他の惑星の地域資源を利用できる、堅牢で弾力性があり、幅広い能力を持つシステムが必要です。私たちのこれまでの研究とエンジニアリングによって、そのようなシステムが実際に可能であることが示されたことを嬉しく思っています。」
着実に3Dプリンティング技術を活用した取り組みが具現化しようとしている中で、宇宙で建築物を作るというSFも着々と現実のものになろうとしていると言えるだろう。
★再生プラスチックから作る環境にやさしい3Dプリント住宅を建設するAzure社に注目が集まる
アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を構え、再生プラスチックを建築素材とする3Dプリント住宅メーカーのAzure社に対し、持続可能性の面を中心に注目が集まっている。Azure社の3Dプリント住宅は、既存の建設方法よりも70%速く、20~30%安く建てられるという。Azure社は、3Dプリント技術とリサイクルプラスチックの力を活用して、裏庭に設置する小型のスタジオやオフィス(バックヤードオフィス)、ADU(Accessory Dwelling Units)と呼ばれる補助住居ユニットや住宅そのものを建築している。コストは従来の工法に比べて20~30%安く、建築にかかる時間は70%も削減できるという。
建物のサイズは、バックヤードスタジオが120平方フィートで、ADUは180平方フィートから900平方フィートのものまである。価格はバックヤードオフィスが、26,900ドル(約380万円)から、ADUは43,900ドル(約620万円)から用意されている。通常の住宅建設には木材をはじめとした多くの資源が使われ、建設業界全体で見ると世界の総炭素排出量の約20%にのぼるとされている。新しい素材の代わりに再生プラスチックを建築材料とする住宅は、建築業界の「持続可能な方法」といえるだろう。
★建設用3Dプリンターによる建築サービス「DDD.homes」が開始、第一弾は国産3Dプリンター製サウナ
神奈川県横浜市に本社を置くデザイン会社の有限会社光巨プロジェクト(以下、光巨プロジェクト社)は、東京都港区に本社を置く、日本初の3Dプリンターメーカーである株式会社Polyuse(以下、Polyuse社)と協業し、建設用3Dプリンターによる建築サービス「DDD.homes」を開始した。プロジェクト第一弾として、横浜市で行われたウェルビーイングを体感するイベント「ハマウェル」にて、世界初となる国産3Dプリンター製のサウナを発表した。
ウェルビーイングは、心や体、そして社会的にも健康的でいられることを表す言葉。コロナ禍では、サテライトオフィスや狭小住宅といった自宅でも会社でもない、第三の拠点に注目が集まった。また、近年は震災や豪雨が頻発し、自然災害への不安が高まっている。「DDD.homes」発足のきっかけは、これら2つの課題に、建設用の3Dプリンターを用いることでいち早く対応できるのではないかという思いからだという。デザイン会社として新しいモノ・コトを生み出す光巨プロジェクト社と、日本製の3DプリンターメーカーのPolyuse社が協力することで、まだ世の中にはない新しい価値の創造を目指す。
デンタル業界で注目される3Dプリンティング技術
医療分野で活用されていると言われる3Dプリンティング技術だが、具体的に活用されている領域の一つが歯科分野だ。
歯科分野での3Dプリンター活用と今後の可能性-倉繁歯科技工所
有限会社倉繁歯科技工所は、創業60年以上の歴史を持ち、熟練の技術と最先端の技術を融合した歯科技工物(入れ歯や被せ物)を製作している歯科技工所だ。
他の業界に比べて3Dプリンタ―活用が比較的進んでいる医療分野であるが、医療認証を得た金属3Dプリンターを導入している国内の歯科技工所は、倉繁歯科技工所を含めて2022年11月時点では2社のみである。先日の記事(「3Dプリンター なぜ普及しない?」業界団体に聞いてわかった5つの理由)でも触れたとおり、海外と比較して日本国内で3Dプリンティング・AM技術がなかなか浸透していないと言われている。
ただ、そんな中でも新たな技術を用いて、抱えている悩みや課題を解決できないかと、挑戦している企業がいる。今回取材に対応いただいた倉繁歯科技工所が正しくその一社だ。既存の技術に適応する形で整備されている法規則や制度の中で、3Dプリンティング/AM技術という最新の加工・製造方法が浸透するのは容易いことではないが、既存の技術でないからこそ解決できる課題がそこにはあり、同社のような先駆者たちの挑戦があってこそ、「わたしたちも3Dプリンタ―を使ってみよう/使わなければ」と考え、次に続く企業が現れ、最後には業界標準になっていくのではないだろうか。
3Dプリンターでスペア入れ歯を作製!1年で500個突破ー株式会社お守り入れ歯
北海道で入れ歯を3Dプリンターで造形する事業に取り組んでいるのが、株式会社お守り入れ歯だ。
北海道札幌市に本社を置く株式会社お守り入れ歯が実施している、スペアの入れ歯を3Dプリンターで製作するサービスが、2021年9月のサービス開始以来、累計で500個の製作数を突破した。スペア入れ歯製作サービスは、現在使っている入れ歯を3Dスキャナーで細部まで読み取ってデータ化し、3Dプリンターで全く同じ形のプラスチック入れ歯を複製するものだ。サービスを受ける流れとしては、電話、インターネット、LINEで申し込みを行い、問診後に入れ歯を預け、デジタルコピーを行う。問診はオンラインでも可能だ。データを取った入れ歯は返却される。完成したスペア入れ歯は、必要に応じて歯科医院で調整が行われ、ユーザーの手に届く。従来の入れ歯製作が、通院をしながら1か月ほどかけて行うのに対し、お守り入れ歯社のスペア入れ歯は1~14日と短期間で作成可能で、オンライン診療を選択すれば一度も通院する必要はない。入れ歯の受け渡しは、郵送にも対応している。
サイト上でも気になる情報は説明されていた。値段などが気になるところだが、なんと3Dスキャニングしてデジタルデータを起こすところまでは無料だった。入れ歯がないと困る人は、予約して北海道の指定の場所でスキャニングを行うことで、手元にない期間をなくすこともできるようだ。治療と旅行をセットで行うメディカルツーリズムという形態があるようで、日本はその受け入れ先としても有名だが、入れ歯も旅行資源になるかもしれない。
★患者向けに3Dプリンターで歯ブラシのグリップをカスタマイズする研究ーMNR Dental College and Hospital(インド)
患者向けに3Dプリンターで歯ブラシのグリップをカスタマイズする研究ーMNR Dental College and Hospital(インド)
健常者にとってはなんでもない歯を磨くという行為だが、加齢や関節炎、脳卒中の影響で身体機能が低下した患者にとっては、歯ブラシを握るだけでも一苦労する。握力が衰え、適切な力で歯ブラシを握り、ブラッシングを行うことが大変な重労働だ。そうなれば口腔内の健康維持が困難になり、歯肉炎や歯周炎の発生リスクが増大し、口腔衛生が悪化すると感覚や咀嚼機能も損なわれるので、栄養失調の原因にもつながってくる。百害あって一利なしだ。このように患者の健康維持のために、歯や入れ歯の適切なブラッシングは不可欠な要素だが、ちゃんと歯を磨きたくても体が思うように動かない患者でも歯を磨きやすい歯ブラシがなければ問題は解決しない。
身体能力が低下してもちゃんと歯磨きできる歯ブラシは健康維持の観点から無視できない問題だ。患者にとって握りやすい歯ブラシ開発の取り組んできたMNR Dental College and Hospitalの研究チームが発表したのが3Dプリンターで作製する歯ブラシグリップだ。市販の歯ブラシの柄の部分をシリコン製のパテで覆い、患者に歯を磨く際と同じように、力の入るかたちで握ってもらう。その際に得た型をデータ化し、その後、低コストで強度に優れたポリ乳酸(PLA)を素材に3Dプリントする。
Cureus上での発表された作製モデルでは、3Dデータ化にはMaterialise NV社の3Dプリント用ソフトウェア「Mimics」が、造形する3DプリンターにはUltimaker 社の「Ultimaker 2+」が用いられている。作製した3Dプリント製のグリップは、歯ブラシにはめ込むアタッチメントとして使用できるので、使い古した歯ブラシを交換しての再利用も可能だ。3Dプリントグリップに補助パーツを用いることで、歯間ブラシのグリップにもできる。3Dプリンターを活用することで、介護をする際の介助具や患者で自分の面倒を見る自助具を用意することができるというわけだ。
3Dプリンター製のマウスピース矯正で日本を変える!株式会社フィルダクト
3Dプリンターは個人に合わせたカスタムメイドが得意なため、歯科分野での活用が広がっている。そんな歯科分野で注目を集めている企業が、マウスピース矯正「DPEARL」の企画・運営を行っている株式会社フィルダクトだ。
「マウスピース矯正という手法は、一般的に歯型を取ったデータをもとにCADソフトで治療計画を作成し、3Dプリンターで歯の模型を製造します。そして、今の歯よりも数ミリ動かした模型の上にシートを圧接してマウスピースを作成し、歯科矯正に用いる流れです。ここまではマウスピース矯正に共通した工程ですが、そもそもマウスピース矯正は対応できる幅が狭いんです。それを当社は前歯だけでなく奥歯の方まで対応して、噛み合わせや歯の小さい動きにも細かく対応できるアタッチメントなどを充実させ、他のサービスよりも対応症例の幅が広く、治療期間も短くできるプロダクトづくりに励んでいます。また、治療の過程で大量に必要となる歯型を歯科用の3Dプリンターで作っています。」 (金子氏)
デンタル以外にも!バイオ3Dプリンターで再生医療をけん引するベンチャーCyfuseが東証グロースに上場
九州大学発の再生医療ベンチャー企業Cyfuse(サイフューズ)が、2022年12月1日、東証グロース市場に上場した。Cyfuseはバイオ3Dプリンターの開発やバイオ3Dプリンターを用いた医薬品の開発を行っている。
サイフューズの将来構想の中で、デバイス販売(つまりバイオ3Dプリンターの販売)の割合はグラフからは20%以下程度のように読めるが、すでに装置開発は第3世代まで進化を遂げているという。ラボ機から臨床機、商用機と着実にステップを踏んでいることが伝わってくる。工業製品でいうところの最終部品製造を安定的にこなす装置開発に入っている段階だ。その次のステップは量産機といえるだろう。細胞培養装置を開発する医療機器メーカーでもあり、自社開発の培養器による組織・臓器製造を行うサービスビューロでもあるサイフューズ。当面は難しいかもしれないが、大量製造できるようになれば、手に届く価格に落ち着いてくる可能性もでてくるだろう。サイフューズの今後の躍進が、よりよい医療の実現につながるのであれば、ぜひ積極的に応援したいところだ。
★『500倍速く90%安い』国産金属3Dプリンターで世界の市場を塗り替えるーSUN METALON西岡和彦氏
代表の西岡和彦氏は、当初からアメリカのマーケットを念頭におき活動を進めており、まだ技術の詳細は明かせないということだったが、創業2年弱ですでに累計800万ドル(日本円で10億円以上)の資金調達を行い、急速に体制を拡大している。西岡氏は技術的な革新や具体的な顧客に関しては言葉を選びながらも、私たちの質問に誠実に答えてくれた。それだけ今が同社にとって大事な時期なのだろう。すでにファーストクライアントへの納品が間近に迫っているということだったが、同社から導入初号機の発表があるかもしれない。
横浜国立大学の研究チームが3Dプリンターで導電性の高い「3次元フレキシブル配線」を作製
横浜国立大学の向井理特任助教、丸尾昭二教授らの研究グループは、研究チームが、柔軟性と導電性に優れた「3次元フレキシブル配線」の作製に成功した。導電性は先行研究時と比べ100倍以上になった。さらにはピンセットで曲げられるほどの柔軟性を持つ点にも特徴がある。今後は、さらなる導電性の向上や有機デバイスなどの電子素子と組み合わせることで、さまざまなウェアラブルセンサーや医療デバイスの実現が期待できるという。
多種材料の使い分けを可能とする電子回路印刷用3Dプリンターを発表ー米nano3Dprint
米国サンフランシスコ州に拠点を置くnano3Dprintは、材料にフィラメントを用いるFDM方式の電子基板や回路を造形できる 電子機器印刷用3Dプリンター「B3300」を発表した。2つのディスペンサーを同時に操り、多種材料の利用が可能となる。「回路の印刷」という考え方は特段新しいものではない。3Dプリンターという言葉が一般に広まる以前から、電子回路の導線パターン作製には、しばしばディスペンサー(可動式インク吐出機)が用いられてきた。
近年では、有機半導体など、導電性インク以外の部分も印刷によって構築しようとする研究が進められている。複雑化、小型化が求められる電子回路は、折り紙のように折りたたんだり、複数の小さい基盤を連結したりと多層化・立体化も行われている。3Dプリンターの登場は、こうした複層基盤や立体回路の設計や造形に大きな可能性を示している。従来は2次元的であった回路形状に対し、3次元的な回路では使えるスペースが大きく広がる。これまでとは全く異なる構造の回路も今後登場してくるだろう。
★ドイツ自動車企業で900万ドル相当の3Dプリント設備導入へーデスクトップメタル
デスクトップメタルは、ドイツの某自動車メーカーから900万ドル(日本円で約12億円:1ドル136円)の注文を受けたことを発表した。公式発表では明かされていない納入先だが、業界筋によると導入先はBMWで装置はデスクトップメタルが傘下に収めたExONEのバインダージェット方式の装置だという。納入先の真偽はさておき、パワートレイン部品の量産に金属3Dプリンターが本格的に活用されるとする本発表は、自動車業界のAM活用が着実に進展していることを改めて浮き彫りにしたといえるだろう。(写真はデスクトップメタルのサイトより)一部の用途や部品生産では、アディティブマニュファクチャリング(AM)の効果が既に実証されている。
例えば、トヨタ自動車は、SOLIZEと提携し、部品復刻生産にAMを活用した。古い部品の生産ラインを維持しつづけることは現実的ではない。当然自動車メーカーが部品のすべてを製造するわけではなく、ティア2、ティア3と呼ばれるような下請け、孫請けのサプライヤーが製造するわけだが、仕様は量産継続時にも改訂されるし生産量は変動する。終売後も10年以上の供給責任を契約書で求められているので、供給できなければ違約金が発生してしまう。
部品のサプライヤーはその上年率1%ともいわれるコストダウン圧力を受けながら供給責任を果たし、次回の発注を勝ち取らなければならない。生産量の縮小に応じて、サプライヤーはラインを組み換え別製品の製造に充てるわけだが、終売の際は、需要予測の上、部品を一定数製造の上在庫することで、部品の供給期間を乗り越える。また金型や治具など生産再開時に必要になる設備は倉庫で保管し、定期的にメンテナンスを行う必要がある。大きな負担であることは確かだ。3Dプリンターのような汎用生産設備でオンデマンドに必要部品が製造できれば、こうしたコストを大幅に減らし、サプライヤーの消耗を防ぎながらコストダウンが可能になる。トヨタ社内では「(収支は)トントンでよいので実現するべし」と経営陣から下知が飛び進められていたともいわれる。
M&Aで積極拡大!炭素繊維材料で世界を席巻したマークフォージドが見据える次の市場
マークフォージドは2013年創業でアメリカのボストンに本社を置く3Dプリンターメーカーだ。特徴としては、ナイロンベースの樹脂にカーボンファイバーの長繊維を取り入れた独自材料を開発して注目を集めた。3Dプリンターで造形できる部品は強度的に弱いと言われていた中で、アルミの代替材料としても使える強度を実現し、治具をカーボン材料で製作するニーズを本格的に開拓した立役者だと言える。2022年10月に都内で開催したマークフォージドのプレス向け説明会ではM&Aによって、得意の樹脂コンポジット材料をさらに活用しやすくするためのシミュレーション機能の増強と、金属部品の量産を可能にするバインダージェット方式の老舗デジタルメタルを買収し、量産機をラインナップに加えたという報告があった。
分散型モノづくりを樹脂部品だけではなく金属部品でも実現する。この目的に向かって、マークフォージドはM&Aという手段で、カーボンファイバーを交えた樹脂材料による一層の市場拡大のために、シミュレーション機能を自社ソフトEigerに取り込み、少量製造を越えて量産に対応できる金属3Dプリンターを自社のラインナップに取り込んだ。半導体不足、輸送代金の急激な上昇などがソフトウェア・ハードウェアメーカーに大きな逆風として吹く中で、米国のハイテク株の株価下落も続いている。しかしそれ以前に上場し内部留保を持った3Dプリンター企業は積極的なM&Aで人材や知財を吸収し、事業スピードを加速させてきた。まさにピンチはチャンスを地で行く取り組みだが、同様の戦略は、競合となる3Dプリンター関連企業も取り組んでいるところだ。
今回のデジタルメタルの買収はこうした動きへの対抗措置として理解するべきだろう。デジタルメタルは自動車業界での納入事例も持つ。マークフォージドはデジタルメタルを買収したが、これから1年をかけて人材や事業の統合を行っていくという。今後の取り組みの中で、材料やソフトウェアの面で互換性がある取り組みがなされるかどうか、その結果、同社の取り組みがどう進化していくか、非常に興味深いところだ。
JIMTOF2022から見えてきた、工作機械が金型を変えモノづくりを変える近い未来~3Dプリンティング最新市場動向~
2年に一度の工作機械の祭典、JIMTOF2022(第31回日本国際工作機械見本市)が閉幕した。累計14万人以上の参加者が集まった一大イベントから、工作機械メーカーがどのように3Dプリンティング技術をはじめとした付加製造に取り組んできたかを考えた。大きなポイントが4つ見えてきたが、中でも最も注目したいのでは、金型を通じてモノづくりが大きく変わる可能性だった。
ポイント1:AM技術と工作機械の進化・・・PBF方式とDED方式
AMエリアは今年から新設されたコーナーで南館のワンフロアを借り切って開催された。3Dプリンターの専門展示会でよく見かける3Dプリンターの販売会社以外にも、やはり工作機械の展示会であるJIMTOFらしく工作機械メーカー各社が出展していた。工作機械メーカーの展示ブースを見ると華やかで力の入れ具合を感じるが、ブースが大きく実機があるという以外にも、具体的な導入事例やユーザーサンプルが目立った点が特長といえるだろう。工作機械を買うような加工メーカーがAM機能を持った装置をすでに導入し、具体的な案件に活用している姿を各社が発表していた。工作機械はツールヘッドを換装することでさまざまなタイプの加工に対応してきた。工作機械は3Dプリンティング技術も取り込み、切削工法と付加造形工法の両方に対応するハイブリッドで加工を行う機種が登場している。JIMTOFで確認できた限りでいうと、AM専用機の他には、DED方式+切削を行う機種と、PBF方式と切削に対応した機種が登場している。
ポイント2:AM技術を取り入れた工作機械が金型を変える
工作機械はマザーマシンと呼ばれるように生産に用いられる金型や装置の中核部品などモノづくりを行うための製造にも活用される。3Dプリンティング技術を取り入れた工作機械は、内部に冷却用流路を備えた金型を製造したり、金型では加工点が多すぎて加工時間が膨大になってしまう複雑な形状に対応できる。AM技術に対応する工作機械は金型を変える。金型が変わればモノづくりが変わる。
ポイント3:大型化する造形領域
4,5年前は大型造形を意味するワークサイズは300mmだった。そして現在、大型造形は1,000mmを越える。樹脂材料でも金属材料でも大型化を望む声にこたえ、3Dプリンティング技術が造形できるワークサイズは拡大を続けている。
ポイント4:製造業の自動化に挑戦
芝浦機械は、オーダーがあればいつでも出荷できる状態まで開発が進んでいる自社開発の3Dプリンターを展示していた。展示の中では、日本の腕を持つロボットが自動で造形が完了したワークを取り出し、後加工装置にセットする実演が行われていた。3Dプリンターは製造現場のDXのツールでもあるというメッセージが伝わってくる展示だった。
工作機械はマザーマシンと呼ばれる装置を作る装置だ。日本の工作機械が世界に輸出され世界のモノづくりを変えてきたともいえる。韓国や中国に輸出された工作機械が、安価で早い金型を作り、日本に輸入される時代になって久しい。しかしコロナ化を契機にサプライチェーンのローカル化が模索されている。新鋭の工作機械を導入し最新の金型を近所で生産することで、海外に流れた需要を取り戻すことができるかもしれない。そのきっかけの一つが金属3Dプリンター技術を取り込んだ工作機械の導入かもしれない。
ハイテク不況でも着々と成長。進化が止まらない3Dプリンティング技術
アメリカではハイテク企業のリストラが相次いで発表され、実際に3Dプリンター関連企業でも人員の整理が始まっている。3Dプリンター関連企業はハイテク企業に分類されるので、株価が振るわない。しかし上場を果たし資金力を持った3Dプリンティング関連企業はその資金力で体力に乏しい企業をM&Aで傘下に収め競争力を増していく。活躍するプレイヤー企業の名前が変わりゆくことはあっても、3Dプリンティングの技術進化は進行しており、新しいマーケットを生み出す流れは着実にビジネスにつながっているといえる。2023年はハイテク不況の年になると多くの経済評論家はいうし、円安、世界的なインフレ、石油不足、半導体不足、輸送コストの高止まりなどマイナス要素は多い。しかしまだまだ新興技術である3Dプリンティング技術の進化は日進月歩で続く。誰もが逆風と感じる時にこそ、次の時代の覇者は牙を研いでいる。2023年も日本で、世界で3Dプリンティング技術で新しい市場をものにしようとする企業の挑戦が続いていくことは確かだろう。