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3Dプリンターの「脳力と筋力」とは?

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウエア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。

ShareLabに加わって2か月半が経ちました

今年4月にShareLabに加わってから約2か月半が過ぎました。自分としては仕事が変わったことで慣れたり覚えたりしなければならないことが多かったので、とても長く感じています。それでもありがたいことに、この間にAM関連の対面・オンラインイベントが多数開催され、参加させていただいたおかげで旧知の方々含め200名を超える方々と会ってお話をすることが出来ました。その中で新たに知ったこと、気づいたことの中から、みなさんにも参考になるかと思ういくつかを今回はお伝えしようと思います。

3Dプリンターの脳力と筋力

ある方から個人的に教えていただいたとある本があり、読んでみました。勝手な私の理解でものすごく要約すると「これから成長発展する企業はデジタル活用の力=脳力と実際に物を作る、運ぶ、売る力=筋力を総合的に持つ企業で、そうなるためには」という内容で、勉強になりました。

その中に海外企業でのAMの話も出て来るのですがそれは別にして、例えば自動車を脳力と筋力の割合で考えてみると、電子制御以前の昔の車は「脳力0:筋力10」で、最近の車は私の感覚では「脳力4:筋力6」、自動運転車になれば「脳力7:筋力3」でしょうか。これを3Dプリンターにあてはめてみると、私は平均すると「脳力5:筋力5」だとみるのが良いと思っています。機種によって6:4から4:6の間の濃淡はあると思いますし、どちらが良いかは使う目的、予算などによっても異なります。例えば小部品・簡易試作の用途なら脳力が高く自動的な方が良いですし、大部品・製造用途なら「速い駆動力があり、重量や振動にも強い」「長い稼働にも安定して強い」筋力が高い方が良いかと思います。

一方、3Dプリンターはどれも同じ、または8:2や2:8として見てしまうと、適切な選び方や使い方が出来ない恐れがあると思います。つまり、「デジタル機器なんだから、どんなものでも自動でちゃんとできるもの」や「加工機械なんだから性能や精度はハードが担保するもの」の見かただけではいつまでも「使えないもの」しか見つからないということです。例えば寸法精度はハードや材料だけで決まらず、プリンターを動かすためのデータの作り方から、庫内温度制御も関係しますし、逆に誤差やばらつきはパラメータや形状データで改善することもできます。また3DプリンターもAIやセンサーフィードバックなどで脳力を高める方向と、躯体剛性、駆動システム、自動省力など筋力を高める方向があり、メーカーや機種により異なってくるので、自分の使う目的や条件に合う脳力:筋力のベストバランスの視点で、選ぶのも大事かと思います。でも最後は「人力」が価値を決めるのは自動車も3Dプリンターも同じだと思います。

海外のAM活用でも「脳力」だけじゃなく「筋力」も

先日あるニュースがきっかけで海外オンラインイベントに参加して知ったことからです。5月23日に開催された、フランス3Dnatives社主催のオンラインイベント「ADDITIV DESIGN WORLD」に参加しました。日本時間午後10時からだったので始めの方だけで寝てしまいましたが、参加無料で一部は録画も観られたのもあり、とてもありがたいイベントでした。

またこれまでと違うのは、多くがテーマごとに複数の欧米有識者によるディスカッションで、特に結論をまとめるでもなく、AMについていろいろな見方を知ることが出来たことでした。聴講者はアジア、北欧などいろいろな国から参加していました。テーマはAM装置や技術ではなく、「設計自由度は製造にどうやってインパクトを与えるか」「DfAMによる部品性能の向上」などについて、実際に使う人が現実的な話をされていた印象でした。その中でアメリカNASAの技術者が、「AMの利益には複雑構造の実使用部品製造で性能向上、重量・コストダウンもあるが、速く作って繰り返し実験評価改良ができることが最も大きい」という主旨の話をされていました。当然CAE解析設計もされているはずですが、やはり多くの実験評価改良が速くできるのがデジタルエンジニアリングとAMの大きな価値であることは、低く見られているのではとあらためて思いました。

また面白い話題があり、「紙の図面がまだ使われているか?」という質問に、NASA含め講演者企業の多くが「使っている」とのことでした。ただしそれらは規格、仕上げ加工の指示や品質管理情報を伝えるためのもので、製造現場ではタブレット画面を見たりするより紙の方が見やすく、書き込んでチェックしたりしやすいのが理由とのことで、これも「脳力」と「筋力」のベストバランスに近い話だと思いました。みなさんの現場ではどうでしょうか?

前回のコラムでもテレビ番組について書いたので、テレビばっかり見ていると思われても仕方ないのですが、最近ニュースでスタートアップ企業が開発した農業に使うロボットや、子供の安全のための新製品が紹介され、アップで映ると明らかにAMで作られたパーツが使われていました。またこのコラムの読者層にはファンも多いと思いますが、NHK総合の「魔改造の夜」5月30日放送「電動マッサージ器25mドラッグレース」でもAM製樹脂試作部品や実用部品が普通に使われていました。特に学生チームは軟質樹脂をうまく機能に活かした使い方をしていました。これらのことから、製品研究開発においてAMにより「速く作って繰り返し実験評価改良ができる」価値を理解する方々が日本でもっと増えれば、日本のAMへの評価ももう少し変わってくるのではと思いました。

ShareLabニュースにもう一言

タイにPLA製造工場を建設するために3億5千万ドルの融資を獲得 ― NatureWorks

これは一見、日本にもAMにも直接関係なさそうなニュースですが、海外のAM関連メディアが報じていて、またPLA樹脂メーカーに銀行が融資した背景には、タイ政府が長年PLAに注目し、研究資金援助や投資への税制優遇などで支援してきたこと、非石油系樹脂への需要が世界的に高まる傾向などがあり、もちろん消費量はAM材料以外が圧倒的に多いと思いますが、今後生産量が増えればAMのPLA材料価格低下などにも影響がありそうという意味でも知っておきたいニュースだと思いました。また国の産業政策として、世界の変化を読み、自国の特長を活かすため、「不適切な場所に自動車工場を設立しようとするよりもはるかに論理的」というのも参考にすべき考えだと思いました。日本も地下資源はなくタイとも違いますが、合成燃料や非石油由来エネルギーを作る装置の「資源輸出国」になれる可能性もあり、そのような産業を産官学で振興し、その開発や製造にAMが使われると良いのではないでしょうか。

ポリ乳酸(以下、PLA)プラスチックの多くを製造している企業であるNatureWorks社はタイにPLA工場を建設するために、Krungthai Bank PCLから3億5千万ドルの融資を受けた。PLAは包装材、医療用不織布、内装材などにも使用されており、石油を基にしない再生可能な代替品として期待されている。(上部画像は左から、ネイチャーワークス暫定CFO ロジャー ケンパ 氏、ネイチャーワークス社長兼CEO エリック リップル 氏、クルンタイ銀行ホールセールバンキング最高責任者 スラトゥン コントン 氏、クルンタイ銀行コーポレートバンキング第7部門副社長兼部門長 サラニャ アサモンコン氏。出典:NatureWorks社)

【タイにPLA製造工場を建設するために3億5千万ドルの融資を獲得 ― NatureWorks】(出典:ShareLab)

日本AM協会2024年度 総会(第1回)を開催

これもShareLabで過去にもお伝えしてきたニュースですが、まず内容として「日本のAMも変わってきた」と感じたニュースで、それは交流会で大手自動車メーカーやサプライヤーでAM活用推進に尽力されているキーパーソンの皆さんが参加され、それぞれのAM活用の現実や苦労、また反省や期待、協業の呼びかけなど、ご自身の言葉で語られたことが本当に良かったですし、こういったことがこれから増えてくると、さらに日本のAMも良い方向に進んでいくと思いました。

日本AM協会_2024年度総会

【日本AM協会2024年度 総会(第1回)を開催】(出典:ShareLab)

ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!

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