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ShareLab NEWSハイライト記事ー2022年10月

AM協会 澤越氏

毎日こまめに3Dプリンター関連のニュースを追いかけるには、時間と労力が必要だ。そこでShareLab NEWS編集部が2022年10月を振り返り注目のトピックスをまとめた。2022年10月、シェアラボ編集部では「日本の製造業の3Dプリンター活用が海外に後れを取る理由」に関して、複数の業界団体の主導メンバーに連続インタヴューを行った。いまの課題感と将来展望が見えてきたので概観をご報告したい。また毎月新しい動きがでる土木・建築分野での3Dプリンター活用に関しても今月のアップデートをご報告する。

「海外よりもAM活用が進まない日本の現状」を業界団体幹部がどう見ているか。

TRAFAM、日本AM協会、J3DPA、ひょうごメタルベルトコンソーシアム、群馬積層造形プロットフォームの5つの団体に、「海外よりも日本のAM活用が遅れているといわれるがその原因はなにか」をテーマに取材を申し込んだ。TRAFAMは、産総研の内部に設置されたプロジェクトで、国産AM装置開発による国際競争力の向上をテーマにしているが、「装置開発がミッションなので、取材趣旨を考慮の上、コメントを差し控えたい」と取材辞退の回答があった。すでに目的としていた装置開発がいったん終了し、後続の開発プロジェクトも進んでいるが、装置に付帯するソフトウェアなどに限定されていると漏れ聞いているので、積極的でない姿勢も納得はできる。一方で、日本AM協会、日本3Dプリンティング産業技術協会(J3DPA)、ひょうごメタルベルトコンソーシアム、群馬積層造形プロットフォームの4つの団体からは独自の問題意識をもとに、日本のAM推進の現状認識と海外との違い、それを踏まえた推進のために必要な取り組みに関して具体的な回答があった。

官需予算で死の谷を乗り越えろ

日本AM協会は、「費用対効果がすぐに出せない投資」に積極的でない日本企業の体質を原因と指摘し、儲かる案件の創出方法として、政府財源を活用したAM製造を実現しようとロビー活動を展開している。一般社団法人 日本AM協会の専務理事 澤越俊幸氏は「なぜ海外が進んでいるかというと、AMの特徴である『複雑かつ軽量化した形状、1グラムでも軽く、1ミリでも小さく』、これに対して多額の開発費をかける軍需・航空・宇宙分野が盛んだからです。」と語る。たしかに日本は世界的に自国内で完結できる技術面でのリソースがありながらも、軍需・航空宇宙でAM推進を海外に比べると実現できていない。この方面での官需は日本の製造業にとって、伸びしろと言えるだろう。
我々が感じたのは、ものづくり企業は一旦取りかかると飲み込みが早くて鋭いということです。最初は確かに、受け身の姿勢で『国の補助金で色々経験できるからやっておこう』という部分もありました。でも、続けるうちに『今回はこういう結果が出たが、ここをちょっと変えてみたら、もっと違う結果が出るかもしれない』など、ものづくりの魂、プロの感覚というのがAMにおいても目覚めるのが見て取れました。」(澤越氏)
実際に予算が付けば、日本の製造業はAMでノウハウを蓄積する能力がある。AM協会の前身、関西3Dものづくりプロジェクトの中で取り組まれた、経産省からの助成を受けた研究プロジェクトを通じて参加企業が旺盛に技術開発に取り組み成果を残している現状にも触れ、未来は明るいという展望も語ってくれた。
参考:日本AM協会が進める「日本で3Dプリンターが普及しない問題」への打開策

日本AM協会が進める「日本で3Dプリンターが普及しない問題」への打開策

AM装置の動作原理までとことん突き詰めて理解したい日本の製造業技術者の文化

日本3Dプリンティング産業技術協会(J3DPA)の三森代表理事は、シェアラボの取材に答え、「日本のAM市場は世界市場の10%を占める決して小さい市場ではない」という点を指摘し、「試作や治具開発には積極的に使われている現状があることを紹介してくれた。その一方で、「日本が遅れているのは最終製品分野への展開である」として、その理由をAM製造のバリューを理解している企業や技術者が少ない点、3Dプリンティング技術に精通した人材の不足とサポートできる装置メーカーや外部パートナーが育っていない点などを挙げた。こうした状況を打開し、国際競争に打ち勝つためには、AM製造のバリューに対する理解を喚起し取り組むべき動機を着実に技術者が持つことが必要、と訴えた。
参考:「AMに取り組まない3つの理由」を乗り越えるためにはバリューの理解が必要ー日本3Dプリンティング産業技術協会(J3DPA)

「AMに取り組まない3つの理由」を乗り越えるためにはバリューの理解が必要ー日本3Dプリンティング産業技術協会(J3DPA)

新技術を導入する際には「身の丈」にあった取り組みからはじめてみよう

兵庫県立大学でも教鞭をとる傍ら、ひょうごメタルベルトコンソーシアムを主導する柳谷氏は、AMでしかできない加工を取り入れた海外勢との国際競争力の開きを懸念する一方で、いきなり発電所のタービンやジェットエンジンにチャレンジ企業もあることを指摘し、身の丈にあった取り組みの重要性を説いた。
「海外の展示会にいくと、すごい展示物だけではなく、実験的な展示も置いてあるんです。かれらは、そうした展示物を最新技術で作り、その都度ノウハウを蓄積しています。だからいざというとき、本番で使えるんです。やったことが生きているんですね。そういうチャレンジが大事です。」(柳谷氏)
そして最先端の事例に物おじせずに、AM技術を、自社の扱っている商品や部品の製造にどう適応できるかを考えることが重要と語る。その際には「他社の事例の出来上がり具合ではなく、どう技術を使ったか、そのアイディアを見るべき」という情報の解釈の仕方を提示した。「民間企業にいた頃から言っているんですが、展示会では新技術は先進事例を見せてもだめです。企業の人は、恐縮してしまってうちでは真似できないとなってしまいます。でもね新技術の活用アイディアを展示したら、考えてくれるんです。『こんなんできるんや、おもろいな。なんかに使いたいな』がスタートです。自分の仕事にどう使えるか、考えてもらう事が大切です。」(柳谷氏)ひょうごメタルベルトコンソーシアムには、兵庫県を中心とした中小金属加工業が数多く参画する。
100社を超える参画企業にひょうごメタルベルトが提唱するのが、身の丈という考え方だ。
「身の丈にあったDX,身の丈にあったAMでいいんです。結果が出るまで継続することが重要です。」(事務局東間氏)
参考:海外と日本の決定的な違い。日本のAM活用推進に必要なたった1つのポイントーひょうごメタルベルトコンソーシアム

海外と日本の決定的な違い。日本のAM活用推進に必要なたった1つのポイントーひょうごメタルベルトコンソーシアム

実績ない新技術に1億円も払えないのは当然。だからこそともに学ぶ場所を

群馬積層造形プラットフォームの小川氏は、AMへの取り組みがコストが過大で、だれも教えてくれない上に、どうアプローチすればよいか難しい現状を問題提起した。
「ミシュランは実際にタイヤの金型製造でAM技術に取り組んできました。グループ傘下に金属AMメーカーのAddupもあります。
その経験からいうと、きちんと金属AMに取り組もうとすると、初期投資が非常にかかるんです。AMアトリエの竣工には数億円が投資されています。材料費やメンテナンスにかかる費用を考えると、運用費も相当な投資です。何をつくるかわからない、効果がわからない段階で勉強目的に導入するのは相当ハードルが高いんです。」(小川氏)
そうした現状を乗り越えるために、群馬県太田市という航空・自動車の産業集積地にAMアトリエを解説している。
「AMに関する体系的な知識を勉強し、実際に装置を使って自分が造形実験する。その経験を活かして社内での用途を考える。これが重要です。また他の企業と課題や結果を共有するのも重要になります。基礎的な部分のノウハウ共有にもなりますし、技術的交流もうまれることでしょう。参加企業の担当者の方は孤独にAMに立ち向かわなくてもよいのです」(小川氏)
わかった気になっても革新は起こせない。自分が学び、体験し、見出したバリューにこそ肚落ち感は生まれる。熱がなければ課題を乗り越えられない。そのためにゼロからでも取り組むことができる場は必要だろう。
参考:日本の3Dプリンター活用を阻む3つの壁と闘う!群馬積層造形プラットフォーム(GAM)の挑戦

日本の3Dプリンター活用を阻む3つの壁と闘う!群馬積層造形プラットフォーム(GAM)の挑戦

着実に拡大するAMに関心がある企業・技術者層

業界団体の取り組みを見てきたが、このような取り組みは業界団体だけが盛り上がっているのではない。業界団体がニーズを掘り起こしたのではなく、ニーズがあるので、志を同じくする同志が集い、団体が生まれたのだ。業界団体に所属する企業数は増加の傾向にある。しかし業界団体に参加することは無くても、開催されるセミナーに参画したり、各社が開催する工場見学に参加する参加企業は増え続けている。正確な統計は存在しないが、着実に製造業の内部でも、AMに取り組む技術者は増えているとのだろう。シェアラボのサイトを訪れる訪問者も去年の倍に増加している。

AM関連企業のウェブサイトでの情報発信も増加基調

こうした機運を受けて、AM業界各社もウェブでの情報発信に取り組み始めている。材料大手の日立金属が金属3Dプリンターによる試作支援サイト「Addurn」を立ち上げた。語源は、拠点を置く山陰地方の方言で「すごい」「びっくり」を示す感嘆語ということだが、試作や試験造形に取り組む製造業の担当者が一番気になる、この試作造形いくらでやってくれるのか、材料費はいくらかに関して、サイト内で明示している点だ。仕様が複雑で明快でないことからどんな業界もはじめは価格が明示しにくいものだが、
明朗会計は、顧客にとって不可欠な要素だ。DMM.makeも顧客基盤が17万人を突破し、法人需要の拡大を志向し始めたが
こうした動きは着実に広がっているといえるだろう。

日立金属が金属3Dプリンターによる試作支援サイト「Addurn」を立ち上げ

大きな成長余地を感じさせる土木・建築・住宅領域の3Dプリンティング市場

日本が世界を伍して闘える3Dプリンター技術として、今後有力になる分野がある。建築分野だ。建築分野は、国内需要で言えば、建築・住宅を支えた段階労働者の卒業が目前に迫っている。外国人労働者の取り込みを図っているが、高練度の職人を再生産する取り組みは限界を迎えつつある。労働集約的でない土木・建築への挑戦として、各社は建築用3Dプリンターに注目している。ゼネコン各社も研究の一環としてロボティクス技術や3Dプリンティング技術の研究に取り組んでおり、プレスリリースも相次いでいる。

大林組は、コンクリート材料を利用した3Dプリンターをロボットアームの先端に装着して、コンクリート構造物を自動で施工できるシステムの開発に取り組んでいる。いままで培った構造体の設計ノウハウをいかにAMに対応させていくか、現場での作業員の負担を軽減させて効率よく取り組んで行くかにむけて取り組みが継続されているようだ。
参考:大林組が3Dプリンターとロボットアームでのコンクリート構造物の自動化施工システムを開発

大林組が3Dプリンターとロボットアームでのコンクリート構造物の自動化施工システムを開発

清水建設は門型の建設用3Dプリンターを、現場で施工するオンサイト造形が可能な重機のような位置づけで開発している。建築物は巨大だ。輸送コストを下げるためには、現場で施工することが望ましい。こうした重機はすでに現場で稼働する重機に混じって、利用されることで、作業現場の作業効率を大きく向上させる可能性がある。
参考:清水建設が幅20m・高さ4.5mの大規模構造物をオンサイト造形

清水建設が幅20m・高さ4.5mの大規模構造物をオンサイト造形

一方でコンクリート材料を使った3Dプリンティングは、建物以外の設備に転用可能だ。會澤高圧コンクリートは、ワイン樽にコンクリート製の樽をつかう研究を勧めている。會澤高圧コンクリートはこのほかにも、鉄道の保線工事への3Dプリンター活用や宿泊施設への施工などで着実に事例を積み上げている。設計ノウハウや顧客を持っている現場を知る企業が用途を広げていく姿は今後の建築分野でのAM活用の可能性を感じさせる。国際情勢が大きく動く中で、ODA投資のような対外経済支援は新しい側面を持つようになるだろう。その際にAM投資枠が大きく成長する可能性もある。
参考:會澤高圧コンクリート株式会社がコンクリートワインタンクの開発と実証実験を開始

會澤高圧コンクリート株式会社がコンクリートワインタンクの開発と実証実験を開始

材料分野での革新としては、各ゼネコンが開発をしている高性能コンクリートの他に、緑化という観点でとりくまれている建築用3Dプリンター用の土インクも発表された。米バージニア大学は植物の種を含んだ土インクでの緑化を提案している。現代建築に置いて、緑化は都市緑化という文脈で取り組まれてきたが、植物をプランターにいれて配置している形が多かった。しかし土インクをプリントする工法では、自生する土壌自体が建物を構成する建材となる。設計ならびに建材研究の進展で、強化木材を使った木造ビルディングによる高層建築は多くのコンペで採用され始めたので、今後10年で多くの採用事例が登場するだろう。建築へのロボットの活用や、建築3Dプリンターの導入は、自動化という文脈と形状も材料もいままでよりも大きく自由度を確保できるという特長をいかすことで大きく時代を革新するかもしれない。
参考:バージニア大学が植物が自生する3Dプリンター用建材(土インク)を開発。

バージニア大学が植物が自生する3Dプリンター用建材(土インク)を開発。

AM活用の壁と可能性。伸びない理由は解決できれば伸び代になる。

日本よりも海外の方がAM活用が進んでいるのであれば、その原因はなんなのか。日本はオワコンなのか。そんな単純な疑問を業界団体幹部に疑問をぶつけたところ、「活用は始まっているが、まだある市場の伸び代が海外勢に奪われる前に、国内勢が頑張るべき」という絵姿が見えてきた。また3Dプリンター活用が進む土木・建築・住宅分野も、市場は国内だけではなく、海外にも広がっている。国内需要だけを見てAM市場がないと感じているのであれば、海外市場に打って出ればいい。そのためにも世界で活用が進んでいる現状は無視するべきではないだろう。

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