3Dプリンターで銅合金製ロケットエンジン部品を開発
新世代の航空機や発射体の設計と3Dプリントを手掛ける米Sintaviaは2021年7月20日(現地時間)、NASAや民間宇宙飛行企業のロケット推進チャンバー部品に適した銅合金「GRCop-42」を3Dプリントできる独自の技術を開発したと発表した。(写真は製造された部品/出典:Sintavia社)
開発背景
同技術は、独EOS社の金属プリンター「M400-4」用に開発されたものだ。
GRCop-42は銅合金を使用しており、製造が非常に難しいといわれている。しかし、独自のパラメータ設定と後工程の熱処理を組み合わせることで、最小密度99.94%、最小引張強度28.3ksi(約195MPa)、最小極限降伏強度52.7ksi(約363MPa)、最小伸長率32.4%という性能を有するGRCop-42部品の製造を可能にした。また、後工程の熱間静水圧プレスが不要なため、製造の時間、複雑性、コストの削減に貢献する。
Sintavia社のエンジニアリング担当副社長Pavlo Earle氏は、今回の開発の成果について以下のようにコメントしている。
当社は、難しい素材をコスト効率よく、優れた機械的特性で印刷するという可能性を解き放てるユニークな立場にあります。GRCop-42は積層造形が非常に難しい金属ですが、このようなレベルの性能を達成できたことで、航空宇宙・防衛・宇宙産業における積層造形アプリケーションのグローバルリーダーとしてのシンタビアの役割がさらに明確になりました。
Pavlo Earle氏 コメント抜粋
また、Sintavia社が現在、航空宇宙・防衛・宇宙産業で使用するために、耐火合金を含む他の材料の独自規格を開発していると付け加え、今後研究をさらに進めていくことを付け加えた。
金属3Dプリンター「M400-4」とは
M400-4は、EOS社のハイエンドモデルである「M 400」の上位クラスに相当する、最大かつ最速のダイレクト金属3Dプリンターである。
4つの独立した高出力レーザーを搭載した「The Ultra-Fast Quad-Laser Additive Manufacturing System(超高速クアッドレーザーシステム)」を採用。このクアッドレーザープラットフォーム上から一度に4つの造形を可能にしたことで、従来機種を大幅に上回る生産性の向上を実現している。
M400-4スペック一覧
造形サイズ | 400 mm x 400 mm x 400 mm |
レーザータイプ | Yb-fibre laser; 4 x 400 W |
スキャン速度 | up to 7.0 m/s (23 ft./sec) |
光部品 | 4 F-theta-lenses; 4 high-speed scanners |
消費電力 | 最大 45 kW /標準22kW |
システムサイズ | 4,181 mm x 1,613 mm x 2,355 mm |
重量 | approx. 4,835 kg (10,659 lb) |
Sintaviaとは
Sintavia社は金属系材料による3Dプリンティング技術を保有し、特に航空宇宙業界向けに強みを持つ企業である。また、航空宇宙業界において高い品質管理能力が求められる国際特殊工程認証制度(NADCAP)において、レーザー付加製造、電子ビーム付加製造および熱処理の工程認証を取得している数少ない企業でもある。
日本では住友商事グループが代理店として試作品などの開発に取り組んできた。住友商事グループは、2018年にSintavia社に出資し、同社へとの協業を通じて航空宇宙産業向けの事業をさらに拡大する方針。
開発が進むロケットエンジン
航空宇宙で開発が進むロケットエンジンは複雑な構造と、膨大なエネルギーに対応するため優れた耐久力が求められる。その厳しい水準を満たすために、さまざまな材料を複雑造形できる3Dプリンターは積極的に活用されている。
Masten Space Systems社が、NASA「アルテミス計画」で使用する月面着陸船の、耐熱性のあるアルミニウムを使用した画期的なロケットエンジン「Broadsword(ブロードソード)」を開発した。
Broadswordエンジンで使用する材料は、Elementum3D社によるアルミニウム合金を使用。一般的にロケットエンジンには耐熱性に優れたインコネルやニッケル合金を使用されるが、今回はElementum3D社の技術を活用し、セラミックの粉末を合わせることで熱に耐えうるアルミニウム合金を使用できるようになった。
今このアルミニウム合金材料にこだわった理由は、ロケットエンジンに重要な軽量化を実現するためだ。アルミニウム合金は軽量で強度にも優れており、繰り返し利用するロケットエンジンにとって最適な材料とされている。
関連情報
3Dプリンターの繊細で創造性豊かなところに惹かれます。そんな3Dプリンターの可能性や魅力を少しでも多くの人に伝えられるような執筆を心がけています。