イベントレポート「いまさら聞けない、製造業の3Dプリント」@渋谷
Point
- イベント前半部は、3Dプリンター各造形方式のメリットデメリットについて
- イベント後半部は、3Dデータをプリンターで出力する際によくエラーが発生するパターンの紹介
- 交流会で聞いた業界の問題や今後の課題
概要
2019年9月26日に (株)3D Printing Corporation が主催したイベント「いまさら聞けない、製造業の3Dプリント 3D Printing特区」を取材してきたので、その内容についてお届けする。
「いまさら聞けない~」というだけあって、前半は3Dプリンティングをほとんど知らない方用の造形方式についての説明だったが、それについてのスピーカーは3Dプリンティングについてのコンサルティングを行っている (株)3D Printing Corporation の方だけあって非常にポイントを押さえられておりよくまとまっていた。
また後半のパートに登壇されたゲストスピーカーであるPolyring 五十嵐さんのお話は、3Dデータの取り扱いというテーマで、造形に失敗したり、エラーが発生するパターンについてご説明いただき、非常に勉強になった。
今回はできるだけキャッチアップしやすく、聞いた内容をコンパクトにまとめてみた。
特に後半は、すでに3Dプリンティングを行っている人でもよく把握していかなった意外なポイントがあるかもしれないので、ざっと目を通してみていただきたい。
造形方式のメリット・デメリット
前半のスピーカーの方からご説明いただいた大きく四つに分けた造形方式のメリット、デメリットについて聴講した範囲で、サクッとキャッチアップできるようまとめてみた。まだ各造形方式のどれを選択すれば良いのか判断に悩まれている方には、非常に参考になるだろう。
章末に、スピーカーの方のスライド資料があるので、詳しく図解で見たい方は、そちらを参照していただきたい。
■FDM/FFF(熱溶溶解式積層造形)
〇メリット
- 今回ご紹介する四方式の中でも一番プリンターの価格が安く、素材も安価なので、導入コストが抑えられとりかかりやすい
- 高い耐久性や耐熱性を得やすいので、試作品や治具、簡易型の造形に最適
〇デメリット
- 高精度、低誤差の造形はきびしい。基本的に誤差±0.1ミリが限界
- 断層が目立ちやすいので、後処理が必要
〇主な素材
ABS/PLA/PETG/ASA/NYLON/TPU/PEEK/ULTEM等
★ 熱溶解積層方式についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
工業用樹脂素材の造形が可能。小型で追加の設備も不要。材料押出堆積方式3Dプリンター
■SLA/DLP(光造形)
〇メリット
- 1ミクロン(0.001ミリ)単位の造形が可能。仕上がりがなめらかなので精度を求めれる製品に向いている
- 造形中の音が静かなので、騒音をあまり心配しなくてよい
〇デメリット
- 本体も材料も高額なので小ロット製造などには向かない
- 比較的もろいので、長期的な保管や実用には向かない
〇主な素材
エポキシ系樹脂、セラミック、ロストワックス等
★光造形についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
高精度で造形速度が速く、滑らかな曲線も造形可能。光造形方式3Dプリンター
■SLS(粉末焼結積層造形)
〇メリット
- サポート材なしで、複雑なもの、高精細、高耐久性のものが作れる
- 使える材料の幅が非常に多く、さまざまな用途に合わせて使える
- ワークサイズが大きく、材料強度も高い
〇デメリット
- 数百~数千万と初期投資が高くつく
- 造形後、表面がざらつく
- 前処理、後処理が多い
〇主な素材
NYLON、PP等
★粉末焼結積層造形方式についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
金属3Dプリンターにも利用される粉末焼結積層造形方式。高耐久性、サポート材不要!
■SLM/DMLS/LPBF(金属造形)
〇メリット
- さまざまな造形方式が存在し、低コストなものから高精度のものまで幅広い応用が可能
- 最終製品として使えるパーツが造形できる
- 使える金属材料の幅が非常に広い
〇デメリット
- 本体も材料も高額なため少量のサンプル造形には向かない
- 本体のサイズや設置条件、付属装置も多く、気軽に使えない
- 前処理、後処理が多く、メンテナンスの負荷も高い
〇主な素材
アルミニウム、チタニウム、CPPPER等
★ 金属3Dプリンターの造形方式についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
金属3Dプリンターの原理と仕組み、製法と種類を一挙公開
各造形方式について、図解入りで詳しく知りたい方はこちらのプレゼン資料をご覧いただきたい。
3Dプリンター用データ出力時の注意点
エラーデータについて
〇ザク値の設定ミス
ザク値とは簡単に言うと、どれぐらい細かい三角で設定するのかということ。 つまりCADデータに対してどのくらいの細かさで変換するのか?という指定のことだが、これを誤るとミラーボール現象と言って、球状の物体の場合、カクカクした形状で変換される場合がある。これは適切な値を設定すれば修正可能だ。
〇ポリゴンの精度
CAD側の設定でポリゴン一辺の値を細かくするほど滑らかな曲面になるが、データは重くなる。逆の場合、データが軽くなるが、仕上がりの精度が落ちる。また3Dプリンターの限界スペックである積層ピッチより細かくしても意味がないので、最小出力解像度をしっかり確認しておく必要がある。
〇データ互換の際によく起こるエラー
バッドエッジ、近接バッドエッジ、近接バッドエッジの穴、反転三角、重複三角といったデータ作成時のミスがある。(これについて詳しく知りたい方は章末のプレゼン資料を参照いただきたい。図で解説してある。)
CGから3Dプリンターへの受け渡しの際によく起きるエラー
- ポリゴンCGでよくある厚さの設定がないテクスチャは、3Dプリンターではエラーとなり出力されない
- モデル同士が重なり合っている断面(交差部分)があるとエラーになる
- 質量をもたせることを意識して、必ず厚みをもったデータにする必要がある
CTデータから3Dプリンターへの受け渡しの際によく起きるエラー
細かすぎるところがあると造形できたとしてもすぐ壊れる可能性が高い 。
3Dスキャンデータとその扱いについて
- 穴が空いているものは、3Dスキャンできないので、プリント前にデータの穴を埋める必要がある
→ ソフトウェアの編集で穴を埋め、完全な立方体にする必要がある。 - 造形機の出力精度以上のデータを作らない
→ 造形機の積層ピッチ以上のモデリングをしても当然そのモデリング部分は出力されないので、そのような無駄は省く。 - 重力圧に注意する
→例えば細い棒状のものが斜めになっているものを作る場合、 3Dプリンター内で造形中に、造形物自身の部分的な重さによって倒れたり崩れてしまったりすることがある。そのため造形物の形や大きさによって、造形できる適切な厚み、細さが変わることを理解する必要がある。 - 造形エリアを意識する
→ 出力できる最大造形サイズの把握せず、その限界サイズを超えた3Dデータを作成してしまうと、当然出力できない。 - 嵌合部分がある場合は、必ず隙間の設定が必要
→ 3Dプリンターは、3D CADで作成した値のまま出力するので、隙間を設定しておかないと部品同士がはまらない。
ここまでの内容についてイラストなどの図入りで内容を詳しく知りたい方はこちらのプレゼン資料をご覧いただきたい。
交流会にて
登壇者の話が終わった後は、提供されたビールなどを飲みながらの歓談となった。
そこで、3Dデータの取り扱いポイントについてわかりやすく説明してくださった Polyringの 五十嵐様にいろいろお話を伺ってみた。
★ポリゴンデータについての誤解
以前インターモールド2019の記事でも書いたが、丸紅情報システムズさんにお話しを伺った時、製造業界の方が、3Dプリンターで出力するためのデータについて、CADデータ化にこだわりすぎるのは問題だと言われていたことについて話を聞いてみた。
「確かにそういう傾向はありますね。『ポリゴンデータって、しょせんCADで見るための参照データでしょ! 』 と言われてしまうことが多いんです。
アセンブリと言われる内部部分については精度が低いので使えないのですが、他の部品と嵌合のない外装、外観であればポリゴンでも問題ありません。でも日本だとその認識はなかなか浸透してません。」(五十嵐氏)
しかしそのような現状でも、デジタル時代の最先端をいくCADベンダー各社は現在、積層造形との連携強化を進めていることもあり、ポリゴンデータ処理に関する機能は、ブラッシュアップされていく流れだ。
それについては以下の記事をご紹介する。
<参考記事>
3D CADの中でポリゴンとソリッドは歩み寄り、先輩から教わった常識を壊す時が来る
★世界で進む3Dデータ活用となかなか普及が進まない日本
3Dプリンター活用が進む海外事情の勢いから、これからは3Dデータをいかに作るか?という方に移行していくだろうといった点についてもお話を伺ってみたところ、オートデスク社は、CADソフトとしてすでに認知度の高いFusion 360 を、売り上げ規模が一千万以下の企業であれば、クラウド上にデータをアップしてもらえれば、無料で使えるというサービスにしているそうだ。
つまりソフトの利用シェア拡大を狙うと同時に、企業戦略としてデータ活用の道を模索しているということだろう(別にオートデスク社が製品データそのものを見ているということではなくて、どういった種類のデータがアップされているかといった副次的な情報をマーケティング利用のために収集していると推測される)
しかし、ネット上にデータを上げるなんて、とんでもないと仰る企業様が多く、日本ではなかなか普及が進まないのだとか。
とはいえ3D CADの導入を考えた時、 著名な3D CADソフトであるSOLIDWORKSなどはスタンダードでさえ価格が百万円ほどするので、中小企業にとっては悩ましいところだろう。
また業界的に3Dデータを作成できるエンジニアは現状でも不足していると聞くが、実務の現場でもこうした障壁があるため、その需要自体も世界の潮流とは異なりそれほど伸びてないらしい。
希望的観測にはなるが、この辺りのネックとなっている障壁をクリアできれば、3Dデータ活用が飛躍的に進むかもしれない。当サイト編集部ではその可能性について今後探っていきたい。
関連情報
株式会社3D Printing Corporation ウェブサイト
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。