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日本初の3Dプリンター検定試験の仕掛け人が語るモノづくりのブレイクスルーへの道 ― ACSP

モノづくりブレイクスルーへの道

一般社団法人コンピューター教育振興協会(ACSP)は3DCADに関する検定試験などと並んで、3Dプリンターに関する検定試験「3Dプリンター活用技術検定試験」を運営している。その仕掛け人が鈴木 淳一氏だ。

「結局新しい世代が切り開いていくんだと思うんですよ。既存工法にとらわれない自由な発想を生み出すためにまず、3Dプリンターについて概要をつかんでほしいんです。そのために3Dプリンター検定が入り口になればと思いました。」10年以上前から3Dプリンターの設置、保守等のをサポートしてきたJBサービスの鈴木氏は、ACSPに3Dプリンター検定を持ち掛けた思いをそう語る。

欧米に比べて日本は3Dプリンター活用がスムーズに浸透しないという課題に対して、資格試験の設立と運営というアプローチで独自の取り組みを行っている鈴木氏に取り組み経緯や現状の想いを伺ってきた。

語り手:鈴木 淳一 (JBサービス株式会社 AIOTサービス営業部 3Dサービス推進グループ/ ACSP 3Dプリンタ活用技術検定試験委員会委員長)、聞き手: 川岸 孝輔(株式会社ツクリテ) 、編集・文:伊藤 正敏(ShareLab編集部)以上敬称略。

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国内初の3Dプリンター活用技術検定試験の仕掛け人

鈴木氏(JBサービス株式会社 / ACSP)と川岸氏(株式会社ツクリテ)

鈴木氏:私はここ20年以上3Dプリンターに携わってきました。工作機械メーカーでシート積層方式の3Dプリンター開発を手掛けたり、JBサービスでサードパーティーベンダーとして3Dプリンターの保守や、独自に装置のカスタマイズなどを行ったうえでの販売などを経験してきました。一般社団法人コンピュータ教育振興協会で3Dプリンター活用検定試験の試験委員会の委員長も務めています。川岸さんがDMMにいらっしゃった際に機器の販売や保守でお付き合いをいただいていました。

3Dプリンター活用技術検定試験

一般社団法人コンピュータ教育振興協会(ACSP)が主催する日本初の3Dプリンターに関する検定試験。

川岸氏:私がDMMにいた際には、鈴木さんから装置を購入したり、保守サービスをお願いしたりしていましたが、いまでも思い出すのは、鈴木さんが営業に来てくれて、3Dプリンターを提案してくれた際に「この機種はDMMさんには合わない。うちじゃ扱ってないけど、こっちにしたほうがいい」と他社の取り扱い機種を提案してもらったことです。すごく鈴木さんのスタンスが好きでいろいろ教えてもらってきました。

鈴木氏:結局その提案がちゃんと購入する人のためになっていることが重要なんです。企業としては売上目標や利益目標もあるわけですが、それだけでビジネスをしていると、先が続かないんです。たぶん売上だけのために仕事をしていたら、今日のような取材の打診もいただくことはなかったでしょうし。

川岸氏:そういう観点で日本での3Dプリンターの位置づけを良く知る鈴木さんがなぜ3Dプリンターの資格試験が必要と感じて動かれたかに関して、改めてお話を伺っていきたいと思います。

装置開発、販売、設置、保守……3Dプリンターと関わった20年から

「先輩や上司に殴られながら仕事のイロハや誇りを学んだ」(鈴木氏)

鈴木氏:私は、昔ながらのモノづくりの現場で育ってきました。だから先輩や上司に叩かれながら背中を見て技術を身に着けてきたんですが、そんな文化だからこそ品質に対する非常に繊細なこだわりや高い技術が培われてきたんだと思っています。自分が作り上げた装置は自分の誇りをかけて開発したわが子のような存在です。それだけの思い入れがあるから変な妥協はありません。3Dプリンターに関わる前は、工作機械の分野で日本や海外のメーカーさんをお手伝いしてきたわけですが、立ち位置が変わって3Dプリンターに関わるようになってからいろいろ驚くようなことがありました。製造装置としての3Dプリンターはまだ発展途上中というか、工作機械のような感覚では扱えない全く別のものだったんです。

川岸氏:3Dプリンターは壊れたり、製造が止まりますもんね。そういう事態は日本の製造装置としては他に類を見ないというか(笑)

鈴木氏:そうなんです。お客さんもその感覚なので、3Dプリンターの保守を始めたばかりの際は、客先からのきびしいご相談が非常に多かったんです。「うちの装置だけ壊れている、初期不良だろうから直してほしい。」でも装置は壊れておらず、仕様でした。そしてそんなクレームをいただいたのはそのお客さんだけじゃなかったんです(笑)。ほぼ全部のお客さんから電話がかかってくるわけです。工作機械などの生産設備ではあり得ない「動かない」「期待通りの挙動をしない」などのクレームがきました。

そこで、保守をさせていただいているお客様を一堂に集めて、皆さんからのクレームを発表しました。もうボロボロに言われるわけです。自分の今までの感覚でいうと自分がつくった装置はわが子も同然です。絶対に手を抜かない。でも私たちが作っている装置じゃないので、何ともできない。クレームもごもっともな内容ばかり。歯がゆい思いをしながら、ひたすら不具合ではなく仕様であること、ほかの機体でも起こっている現象であることを説明して頭を下げるわけです。第三者の観点で「それは初期不良ではなく仕様です」「みんなそうです」という説明から始めたこともありました。

「工作機械と比べると3Dプリンターは壊れやすいし不具合もおこる生産設備なのは確か」と使い手の立場から語る川岸氏

川岸氏:保守を請け負う側としては何ともできないですよね。最近の装置でも無停止で稼働する装置はほとんどありません。10数年前はもっとひどかったでしょうね。

鈴木氏:最近はずいぶん改善されてきましたので、あくまで、昔そんな時代もあったという話です。当時はそんな中でも「みんなそうなら仕方がない、むしろ実態を理解できてよかった」と言ってくれる方もいました。そんな方々に支えていただきながら、「こう向き合っていくとよいですよ」というノウハウをお伝えしていく毎日でした。そうやって関係を積み上げながらやってきました。当然保守する側としては、「日本では客先からこういう反応が来ている」と報告を上げます。でも改善されるものもあればされないものもある。

実際海外メーカーの生産現場に視察に行って、改善を提案したこともあります。そのメーカーの工場の人間と喧嘩になりながら、改修を許可されて、独自仕様の機種を開発したりもしてきました。とにかくできる範囲でできることをやってきました。

3Dプリンターの日本での活用状況、その現状と課題は?

川岸氏:実際、3Dプリンターの国内での活用についてどう感じられていますか?

鈴木氏:3Dプリンターにはものすごい可能性があるのは事実です。実際欧米では活用事例が広がっています。ですが、日本のモノづくりは結局、大量生産が事業の根幹にあります。精密な金型技術は、大量生産しても不良を生み出さないために必要でしたし、厳格な精度への意識はそうしなければ、大量生産が成立しないからこそ必要だったものです。その歴史を歩んできた製造業の人間に3Dプリンターが認められるには、大量生産時代に求められてきた精度が実現できないと評価されないと思います。その感覚が染みついている世代には、「3Dプリンターにこんなことができます!」といっても「ふーん、そんなことできるんだ。でもその品質だと使えないね。」となってしまうと思います。

川岸氏:日本の品質へのこだわりは変態的というか、過剰に求めてしまっているところもありますよね。追加工して品質が担保出来て、多品種少量生産に対応できればよくないですか?

鈴木氏:多品種少量生産にしても品質は求められます。もっと一人ひとりにカスタマイズされた分野、たとえば私は医療分野や歯科分野に注目していますが、そこで成果が出せればよいかもしれません。ですが、そこには医療認可の壁があります。医療認可を取るには分厚い壁があるんです。では一般のモノづくりでは?というと大量生産時代の製造業で育った人に認められるには、精度が必要になります。

川岸氏:既得権益の壁、分厚いですよね。そうは言いながらも、鈴木さんはJBサービスで独自仕様の機種を送り出すなど工夫をされてきましたが、手ごたえはどうでしたか?

「自分が手掛けた装置は娘のようです。それだけ心血を注いで作ります」と熱い職人魂を語る鈴木氏

鈴木氏:私はシート積層方式の3Dプリンターを開発したり、いろいろな機種の3Dプリンターを選定して販売などもしてきましたが、その結果思ったのは、もう次の時代にバトンを渡そうという事でした(笑)。

次の時代へバトンを渡す。リスクをとって革新的価値に挑む若手の必要性

先ほどお伝えしたように自分と同じ世代は同じ文化で育っています。品質や精度が骨の髄までしみ込んでいるんです。国際的な競争の中では、3Dプリンターのような新しい技術を積極的に活用していく企業が成果を出せることでしょう。とはいえ、自分が3Dプリンターの開発やメンテナンスに仕事として関わっていなかったとして、自分がリスクをとって今までの文化や価値観をすべて壊して、3Dプリンターを大胆に導入できるかというと、難易度はかなり高いです。

材料や装置の技術進歩もそうですが、そもそも、使いこなす設計者の思考も変わる必要があるんです。型を抜くために抜き勾配を考えたり、リブ厚に配慮して設計しているうちは3Dプリンターの真価を引き出す設計はできません。設計手法自体が既存工法に立脚しているわけなので、3Dプリンターに最適化された技術やコスト評価で勝負できるモノづくりのフィールドを見つけて挑戦していく必要があります。そういう分野こそ、高専や大学を出てこれからモノづくりに取り組みます、という若手が切り開いてほしいと思うんです。

川岸氏:既存の工法に精通しているからこそ、縛られているという側面ありますよね。

鈴木氏:そう考えると私はもう60歳を超えましたが「私たちの世代でできることは、もうない」と思ったんです。こういう経験知や世の中の仕組みを理解してしまうことでチャレンジが逆に難しくなっている。40代でも無理でしょう。まだそういう仕組みを知らない若い世代に本当に自由なモノづくりを行ってもらって、30代、40代の上司がそれを経営者に認めさせるようにならないと日本のモノづくりは変わらない。そう思ったんですね。そこで若い世代が3Dプリンターに触れるきっかけとして検定試験を思いつきました。もちろん就職にも使えるし、試験のために勉強したら、就職してから3Dプリンターを活用するきっかけになるかもしれないと思うんです。

コンテンツ生成系AIの可能性に関して楽しそうに語る川岸氏

川岸氏:そういう意味では現在の教育分野で特に力を入れているプログラミングのような分野は現在の中高生が就職する時期には最近のChatGPTのような、AIが対応する社会になっちゃう世の中になると思うんで、逆説的にものづくりは可能性が広がるというか、革新的技術を若手が提案してくれたら面白いなと思いますね。設計力や膨大な経験やそこで培われた判断力がなくても、適切にAIを使いこなす対話力を磨いた若手が経験則外のまったく新しい設計を生み出したり、膨大な仕事量をさばけるというのは、大きな変化を生み出せる潜在力があります。

鈴木氏:そうですね。そういう突き抜けた変化の、可能性を理解はできるけれど、苦労して自分でやっている時間がシニア層にはもうない。だからこそ若手が3Dプリンターを活用できる入口を整備する必要があるんです。

川岸氏:そのために検定試験があったらいいな、ということですね。

鈴木氏:はい、ACSPは3DCAD検定をすでに実施していましたので、親和性もあります。そこで検定が開始したという形です。いまは残念ながら就職活動の一環で資格でも持っておくか、という感じで学校単位で取得されるケースも多いんですが、もっと早くから試験を受けるために勉強をしてほしいんです。

3Dプリンター検定試験は学術的な観点ではなく、広く薄くでもいいので、3Dプリンターとはどういうもので、どんなことができるのか、何が得意で、何が苦手かを知ってもらう内容になっています。基礎知識を知っていただいたうえで、実際に使ってもらう。資格試験を持っていても、実際にモノづくりできるわけではないから実践も必要です。ですが、例えば金属3Dプリンターは高額なので使えない人も多いことでしょう。この資格を持っていることで、実際に装置を使う仕事をしたいという意思表明にも活用してほしいです。

川岸氏:私も鈴木さんに誘っていただいて、検定試験の編集員をしていますが、DED方式の金属3Dプリンターを試験項目からはずそうかという議論をしたこともありますよね。これ実際に使える学生がいないんじゃ検定する意味ないんじゃないか、という。

鈴木氏:教科書に載っていても触ったことがない機械を試験に出す意味はないんじゃないか、そういう議論もしながらより役に立つ検定試験をめざしています。これは学生だけではなく、製造業の若手でもよいのですが、企業に入ってから3DCADの技術を持っている若手が3Dプリンターに興味があることを意思表示するためのきっかけとして資格試験を活用してほしいと思います。

「年を取ると他人を裏表なく応援できるようになるんです」と笑う鈴木氏

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イノベーションのジレンマを解決するきっかけとしての世代交代

既存の競争優位に阻まれ革新が阻害される状況を「イノベーションのジレンマ」と呼ぶが、鈴木氏は3Dプリンティング技術というイノベーションが、金型技術をはじめとした強いモノづくり日本を支えた技術力にもまれてきた過程を、その目で見てきた古強者だ。

鈴木氏と川岸氏の対話を通じて、浮き彫りになってきたのは、鈴木氏をはじめとした業界人の尽力で、多くの課題や未成熟な点がありつつも、3Dプリンティング技術が着実に日本でも3Dプリンター活用が根付き、次のフェーズに向かいつつあるということだ。今後数年で到来することが期待されるのは、イノベーションのフェーズだろう。

いままでの常識に染まらない破壊的なブレイクスルーを起こすことを若い世代に期待する鈴木氏は、「年を取ってから若い人を応援できるようになったんです」と笑いながら検定試験について紹介してくれた。検定試験からイノベーションは生まれない。しかし10代、20代の製造業を目指す若者の中に対して3Dプリンターへの関心を広げ、着実に間口を広げるだろう。その広がった間口をくぐる人材たちの中に、破壊的なイノベーションを日本にもたらす若き天才が紛れているかもしれない。

聞き手】川岸 孝輔(かわぎし こうすけ)
楽器メーカーで製品企画から製造まで幅広く経験後、大手インターネット関連企業でオンライン受託造形サービスを統括。日本最大規模のサービスに育てる。現在は独立して株式会社ツクリテを設立し、製造関連のデータ製作だけでなくデジタルツインを実現するMRアプリ開発を行う。「楽しみながら新しいことを学び続ける」ことをモットーにしている。
コーポレートサイト:https://www.tkrite.com/
note:https://note.com/tkrite/

鈴木淳一氏

【語り手】鈴木 淳一(すずき じゅんいち)
内資系工作機械メーカーでシート積層方式の3Dプリンターを開発後、海外3Dプリンターメーカーとのリレーションを活かして、JBサービス株式会社で3Dプリンターの設置・保守サービスを展開。20年以上の3Dプリンター業界経験を活かし、ACSP主催の3Dプリンター活用技術検定試験の試験委員会委員長も務める。
コーポレートサイト:https://www.jbsvc.co.jp/products/3d/

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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