コロナ対策用!3Dプリンター製フェイスシールドの国内・海外事例―一部STLデータの公開もあり
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナウイルス)が世界中でその猛威を振るう中、ShareLab編集部では、3Dプリンターの技術を用いた企業や個人によるコロナウイルス対策、例えば3Dプリンターを用いたマスクの出力事例などを取り上げてきた。
今回は、マスクと同じPPE( :personal protective equipment、個人用防護具 )である、フェイスシールド製作に関する取り組みをお届けする。最前線で闘う医療従事者の命を守るには、顔全体を覆うフェイスシールドが効果的だ。世界中で多くの取り組みが見られるため、海外編と国内編に分けてお届けする。(冒頭の画像は3Dシステムズ社、Webサイトより引用)
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海外編
約50個のコロナ対策関連プロジェクトに携わる ―3Dシステムズ社
3Dプリンター大手の3Dシステムズ社は、コロナウイルス対策に関する約50ものプロジェクトに携わっている。同社は再生利用が可能で、装着が快適なフェイスシールドを作成している。SLS方式の3Dプリンターを用いて作っており、使用する材料を最低限に抑え、部品の密度は最大限まで高めた製品だという。
3Dシステムズの特設サイトでは、フェイスシールドの概要やその組み立て方が説明されているので見ることが出来るので、ぜひご覧いただきたい。
150を超える企業や大学と連携 ―ストラタシス社
同じく3Dプリンター大手のストラタシス社も、医療用フェイスシールドの製造支援に早くから取り組んでいる。
同社は150を超える企業や大学と連携して、フェイスシールドを作成していると。また14,000を超えるフェイスシールドを一週間で提供しており、病院やクリニック、大学など医療防護具を必要とするさまざまな団体に届けられているということだ。同社もコロナウイルス対策の特設サイトを立ち上げているため、ぜひご覧いただきたい。
「Jet Fusion」シリーズを活用したフェイスシールド ―HP社
以前の記事でもHP社は取り上げだが、同社は3Dプリンター「Jet Fusion」シリーズを活用した新型コロナウイルス感染症対策に向けた支援を行っている。 提供されているフェイスシールドの造形デザインデータ(STL)は、装着時の快適性を高め、所定の位置にフェイスシールドが固定できるように設計されている。
ちなみに、同社が本社を置くアメリカにおける3Dプリンターを用いた医療現場への取り組みは、以下の記事で紹介している。
大手航空機メーカーも製造―米ボーイング社
アメリカの大手航空機メーカーのボーイング社が、再利用可能なフェイスシールドを、テキサス州サンアントニオの工場に設置された3Dプリンターで製造している。製造されたフェイスシールドは、テキサス州のケイ・ベイリー・ハッチソン・コンベンションセンターに設置された臨時病院へ送られた、とのことだ。
またフェイスシールドの製造以外にも医療現場への支援として、自社の航空機を使って医療物資などの輸送を行う意向をアメリカ政府へ伝えている。
全国の同業者に向けた個人の動き―タレク・ルーバニ博士
カナダのドクターであるタレク・ルーバニ博士は、全国の同業者である最前線の医療従事者向けに、3Dプリンター製フェイスシールドの提供を開始した。
ルーバニ博士が所属する「Glia Project」と呼ばれる国際的な慈善団体は、聴診器や止血帯などの医療用品の供給を中心に行ってきたが、博士は現在、慈善団体が所有する3Dプリンタを使用して、医療従事者用のフェイスシールドを作製している。
フェイスシールドは、誰でも簡単で完成させることが出来る。また、この3Dプリント製フェイスシールドのデザインデータ(STL)を、必要とする世界中の医療従事者に利用してもらえるよう「GitHub(Glia Free Medical hardware)」にアップロード。アップロードされたデータには、3Dプリントプロセス、組み立て方なども細かく記載されている。
また同氏が参加する「Glia Project」としても、フェイスシールドの特設ページを立ち上げているので、詳細はこちらで確認できる(写真は、Glia ProjectWebサイトより)
国内編
英国拠点のNHS (National Health Service)に対する取り組みを受けて―リコー社
リコーグループでは、神奈川県の生産拠点であるリコー厚木事業所でフェイスシールドの生産を開始している。同社は3Dプリンターや金型の活用により、5月末までに7,000個、合計8,000個のフェイスシールドを生産し、57の医療機関に対して順次、無償提供していくとのことだ。
今回の取り組みは、英国の製造・事業開発拠点であるRicoh UK Products Ltd.(以下、RPL)のNHS(National Health Service: イギリス政府が運営する国民保険サービス )に対する取り組みを受けたものだという。(写真は、リコーWebサイトより)
1万セットを無償提供 ―DMM社
合同会社DMMは、加賀市に日本最大級を誇る3Dプリンター工場を有している。同社は、フェイスシールド1万セット(セット内容:フレーム1個・取り換え用フィルムシールド1枚)を作成次第、順次、医療現場に無償提供を行っていく予定とのことだ。なお、すでに大学病院に120個、医療センターに120個のフェイスシールドの提供を開始している。
グループ企業や海外部門の総力を結集して―トヨタ自動車
海外の事例を中心に見てきたが、当然日本でも同様の動きを見ることが出来る。トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、医療現場および医療用品に対する支援を表明している。
試作型や3Dプリンターなどで製作した 医療用品を、医療機関へ提供していくとのことだ。トヨタ自動車貞宝工場にて、試作型による医療用フェイスシールドの生産準備を進めており、週500~600個程度から、生産を開始する予定であり、加えてグループ企業でも生産が可能か検討を始めている。
また、トヨタの米国部門のトヨタモーターノースアメリカも、医療従事者向けに、50万個のフェイスシールドを6月までに生産し、寄付することを発表した。こちらのフェイスシールドの開発にも、3Dプリンターが活用されている。
大阪大学大学院と連携―タカノ株式会社
ばねの製造や、オフィス家具、エクステリア製品、エレクトロニクス製品、さらには医療・福祉関連製品など新分野への参入を行うタカノ株式会社は、大阪大学大学院医学系研究科に協力し、「フルフェイスシールド」の無償提供を開始している。同大学が公開したデザインデータ(STL)を基に、3Dプリンターでフレームを製作し、身近にある文房具「クリアファイル」を取り付けると完成するとのことだ。
フレーム10万個の無償提供を目指して―大阪大学
タカノ株式会社とのフェイスシールド製造の連携が見られ、そのフェイスシールドのデータを作成したのが、先に紹介した大阪大学だ。
大阪大学は医療従事者のためのフェイスシールド普及に向けて、その骨組みに相当するフレーム10万個の無償提供を目指し、クラウドファンディングを立ち上げた。集められた資金は、フレーム量産のための金型製作や、材料となる樹脂の調達に利用されるという。
フレームは、眼鏡フレーム製造販売会社「シャルマン」と協力し、3月末から開発に取り組んできている。 3Dプリンターで印刷できるよう設計データ(STL)をネット上で無料公開している。現在は、全国の3Dプリンター専門家、プロダクトデザイナーたちの無償協力の下、3Dプリンター用のデータを射出成形に適したものへと慎重に改良しており、デザインはほぼ固まりつつあるとのことだ。
フェイスシールドの製造は、材料さえあれば個人でもできるほど簡単で、フレームにクリアファイルやラミネートシート、ルーズリーフのファイルポケットなど日常にあるものをホッチキスで取り付ければ、高価な医療用シールドに匹敵するフェイスシールドになるという。
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3Dプリンタ―の”先進っぽさ”を感じさせる作りに男心をくすぐられる毎日。さまざまな業界にて活用されるアディティブ・マニュファクチャリングの今をお届けします!最近のニュースは、鳥を飼い始めたこと。