東京オリンピックを戦い抜いた選手や舞台を陰で支えた3Dプリンターの活躍
2021年の東京オリンピックにおいて、韓国のアーチェリーチームが男子 / 女子 / 混合チームの3カテゴリーで金メダルを獲得した。その背景には前回のリオオリンピック以来、チームに採用されている3Dプリンター技術が一役買っているようだ。
弓に取り付けられた3Dプリントされたグリップは、希望する形状と素材がプレーヤーごとに大きく異なる。(弓に取り付けられた3Dプリンターによるグリップ/出典:現代自動車グループ)
3Dプリントとスキャンによるパフォーマンスの最適化
韓国アーチェリーチームへ3Dプリンターの技術を提供したのは、世界有数の韓国の自動車メーカー「現代自動車」だ。アーチェリーの矢の射出を安定させるのに 選手はそれぞれの手の形に合わせた専用のグリップを使うが、ここに3Dプリンターの技術が活用されている。
韓国アーチェリーチームの3Dプリントグリップ
以前は合成樹脂でしか3Dプリントできなかったグリップも、現在では各アスリートの手の形や好みに合わせてさまざまな素材が用いられるように進化した。アルミニウムとポリアミドを組み合わせた新素材のアルミニドや、無垢材とウレタンの組み合わせたものでも製作が可能になっている。
現代自動車によると、射手である呉真爀選手と金武仁選手は、3Dプリンターで作られた新しいグリップに特に感銘を受けたとのこと。テストの結果、この3Dプリンター製のグリップは使い勝手が非常に優れていると判断され、東京オリンピックに参戦した韓国アーチェリーチームのメイングリップとして使用された。
3Dプリンターの技術はグリップだけでなく、弓そのものの性能向上にも貢献している。現代自動車はチームの弓を分析するため、非破壊検査の新しいモデルを高度な3DCTスキャン装置によって開発した。この技術は、3Dモデル画像を作成することにより、弓を繰り返し引っ張るときに弓の内部に損傷があるかどうかを、弓を分解することなく測定するもの。弓を360°回転させると、3Dスキャナーは何万枚もの写真を撮影する。この写真により弓のパフォーマンスに関する包括的な洞察が行えるようになった。
空気力学を合理化したイタリアサイクリングチームの3Dスキャナー
アーチェリーだけでなく、3Dプリントされた道具は、今年のオリンピックのさまざまな種目で取り上げられた。多くのアスリートが、3Dプリンターテクノロジーを活用して空気力学、重量、時間の節約に関しての競争上の優位性を獲得している。
特に3Dプリンターが展開されている分野のひとつが自転車競技だ。イタリア代表のサイクリングチームが使用しているロシアのThor3D社の持ち運べる3Dスキャナー「Calibry」は、サイクリストの空気力学を合理化した。
イギリスサイクリングチームのスキンスーツと競技用自転車
イギリスのスポーツパフォーマンスのブランド Vorteq Sports は、5つの国の異なるオリンピックチームのサイクリストのために、ルクセンブルクのArtec 3D社製の3Dスキャナーを使い、選手ごとにカスタマイズした専用のスキンスーツを作成している。
イギリスのサイクリングチームも、世界的なエンジニアリング会社である Renishaw社に Lotus Engineering社、そして Hope Technology社によって設計された、3Dプリンターによる軽量の部品を備えた新しいトラックバイクに乗っている。
他方では、アスリートがアディダスの3Dプリンターによって最適化されたランニングシューズ「フューチャークラフトストラング」を着用することが期待されている。これは3Dプリント技術によりアップグレードされた4DFWDミッドソールを備えているものだ。
3Dプリントされたグリップは複数の世界射撃チャンピオンのセリーヌゴベールのピストルにも取り付けられている。
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。