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フォームネクストフォーラム東京2024報告(前編)

「そんなに毎年技術革新が起こるわけではないだろう」と思われる方もいるかもしれないが、3Dプリンティング技術に関しては、変革は随所で起こっている。特にAM材料の多様化やソフトウェア面で現実的な課題感に答えを出していく製品やサービスが登場してきたことに、AM活用の解像度の高まりを感じたフォームネクストフォーラム東京だった。

前編・後編の2回に分けてフォームネクストフォーラム東京の内容をご報告していく。前編にあたる本記事では数多くの出展ブースの中からほんの一部に限られるが、ファストレヴューという形で出展内容に関してご紹介したい。後編では興味深い内容のセミナーも数多く開催されたので、その内容の報告を行っていく。(写真は会場で開催されているセミナー風景)

第一セラモ株式会社

長年MIM向けに材料開発を行ってきた第一セラモだが、フォームネクストフォーラム東京ではMEX方式の廉価版3Dプリンターでも手軽に造形可能な金属・セラミックスフィラメントを開発し、展示会では初のお披露目となった。ステンレス、チタン、銅、アルミナ、ジルコニアなどを利用した造形が、高額な金属3Dプリンターを購入しなくても可能になる。

SUSとアルミナを発売。今後種類を増やす予定
SUSで造形されたずっしりと重たいサンプル

造形後には通常と同じように脱脂・焼結の工程が必要になる。開発者によれば「2年ほどかけて肉厚、薄肉、さまざまな形状でも造形に支障がないように材料開発に取り組みました。脱脂・焼成後の形状も安定するように仕上がったと思います」と自信をのぞかせる。脱脂、焼結工程には脱脂装置、焼結装置が必要になるが高額だ。その点にも配慮し、第一セラモが脱脂・焼結工程の受託も行い、今後需要拡大を図っていくとしている。

UEL株式会社

ポリゴン編集ソフトに関して詳細に説明してくれた
データの後加工を劇的に楽にする機能を搭載している

UEL株式会社 は3Dプリンター用スライス処理ソフトの「AMmeister」と3Dプリンターへの出力データ(STL等)の作成を支援するポリゴンデータ編集ソフト「POLYGONALmeister」を出展。近年賑わいを見せる3Dスキャナーだが、計測データを実際に使える状態にする後処理は手間も多い工程だ。そのデータ加工などの処理の面倒さを容易に修正することができる機能を数多く取り揃えているが、実際に作業を行った人ほど時間削減効果を実感できることだろう。専門の作業者でなければ作業が難しい点をソフトウェアの面でサポートするこうした取り組みは、見えないコストの問題解決につながりそうだ。

Farsoon Technologies Co., Ltd.(日本3Dプリンター株式会社)

世界中で導入が広がる中華製3Dプリンターは一昔前の安かろう、悪かろうのイメージを覆し、圧倒的なスピード感で成長してきた。そんな中国の成長を実際に担ってきた3Dプリンター装置メーカーFarsoon Technologies社は売上高でいうと世界第4位、世界最大サイズのSLS方式3Dプリンターを製造する中国のメーカーであり、日本での販売は日本3Dプリンター株式会社が行なっている。

AMEA(アジア太平洋、中東、アフリカ地域)統括のVince Zhao氏
金属AMも樹脂AMも装置製造を行っている

今回の展示会ではDirector of Business Development-AMEA(アジア太平洋、中東、アフリカ地域)であるVince Zhao氏が直々に会場を訪れ、説明を行なっていた。昨年度は100台以上の出荷実績があったが、すでに日本でも導入実績があるという。

ホッティーポリマー株式会社

汎用ゴム・樹脂から高機能ゴム、スーパーエンプラまでゴム・樹脂のエキスパートであるホッティーポリマーは展示会ではよく見る会社である。フォームネクストフォーラム東京ではAMの高度利用を図る先端ユーザー向けの専門展示会という事もあり、装置メーカーの出展があまり目立たなかったが、ホッティーポリマーは装置から材料、応用事例までオールラウンドに展示ブースを構成しており、会場でも賑わいを見せていた。

柔軟な材料へのニーズは依然高い
ところ狭しと並ぶ3Dプリンターと材料

近年、産業用ロボットや協働ロボットの人気に伴い需要が出てきているロボットアームの先端部分に適した様々な材料を取り扱っているが、その事例は非常に興味深い。

シモダフランジ

鋳造品の総合メーカーであるシモダフランジ株式会社は、2年前から金属AMに取り組んできた。社内にMX3D社、Gefertec社のWAAM方式の金属3Dプリンターを計2台導入し、出来ることを検討してきた。実用に向けて試験を重ねる中で、製造各社の高い品質基準はハードルとして立ち塞がっているが、大手ゼネコンが木質材料を使った高層ビルを建築する際に金属AM品によるジョイント部品を検討しているというニーズと出会うなど、新しいビジネスチャンスも見つけてきたという。

いま注目の高層木造ビルを支える金属ジョイントをゼネコンと開発中
ニアネットシェイプを切削で仕上げる

普及のネックは価格面だ。高い金属加工技術を持つ日本ではAM品でコストメリットを出すには、独自の設計による付加価値向上が必須となる。開発から一緒に行っていくパートナーシップの締結が今後のカギとなってくる中で、従来加工を良く知り、AM造形機をもって早くから知見を蓄積している企業には大きなアドバンテージが生まれる。こうした取り組みを続けてこそ、数年後のブルーオーシャンを生み出せることだろう。

三菱ケミカル

独自性の高い展示ブースのデザインがひときわ目についた三菱ケミカルのブース。ブースデザインを担当した岡由雨子建築ディザイン株式会社によると「建築分野では建物ごとに意匠を独自にデザインし、建築できるものへと落とし込んでいくことが求められます。3Dプリンターでは造形の自由度が高いため、こうした取り組みと親和性があります。今後は建築基準法に準拠した難燃材料などに取り組んでいく予定です。」と建築分野での活用拡大に可能性を感じている様子だった。岡氏の事務所では独自にロボットアーム式の3Dプリンターを導入してこうした取り組みを続けていくと言うが、今回のブースの材料は三菱ケミカルのものを利用している。

顧客の要望に応え耐候性が高く透明度にも優れる材料も用意
「材料の硬さも調整できるので、様々な形状を実現できる」(岡由雨子氏)

顧客の声で求められる材料の実用化に取り組んできた三菱ケミカルだが、透明な材料、やわらかい材料、耐候性がある材料などをペレット式3Dプリンター用の材料ペレットの対応の幅を広げている。担当者に既存の射出成型用のペレットとの違いを聞くと「3Dプリンターは『溶ける』『流れる』『固まる』という大きく三段階の工程がありますが、特に『流れる』と『固まる』に適した配合を行っています」と回答があった。ペレット式の3Dプリンターはパラメーター開発の難易度が高いと聞くが、こうした部分に調整の苦労があるのだろう。材料メーカー側のAM対応材料にはこうしたハードルを下げることが期待できそうだ。

SCSK

SCSKはトポロジー最適化と流体解析を行うソフトウェア「ToffeeX」を出品。内部中空構造など3Dプリンターならではの構造を実現する際に、内部を流れる流体のシミュレーションは不可欠だが、専門的な知識とソフトウェアがあれば心強い。AM活用の先端企業では独自にシミュレーションソフトを開発するなどの取り組みも聞こえてきている中でもある。

国内ではすでにSolizeの利用実績があると言うが、熱交換部品のデモ展示もあり効果がわかりやすく示されていた。実際に造形して検証する前にシミュレーションを繰り返すことで大きなコスト削減、時間短縮も可能になるとあって、こうしたシミュレーションソフトの重要性は今後ますます注目されていくはずだ。

CTC

海外の大学発ベンチャーが開発した材料組成のシミュレーションソフト「QuesTek」を核とした受託シミュレーションを展示していたのがCTCだ。CTCではアカデミアやR&D向けのソフトウェア提供事業を行ってきたがその一環だという。AM関連の展示会での出展は今回が初めてとのことだった。

独自の材料開発の際に経験と勘で配合を決めるのではなく、事前にシミュレーションを行うことで材料開発の時間を大幅に短縮できる点を材料メーカーや専用材料を強みとする国内製造業に提案していくという。AM活用が今後本格化するにあたって材料技術が大きなカギを握るのは周知の事実だし、従来の工法では材料技術でも競争力を持っている日本の製造業にとって避けることはできない取り組みにDXを活用していく際の道しるべになる予感がした。

***

単体開催の専門展示会ということもあり、通路を来場者が埋め尽くすというわけではないが、来場者の多くはただ見るだけではなく、ブースで熱心に話し込んでいる姿が印象的だった。
シェアラボもブースを構え、3Dプリンター無料相談所を開設していたが、3Dプリンターの選び方を熱心にご相談いただけた方や新規事業として3Dプリンターをこう活用したいなどのご相談をお寄せいただくなど、来場者の方の熱量に大いに刺激を受けた。

さて、フォームネクストフォーラム東京のファストレヴュー後半では数多く開催されたセミナーの中から厳選して内容をお届けしたい。立ち見が出るほど人気のセミナーもある上、オンラインでの配信は予定されていないということなので、是非ご一読いただきたい。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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