高い輸送性と迅速印刷!SPEED3D社が戦地でも活躍する金属3Dプリンター「XSPEED3D」を発表
オーストラリアの金属3Dプリンターメーカー「SPEED3D」は、貨物コンテナに積載できる金属3Dプリンター「XSPEED3D」を発表した。オーストラリア軍と共同で開発された同製品は、戦地での実地での迅速な3Dプリントを志向して製作されたものだ。
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戦地で金属3Dプリンターを活用し装備品の修理や補修部品製造に活用
ロシアのウクライナ侵攻や台湾有事など国際的な緊張関係の高まりは、戦争が絵空事ではない事実を私たちに突き付けている。国際紛争に備えるための国防力はどの国にとっても大きな課題だ。一方で、軍用装備品を製造の観点からみると、特殊な仕様で高い信頼性を求められるが生産数が少ない特注品。運用する軍事組織からしても、耐用年数が長く、部品を気軽に発注することができないという面で、部品確保や装備品の維持は大きな課題になっている。SPEE3DのCEOである Byron Kennedy氏 は海外メディアからの取材に答える中で「今日、軍が直面する最も重要な問題の1つは、重要なスペアパーツを前線へ供給する能力です。この問題は、グローバルサプライチェーンの問題に直面して悪化しています。」 とコメントしているが、こうした課題は今後より重要性を増すことだろう。
ロシアのウクライナ侵攻に際しては、欧米などの各国がロシアに対する経済制裁を課したことで、ロシアと各国のサプライチェーンが寸断された。今後、部品を遠方に輸送する場合には、その信頼性は低下し輸送コストは増大することになる。SPEED3Dのはこうした課題への対応策として、「XSPEE3D」というパッケージを開発。金属3Dプリンター自体を戦地に持っていけるようなモバイルソリューションにまとめ上げた。XSPEED3Dの開発には、オーストラリア陸軍、及び海軍が参加しており、実際に荒野でフィールドテストを実施し、戦地でも運用できる金属部品の修理・製造装置が完成するに至ったという。
コンテナで輸送できる金属3Dプリンターが戦地で部品補修・製造に活用
XSPEED3Dの最大の特徴は、その高い輸送性だ。XSPEED3Dは、金属部品を1箇所で製造するために、必要なほぼ全ての機器や材料を標準的なコンテナに積んで輸送できる。機器を積載した状態でも45°まで傾けることができ、故障の心配が少ないことも大きな特徴だという。コンテナに積載されたXSPEED3Dは、船舶、鉄道、トラックなどの手段を経由して、迅速に戦地へ送り届けられる。造形可能な部品のサイズは、Ø1000mm x 700mmとなっており、決して小さくないサイズの各種金属部品を戦地でも製造できる。製造能力に限りがあるとはいえ、スペアパーツを持ち運ぶ必要もなく、工場や基地から移送する時間やコストも節約できるという意味で、補給面に大きなメリットをもたらす可能性があるだろう。
supersonic deposition (超音速堆積法)による迅速印刷
戦地での金属3Dプリントにおいては、印刷スピードも重要となる。戦況が刻一刻と変化する戦場においては、一か所に留まって長時間の作業をすることでリスクが増すためだ。
XSPEED3Dでは、SPEE3D社が特許を取得している独自開発のsupersonic deposition(超音速堆積法)を採用することで、一般的なレーザー溶融プロセスの約1000倍の高速印刷を可能とした。この超音速堆積法とは、ロケットノズルによって音速の3~4倍に加速した空気で金属粒子を吹き付け、運動エネルギーによって金属を結合・堆積させる造形方法だ。
SPEED3Dによれば、XSPEED3Dは、銅、ステンレス、鋼、チタン、高強度アルミニウム、ニッケル炭化物など、多数の金属合金を扱うことができる。
これまで、金属3Dプリンターの活用場面はロケット・衛星や航空機の部品に限られていたが、今後は軍需方面でもその活用の広がっていくものと考えられる。実際、SPEED3Dは、オーストラリア海軍船の部品製造に携わったことを発表している。
3Dプリンターの「モバイルソリューション」は軍需・宇宙用途で発展中
宇宙空間や紛争地域のような部品輸送にコストがかかりリスクもある場所では現地製造・整備がもとめられる。日本では軍需産業は海外装備品の購入に押され停滞気味だが、欧米では、3Dプリンターのような革新的新技術にたいする軍需関係の市場は大きい。日本でも自衛隊内での3Dプリンター活用を推進が期待される。
Sharelabではこれまで金属3Dプリンターについての記事を多数示している。これらの記事一覧についても参照されたい。
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