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AMでどうすれば「儲かる」のか?②

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。

AMでどうすれば儲かるのか?

8月に入り、本格的な夏が始まりました。パリでのスポーツイベントも始まり、テレビでの観戦を楽しんでいる方もいらっしゃると思います。スポーツでは競技によって、正確に測れるタイムや得点で競うものと、審査員など「人」が決める採点で競うものがあります。最近はボールがラインから出たかや、審判の判定をビデオで確認でき、「人」の要素が減ってきていますが、その「人」や「運」もスポーツの一部なのが面白さだと、私は思って観ています。さて、前回のコラムでは、儲けの大きな2つの分類の「AMで作るモノとしての儲け [利益]=[売価]-[原価]」について「①造形したそのものを社外に売る場合」「②製品の一部品として売る場合」の2例を示しました。2例は、儲かるか儲からないかが測りやすいケースでしたが、今回は比較的測りにくい3例目から続きを始めます。

・AMで作るモノとしての儲け [利益]=[売価]-[原価]

③試作実験や治工具・型として社内で使う場合
この場合は正しく言えば社外に「売る」のではないので、売価が無い、または定量化できない場合が多く、モノとしての利益が分かりにくいケースです。ただし、「売価」を「モノから得られる価値の総和」と置き換えたり、それより「原価」が小さければ「儲かる」ことになります。

まず原価を下げて儲ける代表的なケースは「外製・購買から内製に変える」例です。特に外製が切削加工や手・組み立て加工の場合、AMで内製化することでモノとしての原価が下がる場合や、外製・購買に必要な発注図面作成、相見積もり比較、社内手続きの労務費原価を下げる場合があります。ただ③の場合は、原価を下げての儲けより、「モノから得られる価値の総和」を増やす、または金額測定することでの儲けが大きくなる傾向にあります。例えば試作実験用のモノを作る場合、「原価」が高くても「速さ」の時間価値がより大きければ儲かります。

また治工具・型の場合、「作る-使う-改良する」のカイゼンサイクルが早まること、または加熱・冷却効率の改善による不具合発生率の低下や、メンテナンス頻度の低減など、「使う」ことから増える「価値の総和」が大きくなる使い方をすれば、AMで儲かります。

上記はほんの一例で、国内でも様々なケースで儲けている企業・部署の例は多数あります。一方で「価値の総和」をどうやって、どこまで正確に金額化するか、また前回述べた「モノサシ」について、どこからどこまでを、何の基準で測るかによって儲けも変わってしまう課題は、一筋縄では解決しない現実もあります。その参考例をシェアラボの記事からご紹介します。工業でもなく治工具でもないですが、日本中央競馬会(JRA)が仔馬の脚の異常を治療するための樹脂製蹄鉄を3Dプリンターで作った話で、「仔馬の価値が下がらない」「本来なら助からなかった馬を助けられる」価値の総和により儲けが大きくなるケースです。

3Dプリンターが仔馬を救う!3D CADを使ったことのない装蹄師と技術支援機関が生み出した肢勢異常の画期的な治療法

・AMを使う企業・組織としての儲け [営業利益]=[売上利益]([売上高]-[売上原価])-[販売費および一般管理費]

前述までの3種の「AMで作るモノとしての儲け」のモノサシの他に、「企業・組織としての儲け」のモノサシで測ると、今現時点でモノとしての儲けが少ない、またはマイナスであっても、企業・組織として、または数年のトータルで儲かることがあります。

まず企業の儲けは一般に損益計算書で表され、ある事業期間の儲けは上記の式で算出されます。ここでAMを使うことで企業・組織で儲けているかは、[売上利益]と[営業利益]のどちらで測るのか、またAMの原価や減価償却費を、売上原価と販管費のどちらに入れるかでも評価が変わりますし、儲けの期間と総額を1年で測るのか、5年で測るのかも、減価償却期間によって変わります。つまり、企業・組織として儲かるか否か、どうやって儲けるかは「モノ」だけでなく、事業企画-研究開発設計-製造-品質管理-在庫物流-補修-廃棄まで、ビジネスや製品のライフサイクル全般と、短期長期含めて考え評価するかどうかで変わります。

一方気を付けなければいけないのが、AMの原価に付帯設備、消耗・修繕、品質評価、AM前後の労務費など、全体と短期長期で算定しないと、隠れた原価で損をしてしまうことです。

企業・組織としての儲けについては上記の営業利益だけではなく、例えば既存事業に加える新しい事業を作るためのAMや、特に最近海外の企業では、感染症や国際政治により現実に起きた「サプライチェーンの寸断」や、対応不可避の「サステナブルな製造」の課題に対し、または製品販売後の整備、修理、交換(MRO)におけるサプライヤー喪失、設備・金型保管による営業外費用に対し、AMを中心としたサプライチェーンを構築しておく「保険的価値」のために、AMに投資する動きも見られます。追加新事業で儲けるためのAM活用の事例として、シェアラボの下記の記事にある講演された3企業のストーリーは参考になるかと思います。

「ストラタシス・デー」参加報告 ストラタシスと国内ユーザーが示した日本の樹脂AM活用の進化と新たな価値とは?

ストラタシス・デー 講演ステージ

AMでどうすれば儲かるのか?の答えは言うまでもなく、一般公式や解はありません。しかし儲けるための仮説検証の方法は、前回と今回示したケースのどれに当てはまるか、モノサシをどのように設定するかが道標となるかと思います。また自社や自組織内だけの閉じた環境より、社内社外で先行者や有識者を巻き込んで儲けの仮説検証を進めることを強くお勧めします。

ShareLabニュースにもう一言

木質3Dプリントを用いた資源循環型システム「Regenerative Wood」を発表 ― 三菱地所設計社

三菱地所設計本店における「TSUGINOTE TEA HOUSE」展示の様子。

このニュースのように、最近資源循環型のものづくりにAMが使われるニュースが増えてきました。これまでは何かを作る課程で出る、残る、またはモノとして使い終わった後の廃棄物を、細かくして主材料に混ぜて使うというケースが良く見られます。その背景として、次のようなことがあるのではと考えます。マテリアルリサイクルとして溶かしたり精製したりして、廃棄物をそのまま新しい材料にして使う方法は、使う熱エネルギーや排出温暖化ガスが多かったり、コストが高すぎたりすると成立しにくいですが、粉砕は比較的エネルギー消費も少ないことに加え、主材料より安くできれば、混ぜることで材料価格を下げられます。一方、樹脂に固形物を混ぜると溶けた時の流れが悪くなる、または樹脂の流れ方向に混ぜたものが「整列」してしまうことの弊害が起きることから、型を使う成形では使えない、または混ぜる量に上限があったりします。しかし、材料押出法(MEX)プリンター、特にエクストルーダー方式はそれらの弊害に強い、または「整列」の影響が小さくなるように制御できます。それに加え、特に主材料が樹脂の場合、混ぜることで溶けて固まるときの収縮を抑えられたり、成形品の剛性を上げたりでき、混ぜる前より性能を上げられる、また形状や大きさの自由度が高いので、デザイン価値、使用価値も上げやすいことがあります。このような元の主材料、廃棄物より性能や価値を高める「アップサイクル」をしやすいこともAMと資源循環型モデルの相性が良い要因と考えています。今後もこのようなニュースに注目していきましょう。

ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!

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