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国立天文台が金属3Dプリンターを用いて電波望遠鏡用部品の製作に世界で初めて成功

コルゲートホーンとバンド1受信機

日本の天文学の研究機関である国立天文台が、チリのアタカマ砂漠にある、66台のパラボラアンテナで構成される巨大電波望遠鏡の「アルマ望遠鏡」に使用する部品「コルゲートホーン」の製作をEOS社の金属3Dプリンターによって成功させた。電波天文学において金属3Dプリンターで製作された初の部品を組み込んだ高感度受信機が誕生することになる。(画像は金属3Dプリンターで製作したコルゲートホーン 出典:国立天文台)

宇宙や生命の起源に迫るアルマ望遠鏡

アルマ望遠鏡  出展:国立天文台
アルマ望遠鏡 出典:国立天文台

アルマ望遠鏡は正式には電波干渉計と呼ばれるもので、小さな望遠鏡(アンテナ)を複数組み合わせることで、1つの巨大な望遠鏡として機能させる干渉計の仕組みが使われている。アルマ望遠鏡は口径12メートルのパラボラアンテナ54台と口径7メートルのパラボラアンテナ12台の計66台で構成される超巨大望遠鏡だ。日本はパラボラアンテナ66台のうちの16台、電波をとらえる受信機は10種類のうち3種類を開発している。日本製の16台のアンテナで集められた信号を処理するためのスーパーコンピュータも、日本が開発したものだ。

アルマ望遠鏡では、従来の電波望遠鏡を100倍上回る高い感度と、視力に換算すれば6,000ともなる能力で、恒星や惑星がどのようにして生まれるのか、それらの集合体である銀河がどのように生まれ進化してきたのかということや、生命の起源を調べる研究が行われている。

金属3Dプリンターで製作した部品を組み込んだ高感度受信機が誕生

国立天文台がEOS社の金属3Dプリンターで造形したコルゲートホーンは、そんなアルマ望遠鏡の中核部品である電波をとらえる受信機の部品の一つだ。コルゲートホーンは、天体からの電磁波を受信機上で最初に受信し、後段に設置された検出器へ電磁波を集光する役割を持つ。実際にアルマ望遠鏡が稼働する際には、真空かつマイナス259度という非常にシビアな環境で動作することが求められるという。

図左:バンド1受信機が搭載されたパラボラアンテナの図。図右:金属3Dプリンタで製作されたコルゲートホーンを搭載したバンド1受信機(出典:https://alma-telescope.jp/news/3dprint-202210)

特注部品の製作に優れた3Dプリンターで最新の望遠鏡を製作

国立天文台は、2015年頃から3Dプリント技術の天体観測機器への応用を検討してきた。導入に向けて具体的に検討を行う際に、実際に造形するターゲットを定めた。それがプロトタイプの設計開発が進んでいたバンド1受信機用部品だった。

装置の販売代理店であるNTTデータザムテクノロジーズと相談しながら、AM技術によって実際にできることできないこと、造形技術の利点欠点などを検証したという。この初期検討をふまえ、実際に2019年に先端技術センターに金属3Dプリンタを導入した(左写真)。

そして実用品の第一弾として製作を行ったのが、アルマプロジェクトのコルゲートホーンだった。

私たちにとって大変だったのは、コルゲートホーンそのものの開発と同時に、導入されたばかりの造形装置および周辺機器、専用ソフトウェアの操作など、新しく習得しなければいけないことが山積みだったことです。最終的に、開発期間約2年を経て、従来の切削加工によるものと同等に使用できるコルゲートホーンを製作することができました。」(国立天文台)

ハイエンドな3Dプリンターの性能を最大限引き出すには、付随するソフトウェアも使いこなさなければならない。3Dモデルデータを投入して造形を行う前に、シミュレーションを充分に行い、最適なパラメーターを開発するためにソフトウェアの習熟も必要だったようだ。

コルゲートホーン自体も最先端の電波天文受信機に使用するための超精密部品だ。アンテナビームパターンやその周波数特性など、コルゲートホーン自体の性能が電波望遠鏡としての仕様を満たす必要があるし、コルゲートホーンが設置される低温かつ真空環境で問題なく機能するための金属材料物性の評価も重要となる。常温および低温での機械的強度、収縮率、熱伝導率、電気伝導率などの物理・電気特性を測定し妥当性を確認する必要があったということで、開発・製作には高エネルギー加速器研究機構、北陸先端科学技術大学院大学、株式会社NTTデータザムテクノロジーズの協力があったという。

今回の開発で得られた成果について、開発プロジェクトに技術者として参加していたアルバロ・ゴンサレス氏はこう語っている。

「今回の受信機部品の製作には、金属3Dプリンターを用いた新しい製作技術が適用されています。この技術により、50GHzまで受信可能な部品を非常に高速かつ正確に製作することができます。大型干渉計や大型マルチビーム受信機などの部品をこれまでよりも短い期間で大量生産する道が見えてきました。また、従来の製造方法では不可能であった、複数の部品を1つの部品としてまとめて製作することが可能になるかもしれません。これは、天文観測用受信機のさらなる性能向上につながると考えます。

天文観測機器は、1つの望遠鏡に対して特注で製作する装置が多く、特殊な部品も多い。金属3Dプリンターで観測用の実用品を実際に作る初めての取り組みで堂々たる成果を収めた国立天文台。3Dデータを基に自由な造形が可能な3Dプリンターは、今後さらに有効活用していくことだろう。近年では人口衛星やロケットの製造にも3Dプリンターが活用されることが増えてきた。今後も宇宙関連業界での活用は増えてくるだろう。

ShareLab NEWSが過去に取り上げてきた宇宙関連の記事を以下にまとめた。そちらもぜひご覧いただきたい。
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国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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