コラム「Stay Hungry, Stay Additive!」はじめます!
みなさんはじめまして。イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 と申します。この「Stay Hungry, Stay Additive!」は、私がこれまでアディティブマニュファクチャリング(付加製造、以下AM)のソフトウェアやシステムの販売や、国内外の様々な技術、活用、多くの方々に関わってきた経験を基に、AM/3Dプリンター関連ニュースや出来事から学んだ、感じたことをお伝えしながら、AM/3Dプリンターのホントについて関わるみなさんといっしょに考えて、進んでいきましょう!というウェブコラムです。タイトルは世界的な有名なスピーチの一部をお借りして、「まだまだ良いものを求め続け、少しずつでも積み重ねていきましょう!」という自分とみなさんへの願いを込めて考えました。ひと月に2回程度お届けする予定ですので、お仕事の合間に息抜きとして読んでいただければと思います。
まず初めに、前職である丸紅情報システムズ株式会社で樹脂・金属3Dプリンターシステムとサービスの販売事業に携わってきた立場から、今年4月より現職の業務用AMポータルサイト ShareLab(シェアラボ)の運営会社であるイントリックス株式会社に入社し、その事業に関わることになりましたが、AMを違う視点から見たり、これまでと違った方々と話したりしてあらためて思うことは、特に日本の製造関連企業や研究教育機関にとって、「試作品や実用品のカタチを作る=加工・製造装置」としての価値はもちろんありますが、それ以上に「デジタルエンジニアリングとの連携によるコミュニケーションツール」としての価値の大きさは、意外に気づかれていない、または価値として認められていないような気がしています。
デジタルコミュニケーションとAMの共通点は?
イントリックスはBtoB、主に製造企業に特化してデジタルコミュニケーションサービスを提供する会社で、入社後教わったことは「デジタルコミュニケーションは、顧客をはじめとするすべての関係者との関係を変えるもので、全社的な取り組みが必要」であり、「自社や商品をわかってもらうために顕在・潜在顧客など情報の受け手との間で行われるあらゆるやりとりを指し、そのゴールは、相手を変化させること」とのことです。もちろんコミュニケーションもエンジニアリングも「デジタルが全て」ではないのですが、今の社会経済環境においては有効です。その点から、AMは現物のカタチという情報を通して「相手(研究教育機関なら研究者や学生も)を変化させ、行動させる」のに速く、簡単で、安くもできる装置と考えています。特に日本の企業はこれまで優れた品質と価値の完成製品やサービスそのもの、または対面を基本としたやりとりは得意で社内ノウハウも十分でしたが、それだけでは今の複雑な顧客、関係者、国際競争相手含めた相手を「変化させる」には速さ、広さ、変えやすさに足りず、そこでデジタルの活用がようやく有効になっている一方、経営層の認識や社内・学内ノウハウや人材はまだ不十分で活用が進まない現状は、デジタルコミュニケーションとデジタルエンジニアリング+AMの共通の課題だと思います。そこでこれからこのコラムやシェアラボを通じ、みなさんそれぞれの課題解決改善の何かのヒントや助けになる情報とサービスを提供していきますので、よろしければお付き合いのほどよろしくお願いします。
日本の会社も遅れているばかりではない
さて、5月の大型連休中は遠出をしなかったのですが、全国で真夏の暑さだった5月4日土曜日の夕方に偶然観たテレビ番組から、とても参考になるAMの活用事例を見つけました。テレビ東京系で毎週土曜日午後6時から放送されている「知られざるガリバー~エクセレントカンパニーファイル~」は日本の様々な優れた会社を紹介する番組です。特に良いと思うのは、毎回社長など企業のトップ自らが出演し、自分の言葉で企業の紹介をされることと、毎回違う女子大学生(みんな見た目キレイ系かつ、すごくちゃんと話すのにおじさんはいつも感心)がインタビューしたり企業内見学をしたりして最後に感想を話す構成で、企業の方々も難しいことを和やかに、素人にもわかりやすく説明され、「経済番組の中ではゆる系」でありながら中身は濃いところで、観るたびに「いろんな会社や技術があるなぁ」と気づかされます。その5月4日放送の企業は今年創業100年を迎える水中ポンプのトップメーカーである株式会社鶴見製作所(大阪府)で、浄水場、水田から建設土木工事現場など世界各地で壊れにくく耐久性に優れたポンプを開発製造販売されている企業でした。大変失礼ながら名前は聞いたことがあったぐらいでほぼ存じ上げない企業と製品だったのですが、番組後半で「3D砂型プリンター」の活用紹介がありました。ポンプに使われる金属部品の多くは砂型による鋳造で長年変わらない作り方で作られているそうですが、新しい生産体制への挑戦として、国産メーカーであるシーメット株式会社の砂型積層造形装置(シェアラボでも過去にこちらで開発秘話を紹介しています)を導入し、実用研究を進め、既に従来砂型製造に1~2カ月かかっていた工程を4日ほどに短縮し、品質や性能も優れた鋳造部品を製造されているとのことでした。番組を見ながら鶴見製作所のウェブサイトを見ようとしたらアクセス急増のためか開けませんでしたが、後日開けたこちらのウェブページで詳しく紹介されていました。
番組を観て最も印象に残ったのは、代表取締役社長 辻本 治 氏が会社の姿勢として、「新しいことを何もしないことが最大のリスクである」という主旨の話をされていたことでした。100年企業であり、水中ポンプという成熟した製品に特化して作り続けている企業だからこそ、新しい技術に積極的に取り組むことが国際的な競争力になり、生き残り続けるために不可欠なことで、これは多くの日本の製造企業にも共通することだと思います。一方、積層造形装置を導入活用される背景には、まず水中ポンプの技術革新を続けるという経営方針と現場の共通の「目指すところ」と「課題」=出口が先にあり、そのひとつの解決手段として砂型積層造形装置を導入され、またそれが活用できるのは基礎となる鋳造技術とデジタルツールによる鋳造解析・砂型設計技術、計測評価技術を持たれていたからだと推察していて、これらは樹脂、金属、また国内外問わずAM導入活用に成功する企業に共通していることだと思います。また偶然ではないと思いますが、鶴見製作所のウェブサイトはとても見やすく、デジタルコミュニケーションにも同じく力を入れられていることがうかがえます。日本は海外に比べデジタル化やAM活用が遅れていると言われていますが、鶴見製作所のような企業もあることを知り、「遅れているばかりではない」ことを学んだ連休でした。余談ですが、NHK「探検ファクトリー」も好きな番組で、「日本のものづくりはどうこう言ってもやっぱり人なんだなぁ」と面白く観ています。
世界の洋上発電設備をコンクリートAMで革新する!日本初出展「RCAM Technologies社」のビジョンと技術とは?
自分が取材と記事を書いたから取り上げるわけではありませんが、この会社も初めに「洋上風力発電の需要増加と大型化」という課題があり、課題解決の手段として適した市販のコンクリート3Dプリンターを使い、設計と造形条件を自社開発したことを強みとして、社会実装はそれぞれの分野のパートナー(自国だけでなく、需要がありそうな日本企業とも)と自分たちから働きかけて協働で進めるという、AM活用の「王道」とも言える例で、どのようなAM活用にも参考になると思います。とはいえ、アメリカの再生エネルギー推進のための公的資金援助が豊富だからできるとも言えますが、AMやものづくり以外に国内外で大きな補助金が出ている分野もあるので、そういうところと組めば活路があるかもしれません。
川崎大師に日本初の3Dプリンティング造形品『八角五重塔』が奉納される
これは私が大学卒業まで川崎に住んでいて、よく行って見ていた川崎大師の八角五重塔が3Dプリンティングで模型になったんだという個人的な懐かしさもありますが、製造における研究開発支援の会社が企画とデータ作成、樹脂3Dプリンターメーカーが製造をしたという、異なる専門企業がそれぞれの得意分野で協働した点で注目しました。なかなか日本ではこのような協働ができにくいと聞くことがありますが、このように企画・アイデア・デザインがAM活用拡大に現状足りない部分でもあるので、もっとこのような協働が増えればと願っています。
ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!