AM Ventures サイモン・リー氏が語るAM業界の“加速度”
多くのスタートアップ企業が、事業を拡大しようと新たな人材の雇用や設備の投資に乗り出すとき、必ずと言って良いほど会するのが資金調達と投資家の存在である。本記事では、2019年11月1日開催の「In the frontline of AM Business ―AMビジネス最前線―」で行われた、AM Venturesアジアリージョン統括 サイモン・リー氏の講演の様子をレポートしたい。
AMに特化したベンチャーキャピタル・AM Ventures
前述の「In the frontline of AM Business ―AMビジネス最前線―」をDMM.makeとともに共同開催しているAM Venturesは、ドイツ・ミュンヘンに本社を置くベンチャーキャピタルである。同社は、出力管理システムで知られる3YOURMIND社や積層造形のプロセスシミュレーションシステムを展開するAdditive Works社をはじめとする7カ国16社をポートフォリオに持ち、2019年6月には新たに韓国に拠点を開設した。
イベントに登壇したアジアリージョン統括を務めるサイモン・リー氏は、AM業界でプレイヤーとして携わったのちに、AM Venturesにジョインしたという。
世界からの注目を集めるAMビジネスのいま
ピッチでは、「世界のAM産業とAM関連のスタートアップ情勢について」と題して、AM業界の概観を説明していただいた。
3Dプリント技術は、AIやブロックチェーン、XR、IoTとともに世界から注目を集め、デロイトトーマツグループによる分析においても指数関数的な拡大が見込まれる「エクスポテンシャル・テクノロジー」の一つとしてあげられている。AMビジネス市場の年平均成長率は20%を超え、その勢いは試作品の製造に留まらず、ゲームチェンジャーとして各業界に浸透していくと考えられているそうだ。
実際に3Dプリント技術が企業で導入される事例も増えている。中でも有名なのは、2015年よりゼネラル・エレクトリック社(GE)が航空機の燃料ノズルの3Dプリントによる生産を開始したこと。部品の数は3,000品にのぼり、“マスプロダクション”と呼べるだろう。航空宇宙やヘルスケア業界は新しいテクノロジーが比較的受け入れられやすいが、2018年には自動車メーカー・BMWが部品の製造に3Dプリント技術を導入したことを発表するなど、実際に他業界でも活用が広がりつつあるようだ。
3Dプリント技術が製造業を変革させる2つのアプローチ
AM業界の盛り上がりは伝わってきたが、具体的に3Dプリント技術はどのように製造業やビジネスを変えていくのだろうか。
リー氏はそのアプローチとして、「コスト削減」と「品質の向上」をあげた。前者のコスト削減により既存の製品の生産プロセスの効率化や顧客満足度を高める持続的イノベーション(Sustaining Innovation)を起こすことができる。後者の品質の向上については、3Dプリント技術ならではの複雑なデザインや低重量な設計を実現できることによって製品やビジネスモデル、ワークフローを一新する破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)を起こすことができることが説明された。
スタートアップ企業をトータルで支えるベンチャーキャピタル
革新的な変化が起こる分野において、スタートアップ企業は大きな役割を担う。実際にAM業界においてもその例外に漏れることなく、ハードウェアやソフトウェア、材料など多様な分野でスタートアップ企業が活躍している。そんなテック系スタートアップ企業は共通して、大きな資金投資が必要であることが言える。今年2019年はAM関連スタートアップ企業による資金調達のニュースリリースがいくつも飛び交っていたが、AM Venturesもその立役者なのである。
同社の強みは、やはり業界に特化してきたことで培われた知見であるだろう。さらに、定期的に投資企業のメンバーを集めてワークショップを開催するなど、資金面ではない支援の手厚さが覗えた。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。