フラウンホーファーIGDが高効率・高精度を可能にする材料噴射方式の新技術を発表
ドイツの研究機関 フラウンホーファー研究機構コンピューターグラフィックス研究所(以下、フラウンホーファーIGD)は2021年8月11日(水)、コンピューターグラフィックスとインタラクティブ技術に関するオンライン展示会「SIGGRAPH 2021」にスピーカーとして登壇し、より高効率・高精度化する材料噴射方式(Material Jetting)の新技術をまとめた学術論文を発表した。(出典:Fraunhofer IGD)
材料噴射方式(Material Jetting) モデル材となる光硬化性樹脂とサポート材となるワックスを複数のノズルから噴射し、紫外線を照射することでモデル材の部分だけを硬化させるプロセスを繰り返し、積層していく造形方式。モデル材に色や他の材料を混ぜることができるため、フルカラーでの着色やさまざまな硬度のモデルを造形することが可能。また造形精度が高く、なめらかな表面のモデルを造形しやすいことも特徴的。
「現在市場に行き渡っている材料噴射式3Dプリンターは、ハードウェアの発達にともなって高い解像度と高精度での再現を可能にし、よりリアルな造形を実現できている」と語るフラウンホーファーIGD。しかしその実現には、目的とする表面を近似するために必要なポリゴン(3DCGモデルにおける3点以上の頂点を結んでできた多角形データ)の数が多くなるため、ファイルサイズや送信機能、処理速度をより向上させねばならない。造形サイズが大きくなるほどに顕著になるという。
フラウンホーファーIGDの3Dプリント研究チームが発表したのは、この問題の解決策となる学術論文「Displaced Signed Distance Fields for Additive Manufacturing」(アディティブ・マニュファクチャリングのための変位符号付き距離フィールド」だ。
この手法の優れた点は、造形物の表面部分をマクロスコピック(巨視的)部分とメゾスコピック(巨視的と微視的[ミクロスコピック]の中間に位置する領域)部分に分けたうえで、メゾスコピック部分を使用して微細な表面の詳細と滑らかな曲面の両方を再現できること。これによってフラットプリミティブを使用した造形物表面のモザイク部分の調整が可能になる。特に造形物のサイズが大きい場合、スケーリングにともなう形で効率が向上する。
発表された論文の手法はフラウンホーファーIGDが開発する材料噴射方式の3Dプリンター「Cuttlefish」に応用されているという。
フラウンホーファーIGD
1987年ドイツに設立された研究機構 Fraunhofer Institute for Computer Graphics Research IGDは、画像と3Dモデルに基づくビジュアルコンピューターサイエンスの応用研究を目的とした世界有数の研究所。ヒューマンマシンインタラクション、仮想現実と拡張現実、人工知能、インタラクティブシミュレーション、モデリング、3Dプリンティング、3Dスキャンが主な研究課題。ドイツのダルムシュタット、ロストック、キールの3つの街に拠点があり、研究者の数は約180人。インダストリー4.0、デジタルヘルスケア、スマートシティ向けの新しいテクノロジーソリューションとプロトタイプの開発に勤しんでいる。オーストリアの都市グラーツやシンガポールにある姉妹機関と連携して活動の幅を広げている。年間予算は2,100万ユーロ(約27億円)とされ、研究の成果を産業と経済の戦略的発展に役立てている。
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