1. HOME
  2. 編集部のおすすめ
  3. ShareLab NEWSハイライト記事ー2022年9月

ShareLab NEWSハイライト記事ー2022年9月

yokoito 中島氏

毎日こまめに3Dプリンター関連のニュースを追いかけるには、時間と労力が必要だ。そこでShareLab NEWS編集部が2022年9月を振り返り注目のトピックスをまとめた。2022年9月はJAPAN EOS DAY、フォームネクストフォーラムなど業界主要プレイヤーが自社の取り組みを発表するイベントが相次いだ。

<2022年9月の業界動向>

この10数年で3Dプリンターと製造業の関係は変わったか

2013年に起業して以来、デジタルなモノづくりに取り組むYOKOITO社Formlabsの販売店として多くの3Dプリンターを企業や研究機関に販売してきた同社は、1年前本社を置く京都にForm 3シリーズを中心に数十台の3Dプリンターを備えたAMセンターを開設した。中小製造業と向き合うYOKOITOが今なにを見つめているのか直撃した。

3Dプリンターの販売から造形受託へ。デジファブへ回帰するYOKOITOの現在

EOSのハウスイベントで見えてきた海外市場の進展と日本の現状

日本ではNTTデータ ザムテクノロジーズが総代理店を務める世界的な3Dプリンター企業、それがEOS社だ。樹脂3Dプリンター、金属3Dプリンター、砂型3Dプリンター扱うだけではなく、導入検討段階からのコンサルテーションで企業に寄り添うコンサルテーションができる点ですでに日本で300件以上の実績がある。そのEOSが年に1回のリアルイベントを開催したので、前後編にわけてご紹介する。個人的にはコロナ禍で3Dプリンター活用の取り組みが進まなかった日本企業と、コロナ禍でも着実に取り組みを進めた海外の先進企業の違いも感じたところだ。企業によっておかれた状況は異なるので、3Dプリンター活用が全面的に正しいわけではないが、同じ世界市場で勝負している競合の取り組みとして理解し、対抗策を講じていく必要があるだろうし、そのために知見のあるパートナーと座組みを組んでいく必要はあるだろう。

EOSが描くAM業界のエコシステム(前編)ーJAPAN EOS DAY 2022レポート

EOSが描くAM業界のエコシステム(後編)ーJAPAN EOS DAY 2022レポート

世界市場と向き合うという意味では、国内企業も負けてはいない。ニコンが立て続けに発表したM&Aや資本参加の取り組みは、ほかの日本企業にも大きな衝撃をあたえたことだろう。「ドラスティックな打ち手が必要」と自覚する企業は多いが、ニコンの取り組みはまさにそのお手本そのものだ。金属3DプリンターメーカーSLM社の買収に続き、米国企業への資本参加も果たしている。

ニコンが独金属3DプリンターメーカーのSLM社買収を発表

 

ニコン、新たにAM関連企業2社への出資を発表-Hybrid Manufacturing Technologies Global, Inc.、Optisys, Inc

9月はNASDAQ上場企業の四半期決算の発表のタイミングでもあった。シェアラボでは樹脂3Dプリンターも金属3Dプリンターも両方扱かっているNASDAQ上場3社の業績をまとめてみた。

NASDAQ上場の3Dプリンターメーカーの業績から見るAM業界の現在と未来

上場3社はいずれもM&Aを実施し、業績を拡大している。売上以上に、技術資産と顧客とのリレーションを獲得している点が、今後どのように活かせるかにも注目が集まるところだ。米国企業だから、世界で市場を持つニコンだからと言い訳することはできるが、M&Aはすでに過去10年で日本国内でも普及し、個人でも事業や企業を買える時代になっている。いつ自分たちが買われる側になるかもしれないし、逆にその前に経営層がこちらから他社を買うかもしれないのだ。事業運営手段としてのM&Aは他人事ではない。

セラミックス用3Dプリンター事業でローランドディージーがAGCセラミックスらと中国で合弁会社を設立。バインダージェット方式に取り組む。

ローランドDGがAGCセラミックス、中国企業らと合弁で設立したのは、セラミックスの3Dプリンターで造形方式はバインダージェット方式だ。バインダージェット方式は製造能力が高く、量産向けということで、DesktopMetalなど金属3Dプリンターを展開する世界的な企業でも採用されている方式。いまだ有力な世界の工場である中国で量産性能が高い装置を製造販売する会社を設立することで、世界中に部品提供を狙うことができるだろう。日本企業も世界を相手にビジネスを展開している。レシピ開発は装置と深く結びついているが、日本国内で開発したレシピを世界で提供する未来もあるかもしれない。

セラミックス用3Dプリンター事業でローランドディージーがAGCセラミックスらと中国で合弁会社を設立。バインダージェット方式に取り組む。

3Dプリンター単体装置から3Dプリンティング技術を取り込んだ製造ラインへ

これはよくある海外3Dプリンターの装置販売権を日本の企業が手に入れたというニュースではない。エグゼンティスは3Dプリンター単体ではなく、3Dプリンティング技術を取り込み量産を行う製造ラインを提供するヴィジョンを持っているからだ。実際にセラミックス以外にも創薬にも活用されているという。

新東工業がスイスの3Dプリンターメーカーエグゼンティス社の独占販売権を取得

同様の取り組みは先月ご紹介した3DシステムズのM&Aにも読み取れる。単一部品の製造が高いレベルで実現できるようになったからこそ、複数部品をより生産性高く取り組む製造ラインへのシフトが先進企業では始まろうとしている。

3D Systemsが量産志向の回転するビルドプレート方式をもつ独3Dプリンターメーカーdp polarを買収

おなじく先月取り上げたSakuuは固体電池製造ラインを3Dプリンティング技術で実装している。

米ベンチャーSakuuがシリコンバレーに3Dプリント製の固体電池生産工場を開設

このように、欧米での3Dプリンター活用は「装置を1台導入する」から「複数台に増やす」へ移り、さらに「技術要素を製造ラインに取り入れてインテグレートする」時代に移っていこうとしている。製造ラインのすり合わせ技術の面で、日本は有数の合理化ノウハウを持っているわけで、キーエンスなどに代表される産業装置のインテグレーターの活躍が今後期待されるところだ。

AM専門の展示会として世界的に有名なFormnextの東京開催。フォームネクストフォーラム 東京は併設開催がないため規模が小さく見られがちだが、密度の高さは他の展示会に劣らない魅力があった。

フォームネクストフォーラム 東京 2022速報レポート

 

2022年9月も住宅・建設分野での3Dプリンティング技術活用事例が続く

今年は毎月書いていることだが、間違いなく2022年は日本の住宅・建設用3Dプリンター業界にとって潮目が変わった年となるだろう。建築基準法などへの対応が進み、注目するべき事例が毎月のように報告されている。

三井住友海上火災保険とセレンディクスが業務提携 3Dプリント住宅専用保険の開発を推進

買う側からすると、新しい工法である3Dプリンターを買うときに、地震や台風などの天災リスクは気になるし、住宅につきものの火災にも対策したいと考えるのは当然だ。しかし従来の保険商品には、3Dプリンターに対応できる商品がなかった。ユーザーニーズを丁寧に拾っていくと、新しいビジネスが見えてくる。このつながりがビジネスの生態系につながっていくのだろう。

日本初!吉村建設工業が国交省からの国道工事をPolyuseの建設用3Dプリンターで現場施工

国交省の案件を3Dプリンターを使って実際の道路工事を現場で施工したという歴史に残る一歩だ。

バイオ3Dプリンティング技術が新しい次元に

バイオ3Dプリンティング技術の進展も毎月新しい発見がある。今回取り上げたいのは、ヒューストン大学の研究だ。生体に電子回路を印刷できる樹脂材料を開発したということで、いよいよサイバーパンクな未来を実現できる技術要素が登場してきた。電気的な信号で人工臓器や義手(あえてSF漫画の用語でいうところの「義体」と呼んでみる)を実装できる可能性が開かれた。10月に取り上げる昆虫をサイボーグ化する研究と合わせて考えると、SF的なサイボーグや人工身体が10年、20年のうちに実現する可能性が高まってきたと言えるだろう。

ヒューストン大学が3Dプリンターを使って人体に電子回路をバイオプリントできる樹脂を開発

近い将来でのバイオ・メディカル部分での取り組みに関しても3Dプリンティング技術に取り組むの動きは活発だ。
3Dシステムズはバイオテクノロジーに取り組む新会社を設立した。

3D Systemsが新バイオテクノロジー企業 Systemic Bioの設立を発表し、創薬と開発を加速

粉体制御の技術は粉薬の制御にも通じるし、インクジェット技術は一人ひとりに最適化された薬効成分の配合にも通じる。3Dシステムズは装置以外にも材料開発、ソフトウェア開発に力を入れている企業として有名だが、創薬にどのように取り組み未来を作っていくのか、注目していきたいところだ。

2022年9月の総括

大きな変化は水面下で進行する。今後も3Dプリンティング技術は変化の起点になるかもしれない。

実際に発表まで至らなくても、3Dプリンター技術の産業用途での活用は世界中で検討されているし、日本でも検討されてきたことだろう。開発したけど発売をやめた3Dプリンターもあれば、M&Aを検討したが流れたこともあるだろう。こうした水面下の大きな流れは目に見えないが、一部成功したものが大きく発表される。ニコンのSLMソリューションズ買収は、今後その代表例として多くの関係者が引き合いにだすに違いない。

いまニュースとして取り上げているいくつかの事象に関しても、将来の大きな変化を予見するための予兆として読み解いていく必要がある。「変化のその先へ」自社の取り組みを持っていける可能性があるのが、新しい市場の特徴だ。シェアラボ編集部ではこうした激動の渦中にある「業界の中の人」を直撃した取材に力を入れていく。10月には日本の製造業に3Dプリンター活用が推進していかない理由を複数の業界団体幹部に直撃した取材レポートを複数お届けする予定だ。この人のこんな話が聞きたいというリクエストも受け付けている。ぜひこちらからご意見をおよせいただきたい

資料ダウンロード 3Dプリンティング国内最新動向レポート

編集部のおすすめ

編集部のおすすめ一覧

最新記事

おすすめ記事