AMは日本の製造業の労働生産性を上げられるのか?
日本の製造業の労働生産性
7月になり、早いもので2024年も折り返し地点を過ぎました。それを待っていたかのように日本全国で記録的な猛暑が数日続いています。我が家でも去年までなんとかスポットクーラーでやり過ごしていた部屋に、エアコンを早めに取り付けたので慌てなくても済んだのですが、週末家電量販店に買い物に行ったら売り場はとても混んでいました。7月早々から猛暑では先が思いやられると思うと暗くなるので、どのみち猛暑になるから早く慣れておいた方が良いと思うことにしています。ただ日本の気象が年々、どちらかといえば悪い方に変化することは予測もされていたかと思いますし、実際変化していることは事実でしょう。それに対し気象をすぐに変えることは簡単ではなく、まず出来ることは人がどう適応するかで、するしないもそれぞれの選択ですが、結果は変わってくると思います。今回はそれに近い話題を取り上げます。
ShareLabのイベントページでもお知らせしていましたが、2024年7月4、5日にSOLIZE株式会社が開催したオンラインセミナー「グローバル社会を勝ち抜くデジタルものづくりとは~組織変革とアディティブマニュファクチュアリング~」を拝聴しました。ご講演者の豊富な設計製造の経験知識から、日本の製造業の課題と解決策や、AMの海外と国内の違い、利点と課題をわかりやすく示され、勉強になりました。その中で、日本の製造業の労働生産性水準が低いという話題がありました。実際の製造企業からの相談やヒアリングから、紙資料による情報伝達やデータの古さと正確性、またデータ管理収集にかなりの工数を費やしている課題があるとのことでした。そこで調べてみると、2023年12月22日に公益財団法人 日本生産性本部が「労働生産性の国際比較2023」を公表していて、副題には「日本の時間当たり労働生産性は52.3ドル(5,099円)でOECD加盟38カ国中30位」とありました。
さらに労働生産性の国際比較2023 報告書全文(PDF:2.3 MB)の中には、「製造業の労働生産性水準の国際比較」という章があり、概要を以下に引用します。
日本の順位は、2000年にOECD諸国でトップだったものの、その後をみると2005・2010年が9位、2015年が17位に後退し、以降16~19位で推移
日本の製造業の労働生産性は94,155ドル(1,078万円/第18位)であった。これは、米国の6割弱(56%)の水準で、フランス(96,949ドル)や韓国(102,009ドル)とほぼ同水準にあたる。主要先進7カ国で日本の下にいるのはイタリア(82,991 ドル)のみである。
もちろん統計数字と順位は為替含めた様々な要因で変動しますし、実態を表しているかは別にしても、2000年からの統計で日本の製造業の労働生産性水準は相対的に急に下がり続けています。上記の講演では「デジタルものづくり」へのシフトとその実現のための組織改革を提案され、AMは社会含めた課題解決のツールのひとつとされていました。その実例として、偶然にも前回のコラムで触れたNHK総合テレビ番組「魔改造の夜」に2回参戦され、CAEとAM活用で6週間という短期間にゼロから開発した装置で、2回とも最高タイムを記録したことを紹介されていました。
そこで、「AMは日本の製造業の労働生産性を上げられるのか?」の問いについて考えてみました。まず労働生産性の計算式を以下に引用します。
労働生産性を上げる方法は分母を小さくする、分子を大きくする、またはその両方なのは言うまでもありません。AMの使い方として、例えば試作品を作る人と時間を少なくできるとか、金型を作らずに部品が作れるという使い方は分母を小さくする効果はありますが、分母つまり付加価値の高い製品を速く作るためにAMを含めたデジタルエンジニアリングを使うという方がはるかに効果は大きいのではないでしょうか。日本の製造業はカイゼンに象徴されるように分母を小さくすることは得意であり、強みでもありますが、今の国際競争においては分子の付加価値を少しではなく相当大きく、それも速くすることの強みの方が重要と見られます。またAMによる「付加価値」はよく「構造最適」「軽量」「部品一体化」など部品自体の「直接付加価値」に注目されがちですが、それよりもアイデアを速くカタチにし、速く多く失敗・対策サイクルを回すことにより結果として出来る良い製品やサービスを速く市場投入する、または製造、品質管理、整備、保守、補修含めた「間接付加価値」の方が大きいと考えています。そのための使い方であれば「AMを含めたデジタルエンジニアリングは日本の製造業の労働生産性を上げられるツールのひとつ」だと考えています。偶然かもしれませんが、AM活用の盛んな国は労働生産性国別順位の上位にいるようです。みなさんはどう考えるでしょうか?
オンラインイベント JAMM#17開催のお知らせ
前回のコラムでもお知らせしましたが、オンラインイベントJAMM(Japan Additive Manufacturing Meet-up)はAMに関わるみなさんの人と人のつながりをつくるためのオンラインイベントです。その17回目を下記のとおり開催予定です。参加無料ですので、はじめての方もリピーターの方も、みなさんお気軽にご参加ください!
JAMM#17
開催日時:2024年7月26日(金) 16:00-18:00 ZOOMオンラインにて
プログラム、詳細と申込ページはこちらのウェブページをご覧ください。
多機能鉄道重機の導入開始!ロボット技術で鉄道メンテナンス ― JR西日本グループ
この例も労働生産性を上げる間接価値を生んでいると思います。AMを含むデジタルエンジニアリングの貢献は、この重機を短期間に開発して社会実装できたこともありますが、これが使われることで多くの鉄道メンテナンス作業の労働生産性を上げるでしょうし、メンテナンスが改善されれば鉄道輸送のトラブルも減り、社会全体の労働生産性向上にもつながるでしょう。また似た課題を持つ海外でもこのような重機を高値で買ってもらえるとすれば、さらに製造労働生産性を上げることにつながると思います。
2024年次世代3Dプリンター展東京速報①
出展または来場された方も多くいらっしゃるかと思いますが、私も長年出展者として参加してきました。今回はシェアラボに加わって初めて参加した展示会で、これまでと違う立場で見る展示会はまた新鮮でした。展示ブースはそれぞれ製品もブースの大きさも出展の狙いも異なるので一概には言えないのですが、以前と比べると企業や製品の説明的な展示は少なくなり、より具体的で現実的な活用方法をアピールするブースが増えたように思いました。それは日本の3Dプリンティングが定着、成熟してきた表れで良い傾向だと思いました。一方で、まだ「売り手視点」の展示や説明も多かったようにも見えました。どの企業も、製品やサービスも「万能選手」はないはずで、どのような人に対し、どう使ってもらって、何と比較してどのような利益をもたらすか、また自社の強みは何で、買う人にとって何がいいのかなどが分かる「使い手視点」のアピールがまだ少なかったようでした。それも含め、日本のAMは全体に変曲点を迎えていると思いますので、使い手も売り手もどう変わっていくか、という課題が感じられた展示会でもありました。皆さんにとってどのような展示会だったか、機会があればぜひお聞かせください。
ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!