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TCT ASIA 2025に行ってみてわかった中国AM事情とは?

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。

TCT ASIA 2025に行ってきました

ようやく東京でソメイヨシノの開花宣言がありましたが、3月後半になっても不安定な天気が続き、花粉や黄砂でマスクもやめられず、早春を楽しむにはもうしばらくかかりそうです。東京では雪が降った週に、前回のコラムでお知らせしたとおり、私は3月17~19日に中国 上海で開催されたAM関連展示会「TCT ASIA 2025」を見に行き、無事帰ってきました。ShareLabは今回日本で初めてかつ唯一のメディアパートナーになり主催社の皆さんの温かい歓迎も受けました。この場を借りて感謝をお伝えしたく、ありがとうございました。また先日より開始した「海外展示会調査サービス」の受託案件もあり、ShareLabとしても私個人としても、初めて行くことができました。

左から主催社O’Connor Daniel氏、(丸岡)、Catherine Pan氏、Eileen Hu氏

中国本土も上海も初めてで、もちろん過去のTCT ASIAの情報も、上海の一般情報もネットやメディアを通じて見聞きしてはいましたが、やはり行ってみなければわからないことはあり、いろいろと勉強になった出張でした。これからShareLabを通じてどのような形で得た情報をお伝えしていくかは検討して、決まり次第お知らせします。まずここでは全体感をお伝えしたいと思います。

行ってみてわかった中国AM事情

まず、展示会全体の感想を一言で表すと、「日本とは別の世界」でしょうか。まず展示会場の国家会展中心(NECC)は上海に2つある国際空港の1つ上海虹橋空港のすぐ近くにあり、羽田空港からの直行便もあり、行きやすい場所にありました。上から見ると4つ葉のクローバーのように配置された8つの大ホールがあり、TCT ASIAは7,8の2ホールで開催されました。下の写真は会場入り口で、斜面の両脇からエスカレーターで登っていきます。

これだけでもスケールの大きさがわかるかと思いますが、今回の展示ホールの面積は史上最大の45,000強平方メートル、出展ブース数も史上最大450強、予想来場者数25,000名以上で、ホール面積は東京ビッグサイト東1-6ホール全部より少し小さいと言えばイメージできるかと思います。規模感で言えば日本の展示会の4-5倍、ドイツのFormnext展示会より少し小さいというところで、これも広い中国の1都市での展示会ですから、AM産業規模は更に数倍とみて良いでしょう。

ブースレイアウト 上が8ホール、下が7ホール

まず展示会の規模感、出展ブース、来場者の様子をできるだけリアルにお伝えしたいと思い、ホールをひと通り歩きながら解説した音声付動画をShareLabTVチャンネルで公開しました。

7ホール(主に金属関連)
8ホール(主に樹脂関連)

ご覧の通り、出展はほぼ中国企業で、過去は多かった海外企業もごくわずかになったのが近年の変化と出展者から聞きました。また金属関連、特にレーザーPBF(粉末床溶融結合法)関連の装置・材料の展示が多く、メーター級の造形エリアを持つ造形機はすでに当たり前のように何社も展示し、当然会場に置けない大きさの装置で作った数メーター大のサンプルもあったり、金属摩擦撹拌接合原理を使った装置や、樹脂と炭素長繊維をノズル内で一体にして押し出す装置など、知っていても実物を初めて見た展示もありました。

BLT社の大型金属PBF装置実機例

樹脂の方はラティス、メッシュ構造による一体成形靴の展示が多く、またMEX(材料押出法)、VPP(液層光重合法)、MJT(材料噴射法)の材料の多色化、混色成形化がかなり普及し、サンプルや用途もこれまでと違う多様化が見られました。樹脂は既に一般普及している感じで、逆に目新しい製品や用途はあまり無かったようでした。

樹脂一体成形靴など製品の即売もあり、多くの来場者で混み合う

一方、他国の展示会では多く見られる解析、設計、工程管理ソフトウェアや、樹脂エクストルーダ大型プリンター、ロボットなどによる工程自動化システムなどは比較的少なく、海外と中国国内需要の違いが反映されているのではと感じました。また英語で会話できる出展説明員の方が予想より少なく、スマホの音声翻訳でも会話が難しく、対話からの情報収集が不十分だったことは否めません。

来場者はとても多く、年代も幅広い感じですが、比較的若い世代が多いように見えました。日本から含め海外の来場者は少なかった(韓国を除き)ようでした。また来場者が熱心に説明を聞いたりする様子から、熱意の高さも感じました。半面、あまりにメーカーも製品も多く、全体に過熱気味、また実際の需要より供給過多な感じは10年位前の欧米の展示会に似ているとも思いました。加えて製品や企業の優劣がわかりにくく、買う方は選ぶのにも苦労するだろうと思いました。現地の人民元価格は、多くは聞けませんでしたが、装置、材料ともに日本の半分程度かそれ以下という感じでした。ただし中国国内の全体相場との比較が難しく、単純に日本円換算では高い安いについて安易な比較は出来ないと思います。いうまでもなく、中国のAM製品の多くが日本含む海外に広がるとは考えにくく、その意味でも「別世界」ではありますが、中国AM産業急成長の背景にある、軍需含めた航空宇宙、スマホやパソコン、電気自動車など中国製造産業の新しいものを取り入れ、取り込む積極性やスピード感、また日本にとってパートナーでもライバルでもある中国の動向を実際に見て知っておくことは大事で、その良い機会として、来年以降も日本から見に行かれることをお勧めしたいTCT ASIA 2025でした。

近日ウェビナーでもお伝えする予定

当然ながらこのコラムでも書ききれませんし、文字や写真では伝えきれない展示会で得た情報、また入出国から上海での移動、食事から買い物、街での人々の暮らしの様子なども含め、近日ウェビナーを開催して、もう少し広い情報をお伝えしたいと思いますので、ShareLabメールマガジン(購読登録はこちら)でのお知らせをお待ちください。ひとつだけ先にお伝えしますが、海外出張で初めて、現地通貨に全く両替せず、ホテル料金以外クレジットカードも使わず、スマホだけで支払いを済ませて帰りました。それが便利なのか、良いのかは何とも言えませんが。

ShareLabニュースにもう一言

今年2月にShareLabニュース記事として掲載した「TCT Japan 2025 主催者セミナー参加報告」の中でも触れた新しい取り組みで、国内でもテレビ含めたニュースでも報じられましたが、複数の海外のAM関連ウェブメディアもニュースを配信していました。駅舎建設として世界初とのことで注目されたようですが、海外でも似たニーズはたくさんあると思われ、このように、日本発で海外に広まるAM活用用途がこれから増えていく、良いきっかけになればよいと思います。

海外では様々なAM市場分析、成長予測レポートが多数発行販売されていて、それだけ情報を買いたい人の数が相当多いのだろうと思いますが、「データセンター向けAM:3Dプリンティング市場の機会」という、これまでなかった切り口のレポートで、興味深いニュースでした。確かに生成AIの爆発的な普及により、大規模データセンターは各国で増えることは間違いないですが、一方でそれが消費する電力と発生する熱は大きな課題でもあり、その冷却やサーバーを構築する部品、更には使われる多量の半導体を製造する装置部品にAM製造が使われる可能性は大きく、日本国内でも大きなAM需要の一つになるのではと期待しています。もちろん日本が乗り遅れて、海外に市場を取られてしまうのだけは避けたいところです。

ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!

       

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