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ShareLab NEWSハイライト記事 ー 2023年5月

ストラタシスとデスクトップメタル合併

毎日こまめに3Dプリンター関連のニュースを追いかけるには、時間と労力が必要だ。そこでShareLab(シェアラボ)編集部では月に1回、その月で何があったかをまとめるハイライト記事をまとめている。2023年5月はサステナビリティに向き合う企業へのソリューションとしてのAM活用や建築3Dプリンティングに関するニュースが目を惹いた。その一部をご紹介していきたい。

<業界動向>

年間150万パーツを製造する3Dプリンター工場を取材

3Dプリンターには公式な出荷統計もなく、造形市場も精確な市場規模は不明だ。そんな中でも日本有数と結論づけられる取り組みを行っている企業も成長している。その一例が愛知県で年間150万パーツ以上を製造するBfullだ。圧倒的な製造量を誇る同社だが、もともとフィギュアの量産を3Dプリンターで行い、足場を固めた。現在ではオリックスレンテックなどの有力な半ばおパートナーと連携し毎月一定量の造形を一定金額でおこなう「サブスク3Dプリント」などのサービスも運営し自動車メーカーなどからも安定的な受注を実現している。

年間150万パーツをAM製造するBfullの知られざる実態 ― Bfull 

東大と3Dプリンター販売店が協業、大学内にショールームを開設

もう一つ特徴的な取り組みが東大とBruleと行っている協業だ。東大などのアカデミアには先端機材を操作する技官が採用されているが、予算が潤沢にあるわけでもなく、一人一人の技官への負荷は高くなりがちだ。少数精鋭といえば聞こえが良いが、複数種類の先端機材を実質一人で運営することになると、技官への負荷は決して小さくない。また研究室単位で装置を購入すると稼働率の観点から投資対効果が充分見込めないケースも出てくるだろう。特に金属3Dプリンターのように導入には装置以外にも安全性対策のための設備投資が必要な機材は費用も高止まりする。大学内部に施設を置くことで、販売店は安く機材を備えたショールームを設置でき、産学連携に取り組む民間企業や未来の研究者に装置を触れてもらうことができる。両者にメリットがある形で協業が結ばれているということで、今後他の大学でも同様の取り組みが進んでいく可能性を感じるスキームとなっている。

大学と3Dプリンター販売代理店の新たな協業 ― Brule×東京大学 3D Printing Advanced Technology Center開設セレモニー

 

ニコンがアメリカにAM事業統括会社を設立、日本のAM事業も傘下に

国内企業が海外で大きなシェアを持つケースは多々あるが、買収によってニコンが手に入れたSLMソリューションズも主戦場は海外だ。すでに立ち上がっている海外市場を主要な戦場とする企業にとっては日本に本部がある必然性は低い。そうした判断もあってか、ニコンはアメリカにAM事業の統括を行う事業会社を設立し、事業推進にあたる。日本市場は米国事業会社の指揮下にはいるということだ。

ニコンがアメリカにAM事業の統括会社を設立

群馬積層造形プラットフォームが取り組む2つの探索テーマ

群馬県の企業を中心にAM活用を推進するコンソーシアム「群馬積層造形プラットフォーム」は活動開始のプレスリリースから約一年を経て、取り組みのロードマップを可視化した「探索マップ」を発表した。大きく高機能な冷却機能を備えた金型と補修部品がターゲットだ。具体的な取り組みの他、フランスの産総研にあたるCetimや群馬県の公設試との連携強化も発表。群馬県知事山本一太氏もG8の会場に群馬県が選ばれたのはGAMあってこそ、と政財界へのPRにも余念がないようだ。

群馬から世界へ!AM技術の探索マップを通じてGAMが見据える2つの用途分野 ― 群馬積層造形プラットフォーム(GAM)

ストラタシスを買収しようとする各社の思惑とその背景

海外市場の方がはるかに広大とは言え、3Dプリンター市場はまだ立ち上がりつつある市場でさらに成長が期待さ入れている。コロナ禍で足踏みがあり、インフレ圧力、世情不安による物流の寸断などもあり市場の期待通りに売上が上がっていない企業も多い。AI関連分野などが高騰する中で、3Dプリンター関連銘柄の株価は低く低迷している。すると株価が高く評価されていいた際に上場して資金を充分に調達した企業にとって、M&Aによる売上拡大を行うことが合理的になってくる。ここ数年大手企業は潤沢な資金力を背景にベンチャー企業やより小規模な企業の買収を毎月のように続けてきた。
しかし今回非常に興味深いのは、売上では数分の1以下であるナノディメンションが数倍以上の売上を持つストラタシスの買収に挑んだ点だ。14%以上の株式をすでに持っていた筆頭株主という有利なスタート地点をいかし、ストラタシスの買収に挑んだが、ストラタシス経営陣には相手にされず、ストラタシスはデスクトップメタルとの合併を行う方針を明らかにした。今度はその様子を見た3Dシステムズが買収に手を上げるなど、混迷を深めている。

StratasysとDesktop Metalが合併を発表

医療業界と3Dプリンター関連ニュース

2023年5月は医療業界での革新的な事例を複数紹介した。先進医療の中でも今後もっとも3Dプリンター活用が期待される分野がバイオ3Dプリンティング技術を活用した再生医療だ。現在はその前哨戦とも言える医療模型による医療技術研鑽で用いられることが多いが、京都大学病院が非常に革命的な治験を行ったと報告している。

京大病院、世界初バイオ3Dプリンターを用いた神経再生技術の開発に成功

京都大学は日本のバイオ3Dプリンター企業サイフューズと協働で、ダメージを受けた神経を治療するためにバイオ3Dプリンターを活用した治療技術を開発し、治験を実施した。有意な治療成果が出ているとうことで、今後も治験は継続される見込みだ。

京大病院、世界初バイオ3Dプリンターを用いた神経再生技術の開発に成功

医療用模型のAM製造が進む

医療模型活用の事例も年々実名入り報告される件数が多くなってきた。北海道大学病院では、人工血管を3Dプリンターで造形し治療技術の向上に役立てている。生体血管に近い血管模型を3Dプリンターで作製 ― 北海道大学病院
また福井大学の医学部では、人の側頭骨模型を利用した医療技術の研鑽が始まっている。医療技術は日進月歩で、その技術を習得するための研鑽を医師は継続的に行ってきた。高度な医療行為を事前にシミュレートする用途も今後一般化していくだろう。

福井大学医学部が3Dプリンター製の側頭骨模型を利用

医療現場のニーズからAMを活用して製品化

デンタル分野では、歯科技工士による虫歯治療用のクラウンなどの型の制作に3Dプリンターが使われてきたが、入れ歯そのものを3Dプリンターで複製し、予備の入れ歯を安価に持って置けるようにするサービスも登場してきている。以前シェアラボでも取り上げたヨビーバだ。入れ歯は高額だし、口にいれるもので清潔にしたい。万が一なくしたりこわれたりひどく汚れた際の予備がほしい、というニーズは実際に医療現場にいる医師だからこそ感じ取ったニーズだろう。

3Dプリンター製の予備の義歯「ヨビーバ」が 販売開始

こうした医療現場のニーズを製品化、事業化する動きは入れ歯だけにとどまらない。日本のスタートアップ企業ながら、フィリピン、インドで義足を製造する取り組みを行うインスタリムはここ数年で製造実績を積み重ねてきた。インスタリムはロシアのウクライナ紛争で戦禍に巻き込まれ足を失った被害者のために義足を100本贈るプロジェクトをクラウドファンディング上で行っている。こうした取り組みの背景には、戦禍から逃れるために義足装具士が疎開したため、物資や施設があっても義足を製作できないという事情があったという。遠隔地でのモノづくりを支援する取り組みには3Dプリンティング技術は大きな効果を発揮する。

国内スタートアップ企業が、ウクライナ市民に3Dプリント義足を送るためのクラウドファンディングに挑戦

命に関わる疾患の治療ではない分野だが、着実に医療現場で進行しているのが、治療具の3Dプリンターによる製造だ。出産時やその後の育成の過程で、わが子の頭の形がゆがんでいると感じ、悩みを抱えている親は多いという。しかし従来の頭の形矯正具は、デザイン的にもサイズや形状的にも赤ちゃんひとりひとりの個性や家庭環境の寄り添うものではなかった。そこで、三次元計測し、一人ひとりの頭の形状に合わせた矯正具が開発されるにいたった。現在採用する医療機関が着実に増えているという事だ。

赤ちゃんの頭のゆがみを矯正するヘルメット「ベビーバンド」が、愛知・岐阜・長崎の医療機関に初導入

建築業界と3Dプリンター関連ニュース

建築用3Dプリンターを活用した企業の取り組みは海外のみならず、国内でも毎月のように発表されるようになってきた。いま最も多く目にするのが、別荘やホテルといった小規模な空間を所得層が高い人々向けに提供する高付加価値建築としての用途だ。

希少性から富裕層向けに開発が進む事例

ICON社がテキサス州のキャンプ場ホテルを3Dプリンターで再構築

建設用3Dプリンターを用いたプライベートヴィラ開発事業を開始

これは設計や施工できる装置や人材がまだ限られている点が大きな要因になっていると思われる。希少性に高い値付けがついているというわけだ。コンセプト開発から手掛ける建築家や先端技術に取り組むチームのコラボレーションは今後もさまざまな形であらわれてくるだろう。その一例が愛知県で取り組まれた憩いの空間を3Dプリンター製の家具で実現する取り組みだ。広告塔としてこうしたプロジェクトが開催され、その後3Dプリンティング技術が部分的にあるいは全面的に取り入れられた建築物が、徐々に日本国内にも増えてくることだろう。

特注家具メーカーと建築ギルド集団が、3Dプリンターで名古屋に憩いの空間を創出

人材難という課題の解消を自働化ソリューションで解決する建築3Dプリンター

大手ゼネコンの大林組も自社製の建築用3Dプリンターによるコンクリート建築を完成させ発表した。ゼネコンの課題感はハイセンスな空間創出よりもより現場要因に目が向けられている。人口減少で作業員を確保することが難しい建設現場が増え、工期がのび、費用が高止まりすることへの対策として、高機能コンクリートと建築用ロボットとして建築用3Dプリンターを位置づけ取り込んでいく考えだ。

大林組、建築基準法に基づく3Dプリンター製実証棟「3dpod」が完成

こうした建築用3Dプリンターは海外製が先行しており、輸入販売する事業者も増えている。シェアラボにも購入先の相談が毎月のように来るほど情報がまだ少ない中だが、地方の小規模建築業なども投資を検討している分野だと言えるだろう。数千万円する投資にはなるが高い関心が寄せられる分野だ。

3DPCが新たにWASP社の3Dプリンター4機種の販売を開始

 

技術検証から事業化へフェーズが変わる建設用3Dプリンター

建築3Dプリンターの分野では慶応大学も先端を進む研究を行っているが、事業化と研究はことなるスキルセットを求められる。そこで昨今のアカデミアの取り組みとしては客員事業家として事業化人材を採用する取り組みを行っている。サステナブルな建築に関する研究を事業化するプロデューサ―、経営者人材を取り込み、研究者の苦手を補う取り組みは全国の大学で導入や推進が計られようとしている。

大学発スタートアップ創出に向け、「3Dプリンター×建築」分野で客員起業家を公募 ― 慶応義塾大学

 

サステナブル対応と3Dプリンター関連ニュース

リサイクルやアップサイクルの取り組み

3Dプリンターによるリサイクルや製造時に廃材を減らすことによる環境負荷の削減に注目した取り組みも最近のトレンドとして注目しておきたい。日本家屋から徐々に姿を消しつつあるタタミをリサイクルしたアートプロジェクト「
廃棄される畳のい草と樹脂を3Dプリント家具の製造に活用」や「人とくるまのテクノロジー展2023」にて、大型3Dプリンター製の家具を展示や製造の過程で廃材となる木くずのリサイクルする新木質材料開発などが日本各地で取り組まれている。

広葉樹の廃材を活用した独自の木粉ペレット新材料開発

新技術によるサステナブル貢献

こうした新素材の開発の多くは既存の装置による製造されるわけだが、まったく新しい新技術として取り組まれるケースもある。
鉱石や劣化した金属粉末からでも高精度な金属材料を精製できる技術を持って世界に挑もうとしている日本のスタートアップ企業SUN METALONは有力なVCからの出資をもとに事業開発を推進している。トヨタ自動車などの企業への採用も決まっている他、海外有力企業の経営幹部をチームに加えるなど、日本のスタートアップとしては異例のスピード感とスケール感で事業化を推進している。廃材や鉱石からでも材料を生成し、金属部品を製造しようとする取り組みは、日本のように天然鉱山には乏しいが都市鉱山は豊富に持つ国でも、ゴミの山から新製品を生み出すことができる可能性がある。
国内金属AM装置メーカー、SUN METALONが新たに2.7億円の資金調達を実施
電子部品を3Dプリンティング技術も取りこんだ独自の製造ラインで量産するスタートアップも順調に成長を続けているようだ。自動車のCASE対応などで車載部品の高度化が大きく進む中で、事業拡大を狙った投資を行うエレファンテックも資金調達を行っている。従来の電子回路の製造とはことなり、必要な箇所のみに回路を配置するアプローチで立体的な電子回路の製造にも取り組む同社の取り組みは今後も注目するべきだろう。

エレファンテックが新たに約9億円の資金を調達

日進月歩のAM活用だが、どんな課題解決に活用できるかがキモ

世界の日本の3Dプリンターは日進月歩。毎月のこのレポートをまとめるために見返すとここでは取り上げなかった新製品や新素材投入、販売提携などの知らせが日々、飛び交っている。非常に動きが早くなっている中ではあるが、冷静に見るとまだまだ何が3Dデータなのか、3DCG系と3DCAD系の区別があいまいなまま議論がすすんでたり、その垣根を超えようとする取り組みがはじまっていたりとレベル感の違いがある中ではあるが、認識の枠組みの変化が起きつつある点が見えてくる。基本的な知識の解説として、3Dデータとは何かを3DCADソフトの一角「Fusion360」を運営するAutodeskの方に解説していただいた。一言で3Dデータと言っても、データの垣根があること、その垣根が徐々に崩れようとしていることが浮き彫りになるだろう。

Fusion 360の中の人に聞く!3DCADを使っていない製造業で働く人のための3Dデータ入門 

しかしこうした3Dデータに関する教育の場はまだ限られている。日本の製造業での3DCAD導入率は30%以下、2DCADでもモノづくりがまだまだ優勢だ。こうした状況を良く知る3Dプリンターの販売や保守に取り組んできたJBサービスの鈴木氏は、長年の取り組みの結果、次世代にバトンを繋ぐ検定制度の設立にイノベーションの鍵を見出している。

日本初の3Dプリンター検定試験の仕掛け人が語るモノづくりのブレイクスルーへの道 ― ACSP

さまざまな課題と可能性が混在する現在の日本の製造業と3Dデータ、3Dプリンターを取り巻く状況は複雑だ。去年事業を行っていた企業が今年はもう事業を行っていないケースもある。事業機会を見出したプレイヤーは鉄の意志と概念実証を血を流しながら行い道を切り開いていくしかない。多くのAM企業がここ数年の投資に対するリターンをこの先数年で回収しようとしている中、まだまだ取り組む余地は多いと思われる。

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