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インターモールド2019名古屋特集
インターモールド2019名古屋
INTERMOLD名古屋/金型展名古屋(主催:一般社団法人日本金型工業会)ならびに「金属プレス加工技術展名古屋」(主催:一般社団穂人日本金属プレス工業協会)が、2019年6月19日(水)から22日(土)までポートメッセなごやで開催された。
このイベントは金型、プレス、加工技術がメインだが、「3Dプリンティングパビリオン」と題してセミナー用の一角が設けられており、そこで3Dプリンティングに関する各種セミナーが行われた。中でも日本3Dプリンティング産業技術協会の『実部品製造へ進化する海外3Dプリンター技術動向』については興味深い内容として最新事例がたくさん紹介されたので、いくつか目を引いたポイントをピックアップしてお届けする。また3Dプリンティング関係で目を引いたブースへのインタビューとして3Dプリンティングに関する興味深いお話を聞くことができたのでこれも順にご紹介する。
●セミナーによる海外最新事例の紹介
日本3Dプリンティング産業技術協会 / 金沢大学
●3Dプリンティング関係で目を引いたブースへのインタビュー
丸紅情報システムズ / 株式会社ミスミ
●ShareLab編集部感想
セミナーによる海外最新事例の紹介
今回のイベントでは3Dプリンター製品自体の出展はなかったが、試作分野の方々も多いせいか、日本3Dプリンティング産業技術協会による13時から行われた『実部品製造へ進化する海外3Dプリンター技術動向』は満席。その周囲にもたくさんの方々が集まっており、ここでも3Dプリンティングについての関心度の高さが伺えた。
このセミナーで聞いた内容は次のようなもの。
- 海外では特にアメリカ、ヨーロッパにおいて3Dプリンティングに関する展示会が盛大に行われている
- 昨年の11月13日~16日の4日間、ドイツのフランクフルトで、「formnext 2018」が行われ、出展参加企業数は630に上った。さらに今年5 月21 ~23日にはアメリカ ミシガン州デトロイトにあるCobo Centerでは北米最大の3Dプリンティング専門展示会「raipd+tct2019」が盛大に行われ、出展参加企業数は400社以上。来年はアナハイム 西海岸ロスアンゼルスで行われる。
- 金属による量産品製造の動きが活発化している
- 現在3Dプリンティングの活用が大きく進んでいる分野は、航空宇宙分野、医療、歯科など、付加価値の高い世界が中心で、自動車産業ではBMWなどまだ一部だが、金属製品を量産するための準備(自動化、連続生産)は確実に進んでいるという。生産自動化の動きでは、材料を供給するところと造形するプロセス、また造形した後のビルドチャンバー(造形が行われる箱)を冷却して取り出し、さらに造形物を取り出すというプロセスを自動化すべく、それらの間をコンベアーでつないでしまって全体を工場にしてしまおうという流れと、そこまでいかないでフレキシビリティを持たせるために途中をロボットでつないで人手がかからないようにしようという流れの二つの動きがある。例えば前者タイプの製品では、ドイツ最大手、造形機メーカー「SLMソリューションズ」が、すでに中国のメーカーで1社納入実績あり、1つ社内でも確保している。後者では、ドイツのEOS、ダイムラー、シーメンスがAGVみたいなものでつなぐなど、協同で実証実験を行っている。また他にも日本が得意とする金属加工の世界では、切削まで3Dプリンターの箱の中でやってしまうというハイブリッド造形機が出てきている。
- 品質管理においても、造形中のセンシングデータからGo/No判定を行うレベルが近づいている。また箱の中をモニターしてどう作られているかしっかり見ていこうという動きがみられる。
- バインダージェット方式による金属造形(低コスト金属造形)は、β版の出荷が始まり、ExOneに続き、各社2021年の本格販売を目指し装置開発を進めている。
- フィラメントやパウダーといった3Dプリンターで使用する材料面では、樹脂材料の大手化学メーカーの参入が続いている。
- ドイツ大手メーカーのBASF、スイス大手のクラリアント、三菱ケミカル、Kodak、Xerox,など。また、金属材料など日本の材料メーカーの出展も増加しており、材料技術での活躍が期待されている。
- 新技術では、複数層の一気造形や、多数ビームによる露光など、高効率を目指す技術開発が継続しており、スピード、コスト共に更なる改善が見込まれている。
特に中でも目を引いた三つの企業の取り組みをご紹介したい。
オーストラリアの金属3Dプリンターメーカー「Aurora Labs」では、レーザーを1層ずつやるのは面倒なので20層ぐらいまとめて一遍で照射し、製造スピードを飛躍的にアップさせる技術を開発中だ。
ドイツの工業用3DプリンティングソリューションプロバイダーであるEOSは、「LaserProFusion テクノロジー」という革新的なポリマーAdditive Manufacturing製造技術を開発中。これは一度に百万本のビームを露光することで露光時間を大幅に短縮して従来システムの10倍の高速3Dプリントを実現する。これは2021年度に製品化を予定している。
そして、民間航空機メーカーAirbusの子会社「3D SURFIN」では、3Dプリンターで出力した金属製品の後処理を電気処理で綺麗に仕上げる技術を開発中とのことである。
以上、ますます3Dプリンティングについての技術開発や活用が進んでいる海外の状況に比べ、量産化にすぐ使えないなら興味ないといった風潮がある日本との温度差を非常に感じた。
次に行われた金沢大学のセミナーでは、金属AMによる金型製作の利点や課題について語られた後、アカデミアの立場から各課題の解決に向けて取り組んだ内容について、具体的な映像による事例を交えて紹介されていた。特に3Dプリンターという箱の中で何が行われているか、レーザー照射中に何が起きているかプロセスをモニタリングして詳細なデータを元に課題を抽出し、分析を行った事例紹介だったため、集中して聞いていないとついていけなくなるのだが、前のセミナー同様聞いている人は多かったにも関わらず最後までしっかり目をこらして聞いている人がほとんどだった。その点から推測するに、おそらくは集まっていた方の多くが導入を真剣に検討していたり、自身も3Dプリンターを使っていて試行錯誤に苦労されている方々なのであろう。
◇丸紅情報システムズ株式会社
まずは3Dスキャナを展示していた丸紅情報システムズ株式会社に話を聞いてみた。
丸紅情報システムズは、日本でも3Dプリンターを扱った商社としては一番長いこともあり、話を聞いた早川直樹氏(製造ソリューション事業本部 計測ソリューション部 営業二課 エキスパート)は3Dスキャナを扱う部署でありながらも3Dプリント自体への造詣が深く、大変興味深い話を聞くことができた。これから業務用3Dプリンターや3Dスキャナの導入を検討している方はぜひ注目していただきたい。
○スキャナ側の入力精度の方が大事
3Dスキャナを使ったリバースエンジニアリングにより部品や治具を作成するケースも増えてきているが、3Dプリンターで満足のいく製品を作るのに使われる3Dスキャナはまだまだ精度が低いという話をよく聞く。それについて伺ったところ、ハンディタイプの簡易スキャナはまだそのようなケースがあるが、丸紅情報システムズで扱っている3Dスキャナ「ATOS Core」は精度に関してもすでに十分な性能を持っているという。スキャナよりはむしろ、3Dプリンターの値段だけ見て購入し、思った造形ができず失敗しているケースが多いそうだ。「出力側プリンターの方が精度以上に、入力側のスキャナ側の入力精度の方が大事です。よくあるのが、メーカーさんが3Dプリンターを買ってほしいがためにセットとしておまけ程度にバンドルとしてつけている3Dスキャナを購入してしまい3Dプリンティングに失敗しているケースです。本当はプリンターよりも上の精度のスキャナを購入しないといけないんですよ。」言われてみればその通りだ。ただ思うに、今では目的とする品質のアウトプットをするために『いかに3Dデータを作るか?』という点が大事なことは、すでに3Dプリンターを導入して試行錯誤を繰り返している人たちはよくわかっていると思うが、高額な業務用3Dプリンターの価格を考えれば、その失敗パターンを犯してしまうケースも理解はできる。聞けば精度が高いというだけあって、展示されていた丸紅情報システムズが総代理店として扱っているGOM社の3次元スキャナ「ATOS Core」の価格は、展示されていた低価格モデルでも380万円代~、車なども測定できる3Dスキャナは8000万から1億超えクラスだという。スキャナからプリンターまでトータルでハイエンドを揃えようとすると、どうしてもプリンター側を重視してしまうのは致し方ないような気がした。
3Dスキャナは主に外部のスキャンに限られるが、内部までスキャンしたい場合はどうするのか聞いたところ、今年CTの製品もリリースしたので、3Dプリンター含めトータルサポートという面からみても抜かりはないそうだ。またソフトに関してもスキャナ、CTともに共通のソフトを使うのでソフト二本分操作を覚える必要もないとのこと。「ATOS Core」のScanソフトウェアで作成されるのは高品質で高密度のポリゴンメッシュデータだが、出力はSTL形式で、多くの3D CAD ソフトでも扱えるのでCAD化したいという場合も心配ないという。さらにCAD化については興味深いお話を伺ったが、それについては別の機会で紹介する。
○海外に3Dデータを送って出力する場合に気をつけたいこと
冒頭の日本3Dプリンティング産業技術協会のセミナーでは、すでにドイツの鉄道会社シーメンスが鉄道のリペア部品の3Dデータを世界中に送って現地でプリントアウトしているという事例を聞いたこともあり、すでに最終製品として評価も終わっている精度の高い3Dデータを送れば、プリンターが同じならどこでも同じ製品ができるのか?という点について伺ってみたところ、そう簡単にはいかないという。「表面データしかないので肉厚をどこまでつけるか決めないといけません。スキャナのデータを送っただけではダメで、最初の綿密な相談は必要です。肉厚の量によってそれだけ材料費かかるので、そこを決めないとコストが跳ね上がります。肉厚は誰がつけるのか、編集は必ず必要。ただ一回そのすり合わせをしっかりやってコンセンサスが取れていれば、どこで出力しても大丈夫です。」「あと、思っているお互いの知識量が同じなのかという点も大事。設計変更しなくよいのか、コピーなのか本当に確認しないと。例えば樹脂は柔らかいから自重等で変形します。治具で固定しないといけないのに、置いて倒れたまま計測(スキャン)してしまって後からこんなのじゃないと言われることもあります。そこをちゃんと伝えておかないと。特に金型など、摩耗した金型をそのままスキャンしただけだとプリンターで出力した際、どこまでエッジを立てていいのかなどわかりません。元の金型を知らないのであれば受けてはいけないと思いますね。測定までしかお金取りませんと言っておかないと後でもめる可能性があります」
確かに今3Dプリンティングに関心を持って勉強しているが、まだその域を出てない人と、試作品だけではなくワンオフの最終製品や一部だが部品の量産化に取り組んでトライ&エラーを繰り返している人の知識量は、経験を踏まえての話と机上の話とで相当な認識のずれが発生することだろう。
また10年後などもっと将来的な興味深い話も聞いた。「プリンターを持たないという手段もあります。なぜならプリンターが供給過多になってしまう可能性があるから。3Dプリンターをどこでも使うようになってくると、紙の印刷屋さん(DTPによるサービスビューロー)と同じになってくる。当然データを作るノウハウの方で差別化が進むようになるでしょう。」今の日本の普及レベルからすると何年後ぐらいにそうなるのかなかなか推測が難しいが、確かに海外の事例を聞くとリアリティが出てくる。
○どの材料が一番適切なのかわからないときは?
最近は、金属でも樹脂でも3Dプリンティングの材料が増えており、自分が作る試作モデルにどの材料が一番適切なのかわからない方が多いという話を聞く。それについて伺ってみたところ、丸紅情報システムズは日本国内において3Dプリンティングについての歴史が一番長く、材料測定値など参考として提示できる事例もたくさん持っているため、当社に依頼してもらえば大丈夫との回答であった。3Dスキャンから3Dプリントまでワンストップで導入の面倒を見てほしい企業様は一度お話を伺いに行ってみてはいかがだろうか。
◇株式会社ミスミ
次に、部品調達のデジタル革命と言われる、3Dものづくりプラットフォーム「meviy(メヴィー)」(を展示していた株式会社ミスミのブースに行ってみた。
この3Dものづくりプラットフォーム「meviy」は製造業の見積りや発注にかかっていた時間を大幅に短縮する革新的なサービスとしてすでに様々なメディアでも取り上げられている。そのためご覧の通り、なかなか盛況でPCのサイト画面を通して確認している人も多かった。3Dデータをアップロードするだけですぐに自動で見積り計算され、そのまま発注すれば最短1日で出荷してくれる。現在提供しているのはFAメカニカル部品(板金部品、切削プレート)、ラピッドプロトタイピング、金型部品の3サービスで、既に14,000人以上のユーザーが利用しているという。中でもラピッドプロトタイピングは、製品開発サイクルを最大80%短縮できているそうだ。この3Dデータによる自動見積りプラットフォームについてはShareLab編集部でもかなり前から注目しており、ここで改めて少しお話を伺ってきた。
〇見積りまでは無償で使える!
現在この「meviy」の利用については、見積り・納期確認・加工性の検証までは無償で提供しているとのこと。料金が発生するのは、実際に発注をした時点からになるというので、まだこのサービスを試したことがない人で、3Dデータをお持ちの方はぜひ試してみてほしい。まだ知らない人は以下URLからデモ体験ができるので、まずは触ってみよう。
>> デモ体験をやってみる
今までの見積りのやり取りと発注までかかった時間を振りかえった時、隔世の観を感じるのではないだろうか。今後もこのような日本の製造業を大きく進歩、発展させる技術やサービスについてはShareLab編集部としても大きく取り扱って応援していきたい。
編集後記
それにしても今年からいくつか3Dプリンティングのイベントに出かけていつも思うのは、海外と日本の温度差である。関心は高いが導入が思ったほど進んでいないのが実情で、そこにトライ&エラーに躊躇のない海外と常に慎重な日本独特のカルチャーの違いを改めて感じる。
最後に、今回のイベントとは関係ないが、ポートメッセなごやを後に、金城ふ頭駅へ向かう途中、海側に目をやると、関東の人間として初めてみる名古屋製鉄所の圧倒的メカニカルな眺望に、まさに製造業のイベントを行うのに相応しいロケーションだな・・と感慨深く思った。