3DプリンターがAMの「主人公」ではなくなる?


イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。
TCT ASIA 2025を見に行ってきます
官公庁や多くの企業が年度末となる3月になりました。そうとは言え寒暖差の激しい日が続いていて、周りでも体調を崩す人が多いようです。狭い日本でも大雪で困る地域もあれば、少雨による乾燥から山林火災が起きてしまった地域もあり、春が来るまでに気候の振れ幅が収まっていくことを願うばかりです。そのような3月はみなさんも何かと忙しいかと思いますが、私は3月17~19日に中国 上海で開催されるAM関連展示会「TCT ASIA 2025」を見に行くことになりました。事前にイベントニュースやメールマガジンでお知らせしていましたが、主催者からの依頼を受け、ShareLabは今回日本で初めてかつ唯一のメディアパートナーになりました。私は実際に同展示会にも、上海に行くのも初めてなので、どうなのかは行ってみないとわからないのですが、帰国後に何らかの形で情報をお伝えできるかと思います。それまでしばらくお待ちください。
Additive Manufacturing Strategiesから見える変化
ご存じの方も多いと思いますが、AM技術や産業は、1990年代からアメリカとドイツを中心としたヨーロッパで普及し始め、当時は日本にも多くの装置・材料メーカーがあり、世界のAMをリードする地域のひとつでもありましたが、その後欧米が成長発展の主役であった時期が長く続きました。しかし近年は中国が急成長し、その主役が変わりつつありますが、それでもアメリカが主役の一人であることは、しばらく続きそうです。よって、アメリカのAM産業や技術の方向性が日本にも影響を及ぼすこともあり、その変化や動向をつかんでおくことは大事なことです。その良い機会のひとつとして、毎年1回アメリカで開催される、主に欧米のAM関連企業経営者や投資家による会合イベント「Additive Manufacturing Strategies 2025」が今年2月に開催されました。何年か前は講演やパネルディスカッションの一部を動画でも配信され、日本にいても見ることが出来たのですが、今回は現地会場のみで、私は残念ながら行けなかったのですが、長年国内外でAMビジネスに関わり、活躍されているロジャース・ピーターさん(Layered代表)が参加され、その要点を私との対談として話していただき、動画チャンネル「ShareLabTV」で皆さんにも見ていただけることになりました。少し長いですが、時間があるときに観てください。
速報!Additive Manufacturing Strategies2025の参加者に聞く
この中で特に印象に残ったのは、AMに関わる売る人も使う人も、考え方、または目指す方向性が「製品(3Dプリンターや材料が主)の差別化」から「解決(ソリューション)の差別化」に変わってきている、という話でした。これはロジャースさんが「L●GOブロック」で例えていましたが、要約すると、これまでは多種多様な製品(=ブロック)が世の中にあり、何を選び、何をどう作るかは作る人が考えるのに対し、例えば「家」を作るブロックキットは、はじめから家を作るのに必要十分なブロックと、作り方まで用意されている違いがあり、AMもこれからはこのような「キット」をいかに提供するか、使うかを目指す方向になってきているという変化が見られたということでした。
つまり、これまでは1つのブロックに相当する3Dプリンターがたくさんあって、ブロックとしての性能、大きさ、多用途性をメーカーは競い、「いいブロックがあります。さあ、何を作るかはお好きに」という売り方で、使う方も「まずよさそうなブロックがあれば何か作れるし、自分たちで探して考えればよい」という使い方が多く、3Dプリンター自体が主人公とも言えたのですが、これからは「何かの解決」が主人公で、それを作る、または解決するのに特化した「工程(作り方)」の要素の一つが「3Dプリンター」になるという、主人公の交代が起きると解釈しています。これは前回のコラム「AMの二極化」ともつながる話ですが、悪い方向性ではなく、AMにとっても、ものづくり全体にとっても良い方向に向かっていると思っています。しかし、よく思い返してみると全く新しいことでもなく、例えば鋳造砂型用の3Dプリンターは砂型専用に開発改良され、日本でも長く使われてユーザーも増えています。歯列矯正用カスタムマウスピース製造も汎用3Dプリンターがベースですが、「矯正」が主人公で、そのための設計から使用までの工程の中でツールも専用化改良によって今日の普及につながっています。
もう一つ関連した話ですが、先日海外の記事の中で、3Dプリントした後にサポートを取ったり、仕上げや2次加工する工程を英語で「POST(後) PROCESS(工程)」と広く呼んでいましたが、もう「POST」は消すべきという主張がありました。つまりこれも3Dプリンターが主人公と考えるから「後」になってしまうのですが、本来は「ものを作るのに必要な一連の工程」と考えれば、3Dプリントも加工もひとつながりの「工程」と考えて開発、運用すべきなので、すごく合点がいく主張だと思いました。加えて形状設計も、3Dプリントを含めた「工程」を織り込むのが本来のDfAMだと考えています。みなさんはどう考えておられるか、機会があればお聞かせください。

この製品自体はシンプルで、AMの使い方としても驚くような用途や技術ではありませんが、いろいろなAM活用のヒントが隠れていると思いました。まず日本の伝統技術と製品である磁器の製品を、AMとの組み合わせで別の価値をつけて世界に向けて売り出すビジネスモデルを作られたこと、主人公は「買って使う人」や「磁器」で、AMは脇役であること、安価な3Dプリンターと材料では食器そのものは作るのが難しいけれども、磁器という異種材を組み合わせて要求を満たしていること、メーカーが完成させるのではなく、プラットフォームと3Dデータを提供し、設計や製造はユーザーが行う「共創」モデルを作られたこと、などです。また実際取材していないので想像でしかありませんが、茶碗の底の高台(こうだい)は、作るときも使うときも必要な形状で、その内側にネジ山を作ることで、カスタマイズ部品とつけ外しが出来る発想が素晴らしいのですが、おそらく粘土成形で使う型から粘土を外す際や、焼いた時の収縮や自重影響含め、適したネジ形状は限られ、最終形状にたどり着くのも苦労されたと思います。でもそのような特殊なおねじ形状でもAMならできますし、後からの改善修正も容易にできます。ぜひ参考にしてください。

ちょうど中国の展示会に行く前のニュースで、実際このような使い方の展示があるかどうかわかりませんが、小ささ、軽さ、硬度や耐久性が求められるスマホ部品型レス量産にAMを使うのは、理にかなっていると思います。まず、完成製品として高額で売れること(おそらく普通のスマホよりもかなり高い)、逆に売れる数は普通のスマホより売れない、または売ってみないと予測が難しいこと、単純な蝶番ではなく複数小部品の組み立てとなり、機能集約化による部品数削減は、製造と管理コストにも、不具合要因削減にも効果やリターンが大きいこと、などが理由です。これも思い起こせば、ガラケー全盛時代にヒンジパーツの性能や小型化要求がどんどん高まり、優れた設計と製造技術で次々応えいけた、日本の製造業が得意な分野ですし、AMを加えた「シン日本製造力」が活きる製品がヒンジ以外にもあるのではないでしょうか。
ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!