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バージニア大学が植物が自生する3Dプリンター用建材(土インク)を開発。

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バージニア大学は自然と人との共生を掲げ、植物が自生する家の研究を推進している。植物種子を配合した土ベースのインクで住居を3Dプリントすることで、住宅の壁や屋根に植物が自生できる環境を構築できる。3Dプリンター住宅で利用できる「草が生える壁」が都市緑化に大きく貢献する可能性を示した。

植物との共生ができる草が生える壁を3Dプリンターで造形できる土インク

木々や草花が広がる屋上庭園やテラスは、多くの人にとって魅力的だ。同時に、雨や直射日光を吸収し、建物への影響を低減させる働きもある。

しかし、鉄鋼やセメントを主原料とする現代の建造物において、植物が持続的に生育できる環境を整えることは困難だ。建築家や造園業者は、鉄鋼やセメントの上に、土や植物を上手く調和させなければならない。

バージニア大学応用工学部のJi Ma助教授は、建物と自然が材料によって分断されていることに着目した。材料面から建物を見つめ直すことで、自然と人はもっと容易に、もっと近くで共生できるのではないか。

こうした観点から、バージニア大学は、土をベースとした3Dプリント建築用材料に植物を配合し、植物が自生する家を作る研究を立ち上げた。当研究には、バージニア大学の材料科学、環境マネジメント、建築などの幅広い分野における研究者が参画している。

カーボンニュートラル、循環型社会、緑化住宅など環境問題の観点からも注目

研究チームは、住居周辺の環境だけでなく、地球環境全体を取り込んだ住宅のデザインを進めている。即ち、住居を建設するために必要なエネルギー、廃棄される建築材料や、緑化住宅への需要、低価格住宅に関する新興市場などを考慮したデザインだ。

あらゆる観点から真に持続可能な住宅を目指すためには、資源が無理なく調達でき、買いやすい価格帯で、生産する側も販売する側も儲かることで、取り組みが継続できる必要がある。つまりビジネスの生態系(エコシステム)が必要だ。

今回バージニア大学が開発している3Dプリンター住宅の建設に使用されるインクは、土をベースとし、局在する資源に依存しない。同時に、建材のほとんどは再利用できるものだ。

土と水と植物種子と幾らかの材料を混合することで、そのまま建設に利用できる本システムにおいては、従来工法と比べてエネルギーを効率的に利用でき、プロセス中の炭素排出量低減に寄与することが期待できる。

優れた経済的デザインはビジネスとしても一定の評価を受けている。3Dプリント住宅の建設を進めるAlquist3D社は、バージニア大学の研究チームが進める本プロジェクトに加わり、植物が根を張る家を、2027年までに200軒建設する予定だ。

保水と組成に関する研究ー気候や風土にあわせて最適化される土インク

3Dプリントされた構造(出典:バージニア大学)

研究チームは、サイズや形状を変えつつ、様々なプロトタイプを製作し、3Dプリントした構造物から植物が生育できることを示した。製作したプロトタイプの観察から、組成や形状に関して、これまでに様々な改良を加えている。

例えば、壁内の水分量測定から、3Dプリントした土壁からは急速に水が失われることが分かった。植物が自生するためには、土壁はより高い保水力を持っていなければならず、同時に、乾燥に適した植物種でなければならない。水分の保持に加え、土壁は、有機物などの栄養素を蓄える必要がある。

研究チームは、インクの組成に継続的な改良を加え、土壁に適した植物種を選定した。ストーンクロップと呼ばれるサボテンに似た植物は、水分の少ない環境での生育に適し、有力な候補として検討が進められている。

3Dプリント住宅が気候テックとして浸透する可能性も

カーボンニュートラルは建築業界にとってホットな話題で、ビルを新しく建てる際のコンペでも要件にも組み込まれることが多い。日本では壁面緑化や木造ビルディングへの取り組みがここ数年のトレンドにもなっている。3Dプリント住宅や、3Dプリントビルが今後実際に取り組まれる際に、従来のコンクリート材料と組み合わせて、土壌材料が採用できる可能性を世界中の研究者が模索する中で、今回はバージニア大学の発表を取り上げた。当然バージニアのの風土に適した植物を検討していることだろうが、こうした3Dプリント建材としての土インクは、その土地その土地によって変わる気候や風土にあわせて最適化されていくだろう。

こうした地球温暖化への対応を技術的なアプローチで取り組む「気候テック企業」はベンチャーの一大トレンドになっている。建築業界において3Dプリントは、カーボンニュートラルや壁面緑化を通じて新しいグリーンビルディングの形を生み出すきっかけになるかもしれない。また今後住宅分野でも、カーボンニュートラルや壁面緑化への適応が進む際に、有力な実現方法になりうるポテンシャルがある。

海外ではインフレが進み、ホームレスが深刻な社会問題になっているため、低コストな3Dプリント住宅に対するニーズは社会保障の観点からも高まっている。日本でも人口減少と老朽化した空き家の建て直しが問題化しており、解決策として、低コストで狭小地で庭が小さくても緑が楽しめる土インクで作られた住宅が存在感を持つ可能性は十分ある。

これまでShareLabでは様々な建築系の記事を示してきた。こちらの記事もぜひとも参照されたい。
https://news.sharelab.jp/category/cases/construction/

国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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