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未来の食の在り方は?フード3Dプリンターの現在を概観するTNOイベント報告【東京:10/22】

2024年10月22日、オランダ大使館で行われたTNO ( オランダ応用科学研究機 )のイベント「The Future of Food~Personalized health & Protein transition」に参加してきたのでご報告したい。このイベントでは未来の食の在り方を変える取り組みとして、「個人に最適化した健康な食事の在り方」や「動物由来でないタンパク質の在り方」をデジタル活用や3Dプリンター活用を通じて行っているプロジェクトを紹介しながら、TNOが主催する研究プロジェクトへの参画を募集するといった内容だった。

TNO( オランダ応用科学研究機構 )とは

オランダ応用科学研究機構 TNO は NEDERLANDSE ORGANISATIE VOOR TOEGEPAST NATUURWETENSCHAPPELIJK ONDERZOEKの略で、1932年にオランダで設立された独立研究開発機関だサステナブルで社会的にインパクトを持つ先端研究を行うことがミッションで、6つの事業領域で4500名以上の研究員が所属している。

多国籍なコンソーシアムを展開しながら、フード3Dプリンターを活用した研究も行っており、日本からも日清やキッコーマンなどが参画しているという。

食の未来をテーマに開催された今回のイベントでは、個人の体調をデジタルツールで測定し、最適な食べ物を3Dプリンターで製造してより健康になることを目指すなどの取り組みが今後の未来の食事の在り方のトレンドになっているという。

健康市場のトレンドとフード3Dプリンターの位置づけ

健康状態をデジタルなソフトウェアで管理することで、健康状態が数値化、可視化できるようになる。すると処方箋として最適な栄養素が含まれた食事が製造可能になる。その時小ロットで都度製造できる3Dプリンターが登場するというわけだ。見た目は同じクッキーだが、味や栄養素、食感が食べる人に最適化されていくというイメージだろう。

TNOのコンソーシアムではすでに、オランダ軍とこうした実証実験を行っているということで、厳しい訓練を行う戦闘機パイロットの体調を自動で計測するフライトスーツで身体の状態を測定し、分析を行うとりくみがなされている。そしてこうした測定結果をもとに最適な戦闘食を3Dプリンターで製造するというわけだ。

こうした健康状態を計測して最適な健康状態を維持する食事を栄養素を一人ひとり調整して提供する取り組みは軍事分野だけではなく、病院での食事にも活用できる考え方だ。たとえば糖尿病の人には糖分を控えめに、高血圧の人には塩分控えめにといった配慮がされているが、病気を過度に意識することが無いように同じ見た目の食事を提供することができる。

フード3Dプリンターで製造するために用意された材料に、積層造形し焼き上げることで「生ではない調理を行った料理」になる。栄養素を混ぜ合わせ、トッピングなどを行うこともできる。その後包装し、出荷する機能を備えた3Dプリンターを活用した食品工場のイメージだ。

イラストにすると通常の食品製造ラインと同じように見えるが、同一商品を大量生産するための製造ラインと、1品ごとに違うものをレシピとしてラインにながし、3Dプリンターを活用して単品製造するという製造ラインでは考え方が大きくことなる点に注意が必要だ。

TNOでは研究用にフード3Dプリンターの装置開発も行っており、製造能力などによってバリエーションがある。こうした装置と製造ラインを実際に稼働させた実証実験もオランダで積極的に行っているようだ。

もちろん食品製造は装置だけでは成り立たない。いま流れている製品はどのロットの何番目のものかを把握し、意図通りの組成になっているか、外観上問題がないか、焼成プロセスが問題なく行われているかを計測するための内部温度計測など、管理する項目が流れてくる製品ごとに変わるだろう。インプロセスモニタリングなどの取り組みや製造管理ソフトウェア側の作り込みも必要になるだろう。

移動する食品工場も視野に

こうした食品工場は常設の工場として設置されている以外にも、持ち運べる工場としてかんがえると用途が広がってくる。

コンテナに設備を配置して現地に持ち運ぶ、という発想はフード3Dプリンターでも有効のようだ。写真はオランダ軍のものだが、野菜や肉のように賞味期限が短い生ものではなく、長期保存が可能なフード3Dプリンター用原料があれば、最低限の栄養バランスと味のバラエティが確保できるようになるのは、魅力的な点だろう。

Protein Transition(代替肉に代表されるタンパク質を別の手段で確保する食材研究)

イベントで扱われた2つ目の大きなテーマが代替肉に代表されるタンパク質を別の手段で確保する食材研究だ。ここで注目されているのが、代替タンパク質だ。家畜由来のタンパク源では生産に牧場を必要とするし、水資源や穀物資源を多く必要とする。また生育に年単位の生育期間が必要だ。こうした生産コストの高さを補うための代替肉、代替タンパク質の研究が世界のフードテックによって取り組まれている。

穀物や虫などの従来「食用肉」とされてこなかった材料のタンパク質を抽出し、食用肉と同じような食感や食味を実現しようという取り組みが次々と研究され、上市されている。

さまざまな取り組みが実際に行われているが、食感を再現する取り組みの一例として、繊維の方向があるという。

実際に食用の肉には繊維の向きがあるそうで、ミクロレベルの繊維の向きとマクロレベルの繊維の向きを設計に盛り込むことでより実際の肉に近い食感を実現できるという。食べる側はあまり意識していないが、様々な観点で食味や食感に取り組んでいくことが求められているようだ。

サステナブルな取り組みにも

TNOはこうした食感の研究をもとに、地元の食材や廃棄される中間生産物をタンパク源として見直し、アップサイクルしていこうという研究にも取り組んでいるようだ。

このSUS-PRINTというプロジェクトは日本からキッコーマンが参画しているということだが、現在も追加の参画が可能なオープンなプロジェクトという位置づけだという。業務用食材の幅を広げる取り組みとして今後も推進されていくという。自社の食品製造中に出る中間生産物で破棄か肥料化しか活用法がないという場合に、アップサイクルの可能性を探求できるという取り組みのようだ。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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