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ShareLab NEWSハイライト記事 ー 2023年4月

食品3Dプリンターで造形されたチーズケーキ/出典:コロンビア大学工学部

毎日こまめに3Dプリンター関連のニュースを追いかけるには、時間と労力が必要だ。そこでShareLab(シェアラボ)編集部では月に1回、その月で何があったかをまとめるハイライト記事をまとめている。2023年4月はフード3Dプリンティングや建築3Dプリンティングに関するニュースが目を惹いた。その一部をご紹介していきたい。

<業界動向>

順調に成長を遂げる世界の3Dプリンター業界。前年比23%の急成長

市場調査会社のSmarTech Analysis社は、グローバルでの3Dプリント市場規模が2050年に約250億ドルに達する見込みであることを発表した。2022年の3Dプリント市場規模は約135億ドルとなった。3Dプリント産業全体で前年比23%の急成長を遂げている。3Dプリント産業を金属・樹脂(ポリマー)・ソフトウェア・造形サービスの4部門に分けてとらえると、金属とポリマーには、素材だけでなくそれぞれを造形する3Dプリンターも含まれる。2022年の4四半期は、それまでの3つの四半期と比べても好調だったという。2022年の3Dプリント産業全体では前年と比べると23%の成長率となる135億ドルと推定されている。

金属部門は25%、ポリマー部門は20%の成長率だった。また、3Dプリント技術のトレンドとしては、3Dプリント以外の方法では製作できない大型の金属部品にあるとしている。さらに、SmarTech Analysis社によれば、業界を牽引する分野も医療から防衛や航空宇宙へ移ってきているという。

世界の3Dプリント市場規模予測、2025年に250億ドルに達する見込み

業界の成長をけん引するプレイヤー同士のM&Aも旺盛

FDM方式の祖であるストラタシスは世界を代表する3Dプリンターメーカーだ。自身も旺盛にM&Aを行ってきたが、そのストラタシスに対してM&Aを持ち掛ける企業が話題になった。同じくイスラエルに拠点を持つナノ・ディメンションだ。ナノ・ディメンションは資本参加している物言う投資家からの圧力もあり今回の大型M&Aを押し進めようとしているが、プレスリリースなどで表明される冷静な姿勢とは裏腹に、ナノディメンションの経営層の言動は非常に攻撃的。対するストラタシス側の反応はそっけない印象だが先行して資金を集めた企業によるパワープレイによる業界再編の動きは今後も続くだろう。

Nano DimensionによるStratasysの買収騒動どうなる、公開買付けの準備を開始

 

<参考>3Dシステムズ、M&Aや新規サービス分野への取り組み

光造形方式の老舗、3Dシステムズも古くからAM業界に根を張る一方で、競争環境が激しさを生き抜くために毎月のようにM&Aや新規サービス分野への取り組みを発表している。グループとしての技術資産、顧客基盤拡大の取り組みを通じた新分野の開拓に余念がない。資金力を背景にしたM&Aで核とした技術資産を上手く業績向上に繋ぐことができるか。経営手腕が問われることになるだろう。

厳しいUL規制要件を満たす電気コネクタを製造する付加ソリューションを共同開発 ― 3D Systems

3D Systemsのジュエリー製造向けの3Dプリンター 「ProJet MJP 2500W Plus」の国内販売を開始

SLS方式での機種追加や材料追加が依然旺盛

弾性のある素材として去年からAM業界で注目を集めているTPU。試作用途の光造形方式と最終部品用途のSLS(PBF)方式の小型機Fuse1の両輪で市場と向き合うFormlabsがTPU材を市場投入した。自社開発の特殊樹脂粉末は、独自の技術で粉塵爆発しないということだが明確な説明がないため、一部に導入をためらう声もあるが、1千万を切る価格帯と従来の数千万円クラスの大型機よりも材料プールが小さく材料ロスが少なく、小回りの聞く製造に対応できるメリットは魅力的だ。

Formlabs、自社3Dプリンター向けの軟質素材「TPU 90Aパウダー」の販売を開始

同じくSLS方式の小型機として日本市場に先行して登場していたSinteritのLisaシリーズだが、より大型化、高速化したLisaXの取り扱いが3DPrintingCorprationによって始まっている。

卓上SLS方式の3Dプリンター「Lisa X」の取り扱いを開始 ― 3DPC

光造形方式の装置も大型化が進行

光造形方式の造形機で製造できるワークサイズの大型化のトレンドに国産メーカーも追随する。自社で年間150万パーツを製造するなどのAM製造の実績を持ちながら中華製の光造形装置メーカーのZ-Rapidの大型機を扱うBfullが存在感が増す中で、国産メーカーも大型機対応をすすめている。国産3Dプリンターメーカーの老舗シーメットが製造業向け大型SLA方式3Dプリンター「CSLA-9000」の販売を開始した。国内製造業への丁寧な技術説明がもう一つ活用に踏み込めない保守的な製造現場を動かす鍵だとすれば、国産メーカーにこそその役割が期待されるはずだ。

シーメットが製造業向け大型SLA方式3Dプリンター「CSLA-9000」の販売を開始

フード業界と3Dプリンター関連ニュース

フードテックと3Dプリンターに関する取り組みが増えてきた印象を持っている。コロンビア大学がチーズケーキを作ったというニュースが流れる一方で、新宿で同時期に3Dプリンター製のチーズケーキを出す居酒屋が登場するなど、取り組みが同時多発的に進行していることを感じる状況だ。

コロンビア大学工学部がフード3Dプリンターでチーズケーキを製作

 

3Dフードプリントしたサステナブルデザートを開発 ― Byte Bites株式会社

こうしたフードテックという文脈から見たフード3Dプリンターに関して、実際にメーカーや政府、大学などの研究機関とビジネス化を推進しているミツイワ社の本多氏に、日本に置けるフード3Dプリンターの現状を取材した。

山形大学をはじめとする大学などの研究期間の取り組みは多岐にわたるとともに、農林水産省もさまざまな取り組みを検討しているというが、まだ展開できる用途分野を各企業や研究団体が模索している状況のようだ。一番の課題はフード3Dプリンターで製造した食材は加熱調理しないと食べることができないという点だろう。食事ではなく、食材を製造する装置というのが現在の位置づけだ。次の課題として、食感や味、匂い、含まれる栄養素を実際の食材のように感じられるように設計する技法の開発だ。食材を3DCADで設計しフード3Dプリンターで造形する製造手法はまだ未開拓の領域だ。噛んだり飲み込んだりできない病気に苦しむ人向けの特殊な食材だったり、糖尿病やアレルギーに苦しむ人がストレスなく、一般の人や家族と同じ見た目の食事を楽しむためなど、コストを支払っても、充分な満足が得られる活用用途の探索がいま正に行われている。まだ未開拓の領域と言ってもよいだろう。その分大きなビジネスチャンスが眠っているかもしれない。

フード3Dプリンターの現在と未来 ― できること・課題・展望

こうした企業サイドの視点とは対照的なのが、海外の視点だ。食料自給率を自国だけで充足させる食の国防という観点も含めて、独自の産業として育成しようとする取り組みがマレーシアで始まっている。周囲を海で囲まれたマレーシアは海洋資源に恵まれている点で日本に位置づけが似ている。そのマレーシアでは、国も巻き込んでフードテックによる培養魚肉の取り組みが研究されている。実際に2024年中に培養魚肉プラントの建設が開始されたということで、本気度が伺われる。

マレーシアの培養魚肉企業が2024年末までの工場開設を発表 ― Cell AgriTech

建築業界と3Dプリンター関連ニュース

建設用3Dプリンターに関する記事を見ない月はないほど、建設用3Dプリンターに注目が集まっているのは、ひとえに世界中で建設用人材が不足していることが理由だろう。三階建ての建築が省人化で製造できるようになったということだが、今後材料や既存工法との連携でより大きい建築物にも活用できるようになっていくことだろう。

サウジアラビアに世界一高い3D プリント建築物が誕生

古来より建築とアートは不可分の関係にあったが、3Dプリンター活用でも建築家によるアートへの取り組みが進んでいる。古刹に新規性のあるアートを展示するというコラボレーションだが、当然場所を提供する寺院側にも、そのアート作品が生み出す集客力に対する期待を持っていることだろう。プロモーションやブランディングの一環で場所を提供するという受動的な参加が今回の例だったが、寺社仏閣側が、宗教が持っている普遍的な価値観や宗教観を表現し伝えるために3Dモデルデータや3Dプリンターを活用する未来も充分考えられる。

【国内初】建設用3Dプリンター製のアート作品が東福寺光明院に展示

鋳造用砂型を作るための砂型3Dプリンターを使って砂の像のアート作品自体を作ったアートプロジェクトがある。実際に大阪駅前で展示されたが、都市景観において美術作品は重要な役割を担う存在だ。アート作品を都市景観に設置することで、その都市空間に指向性を与えることができる。作家が作品に自分自身を投影して、砂のように流れながらも、固まりつつ、なお形を変えていく自分を再発見するという過程や感慨は、大阪駅という変わりゆく大都会とそこを行きかう自分も含めた大勢の人の
今に対する視線を問いかけている。

砂型3Dプリンターを活用した砂像アートの展示がスタート ―グランフロント大阪

 

医療業界と3Dプリンター関連ニュース

一人一様のモノづくりであるマスカスタマイゼーションは、医療との親和性が高い。しかし国民皆保険制度を持つ日本では、保険行政との衝突もあってドラスティックな活用には至っていない。しかし徐々に広報される事例も増えてきた。

治療具製造の事例

出産時にさまざまな理由で赤ちゃんの頭の形がゆがんでいる場合がある。親としては頭の形を正常にしてあげたいと思うが治療を行う診察科を設けている病院の数は限られてきた。3Dプリンター活用によって頭の形を矯正するヘルメットを赤ちゃん一人一人に適したサイズと形状で提供できるとするのがジャパン・メディカル・カンパニーの赤ちゃんの頭矯正用ヘルメットだ。すでに1万個以上の生産実績があるということで、着実に治療分野での活用が増えている事例と言えるだろう。

3Dプリンター製ヘルメットで赤ちゃんの頭のゆがみを治療、専門クリニックが大阪にオープン

再生医療の事例

こうした治療に使う装具を作るというアプローチ以外に、医療分野で大きな期待感が持たれてるのは、臓器や人体をバイオ3Dプリンターで培養するという取り組みだ。再生医療の領域は、治療法としてまだ確立していないため、検証段階だが、その検証を大きく推進する存在としてバイオ3Dプリンターが果たす役割は大きい。日本で初めてバイオ3Dプリンターを活用した再生医療支援の分野で上場したサイフューズは日本のみならず台湾の企業とも協業するなど、精力的に活動を展開している。

3D細胞製品による再生医療分野の発展に向け、台湾企業と協業 ― サイフューズ

軍事産業と3Dプリンター関連ニュース

軍事面での3Dプリンター活用は着々と世界で進んでおり、毎月見かけるようになってきている。包括的な研究の契約であったり、特定分野のアプリケーションであったりレベル感はさまざまだが、ウィチタ州立大学と米陸軍の目指す取り組みは、ベンチマーク足りうる構成になっているように思う。

ウィチタ州立大学国立航空研究所が、米陸軍から1億ドルの契約を獲得
この研究開発は実践的な部品の開発までを一気通貫で行うものだが、以下の4つに取り組みが分類できるという。

  1. 地上車両部品の開発
  2. 材料開発とプロセス管理
  3. 部品の迅速な認定
  4. デジタルツインの開発と維持のための統合デジタル環境実装

理論的な枠組みの開発に取り組む基礎研究と、実践的な運用方法や部品製造・補修プロセスを開発する応用研究の両方を含むという。こうした取り組みは、軍事車両の新規開発、保守保全での3Dプリンター活用を想定したものだが、民間の船舶や航空機、車両などにも同種の枠組みは適応できるはずだ。
日本は軍事への忌避感が強い国ではあるが、軍事産業から学べる知見があるのであれば、臆さず学んでいくべきだろう。特に3の部品の迅速な認定に関しては、兵員の命と最高効率での軍事目標の実現という究極の天秤を公正に計る実践的な品質評価基準であろうし、そこから学べる知見は大きいように思われる。適切な手続きを経て作られた部品の品質は担保されている、と考えるAMのプロセス保証の考え方でどこまでの適切さを許容とするのか、大変興味深いところだ。

ウィチタ州立大学国立航空研究所が、米陸軍から1億ドルの契約を獲得

SFM Technologyが、英国海軍のヘリコプターブレードの拘束器具を3Dプリンターで製造

サステナビリティへの取り組みと3Dプリンター関連ニュース

持続可能な社会生活の維持推進という意味でのサステナビリティは、日本では社会貢献の一環としてとらえられているが、海外ではビジネスチャンスとしてとらえらている。規制対応や助成金獲得のような目に見える財源があるテーマなのでいかに攻めるかで大きく事業を伸ばすことができる可能性はある。
しかしサステナブルな材料を開発する、販売する、利用するという狭い視点では、事業として取り組みができる企業は少ないだろう。

高生分解性をもつ3Dプリンター用フィラメントの販売を開始 ― Nature3D

生分解性に優れた「ソフトナチュラルフィラメント」を販売開始 ― GSIクレオス

しかしリコーがマイクロ水力発電機事業を推進するベンチャーと一緒になって取り組みを行うように、サステナブルなエネルギー事業を推進するというテーマであれば、事業拡大に貢献できる可能性はある。社会貢献だけではない、事業としてのサステナブルニーズへの取り組みは今後ますます重要な観点になるだろう。

リコーが3Dプリンター製マイクロ水力発電装置を開発

日進月歩のAM活用だが、どんな課題解決に活用できるかがキモ

昨日の常識が今日の非常識になるのが技術進歩が著しい分野の宿命だ。常に新しい情報をアップデートして知識として知っておく必要がある。しかしビジネス分野での活用を考える際には、自分がいまあるいはこれから顧客として付き合っている人や企業の課題感をどう解決するかという視点で十分だ。
なるべく広く視点を持つことで、触れる情報も増えるので、より可能性が広がるが、どの程度、インパクトがあるかわからない情報も多々ある。そういった情報はなるべく一次情報に触れて自分の肌感覚でご判断いただくほかないが、もっとこんな分野に対して情報がほしい、というリクエストは常に受け付けている。一企業の技術情報や動向に関する詳細、となるとお答えできないことも多くなるだろうが、こうした分野に関するニュースというリクエストは大歓迎なので、お気軽にお声をお寄せいただきたい。

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