1. HOME
  2. 業界ニュースTOP
  3. 英国空軍が仮焼結不要のニュートラル電子ビーム方式の金属3Dプリンターを導入ーWayland Additive

英国空軍が仮焼結不要のニュートラル電子ビーム方式の金属3Dプリンターを導入ーWayland Additive

イギリスのニュートラル電子ビーム方式の金属3Dプリンター装置を販売するWayland Additiveの発表によると、同社の金属3DプリンターCalibur3をイギリス空軍が導入し、空軍の補修部品製造に活用する方針だという。仮焼結が不要になる新技術で造形時間を40%以上削減した点が評価されたようだ。(写真は導入されたWayland AdditiveのCalibur3の写真:同社サイトより)

従来の電子ビーム方式の金属3Dプリンターはパウダー余熱(仮焼結)が必要

粉末材料が敷き詰められたパウダーベッドに電子ビームを照射する電子ビーム方式(EBM)の金属3Dプリンターは高出力で耐熱性の高いチタン64のような材料でも安定して造形できる。一方で、照射するビーム自体のマイナス電荷でパウダーが帯電してしまい、舞い散りやすい。その為飛散したパウダーがワークに固着するなどの影響があり、除去に課題があった。また条件が悪いとパウダーが造形エリア内で煙状に漂い、造形できなくなるスモーク現象が発生する場合もある。(チャンバー内が真っ白になるほどで、スモーク現象が起こると造形ができなくなる。)

こうしたデメリットを払拭するために従来の電子ビーム方式の金属3Dプリンターはパウダーベッド全体を余熱するためにビーム照射で予熱し、パウダーを仮焼結する工夫をしてきたわけだが、 Wayland Additive の Calibur3 は余熱なしでパウダーを安定させることができるニュートラル電子ビーム方式で登場した。その秘密が電荷中和だ。

プラスイオンでマイナス電荷を中和させ材料パウダーを帯電させないニュートラル電子ビーム方式の金属3Dプリンター

Calibur3 https://www.waylandadditive.com/

日本で Wayland Additive の総代理店を務める 株式会社エイチ・ティー・エル の弘中邦彦氏に詳しい説明を聞いた。

一番の特長は電荷中和、つまりプラスイオンを散布して、ビームにより帯電するパウダーのマイナス電荷を中和させ、パウダーが舞い上がらないようにする点です。スモーク現象の心配がないので仮焼結が不要になり、造形したい箇所のみにビームを照射できます。予熱により仮焼結に費やしていた時間が削減できますので、結果として造形速度が40%以上削減できます。(弘中氏)」

通常、従来の電子ビーム方式の金属3Dプリンターは、レーザーと異なり、仮焼結が必要となる。電子ビームをパウダーベッド全体に照射しながら、パウダー全体を予熱する仮焼結プロセスを挟む。粉末材料のリコート、仮焼結、溶融・凝固、リコートという順番で造形を行うことでスモーク現象を予防している。その結果、仮焼結に時間がかかり、さらには仮焼結したパウダーの造形物からの除去に手間がかかるという欠点があった。

Wayland Additiveは、そんな従来のEBM方式とは違う新しい電子ビーム制御技術として、ニュートラル・ビーム・テクノロジーと自ら呼ぶ方式を開発した。それがプラスイオンで電子ビームのマイナス電荷を中和し、パウダーを飛散させないという制御を実現したという。

「たとえばレーザーでもチタン64は造形できます。ですが耐熱性の高い高融点材料をきれいに造形できるという点では電子ビーム方式が有利です。そのほかTi合金、Ni合金、Cu合金、CoCr合金、純銅、超硬金属(Vibenite280/290)、高融点金属材料等、多様な金属・合金の造形が可能となります。こうした点を英国空軍は評価して導入を決定したようです。 英国空軍を含め、Wayland Additive社の3Dプリンターは世界でまだ2台しか導入されていませんが、すでに相当数のバックオ ーダーがあり、Wayland Additiveは製造ライン及びR&Dエリアを増設しています。」(弘中氏)

現在進行中の急激な円安の影響もあって、価格は都度見積もらないとブレ幅が大きい状態だという。今年に入って海外生産の3Dプリンターは軒並み値上げが続いているが、こればかりは営業努力ではいかんともしがたいようだ。

事例に登場する企業は数年前から準備してきたという事実

世界各地で軍事目的のAM導入が続いているが、産業の先駆として航空・宇宙・軍事という少量・高性能・特注部品の市場を立ち上げようとする動きが形になって表れてきていると解釈できる。

もちろん導入初期の生産設備にはノウハウを充分蓄積できるまでトラブルがつきまとう。運用が確立するまでには試行錯誤が必要になるので本格活用するまでには時間がかかるものだ。3Dプリンターも同様だろう。

ノウハウ蓄積のための時間を考えると、クリティカルな用途に用いられる装置ほど、計画的に導入が必要になってくる。最近金属3Dプリンターの導入事例が数多く公開されるようになってきたが、そうした事例は数年前から導入検討が進み、試験造形や実際のワークの造形を充分に行い、装置導入の目途がたった後に、自走し始めた事例ばかりかもしれない。つまり適切なプロセスを経て、導入検証を行い、競合他社が追随できない優位を築く為に3Dプリンターを活用している戦略的な企業が次々と生まれ始めている。

国の内外を問わず、こうした新しい価値創造に挑戦する企業が生まれていることを想像すると非常にときめくものがあるが、一方でその備えをしていない企業からすれば、容易には埋まらない数年分の技術格差がうまれている現状をどう打開していくかが大きな課題になる日も近いかもしれない。

伊藤 正敏
シェアラボ編集部

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

関連記事

資料ダウンロード 次世代3Dプリンタ展レポート

最新記事

おすすめ記事