脱脂不要の金属FDM方式「Studioシステム2」を発表-DesktopMetal
2019年以降、日本でも徐々に普及が始まっているFDM方式の金属3Dプリンターは、ミッドレンジ機という2000万円~5000万円台で導入できるカテゴリを形成する大きな存在感がある方式だ。その金属FDM方式のメインプレイヤーの1社、DesktopMetalは、造形、脱脂、焼結という3つのプロセスで実現していた金属FDMによる部品製造で、脱脂を不要にできる新機種と新材料を発表した。
目次
PBF方式は高精度造形ができるが材料の管理が難しい
従来主流だったPBF方式について簡単におさらいしながら、金属FDM方式について説明しよう。PBF方式は、材料となる金属粉末を敷き詰めたパウダーベッド面にレーザーを当て、熱で溶かし形を作る。その上から金属粉末の層を薄く重ね、再度レーザーで溶融を行う。この過程を何度も繰り返しながら部品を造形する。
装置内では、大量の金属粉末をパウダーベッド内に満たしてから金属の粉末は作業者が誤って吸い込んでしまえば、健康被害につながるし、一定以上の密度の金属粉末が空気中に漂ってしまうと粉塵爆発の危険性がある。パウダーベッドと材料充填装置内に一定量の金属粉末を充填させないと、造形できないため、材料を入れ替えようとすると、段取り替えに時間がかかるという運用上の注意事項があった。
金属粉末を使うPBF方式の金属3Dプリンターは、健康被害を防ぐための防塵対策や、粉塵爆発を防ぐための防爆対応が必要だ。また1億円近い装置費用の高さや大きなフットプリント(装置サイズ)もあって、導入時の大きな課題になっていた。
FDM方式の金属3DプリンターはPBF方式よりも設置環境を整えるのが容易
そんな中、近年注目を集め、世界で出荷が伸びているのが金属FDM方式の3Dプリンターだ。金属粉末と熱可塑性のバインダー(結合樹脂剤)を混合した材料を積層して造形した後に、デバインダー(脱脂装置)でバインダーを除去。その後ファーネス(焼結炉)で焼き上げ金属部品を製造するアプローチをとる。これはMIM(金属の射出成型)の技術を応用したもので、粉末冶金分野では一定の認知度がある方式の応用といえるだろう。
装置の設置環境に関していうと、設計部隊が常駐するオフィスビルに3Dプリンター、脱脂装置、焼結装置のすべてを気軽におけるものではない。脱脂装置では有機溶剤を扱う。有資格者を配置し、有機溶剤を適切に取り扱う必要があるし、揮発ガスが発生するため適切な喚起設備も必要だ。廃液の適切な処分を行う必要もある。また焼結炉の設置時には、地域によって対処が異なる場合もあるが、防火法対策として防火扉の設置や15m以上の天井高を必要とするなどの対策を求められる。
金属粉末に比べれば、リール状のフィラメントや固形材料の方が、材料の取り扱いや装置の設置環境を整えることが格段に容易だとは言え、脱脂装置の準備にハードルの高さを感じる企業が一定数いたことは想像に難くない。
DesktopMetalのStudioシステム 2は、脱脂不要の装置と材料を発表
DesktopMetalはこの課題を解決するために、バインダー除去が不要な改良装置と材料を投入することを発表した。それがStudioシステム 2だ。
Studioシステム 2は、Studioシステム+の後継機という位置づけで、バインダーの脱脂と金属粉末の溶融結合をファーネスの1ステップで実現する。このため、デバインダーステーションを必要とせず、造形、焼結の2ステップで部品製造を実現できる。材料に含まれるバインダーの含有量を減らし、有機溶剤による脱脂を経ずとも、焼結プロセスのみで脱脂を行う事ができたというわけだ。
この結果、以下の5つの効果が得られるだろう。
- 導入コストの圧縮(脱脂装置および換気設備費用が不要に)
- フットプリント(装置設置面積)の削減
- ランニングコストの削減(脱脂装置の運用コスト)
- 製造の高速化(脱脂工程にかかった時間が今後不要に)
- 環境負荷の低減(廃液処理、排ガス処理が不要に)
気になる装置の互換性と材料の対応に関してだが、既存のStudioシステム+を導入済みのユーザに対してもアップデートが可能なサポートが用意されており、一部の追加部品とソフトウェアのアップデートによりStudioシステム 2と同じ機能を実現できるサポートが用意されている。Studioシステム 2で使用できる脱脂不要な造形材料は、316Lステンレス鋼のみのスタートとなるという。
今後徐々に材料のラインナップは広がっていくだろうが、その間は脱脂装置での脱脂工程を必要とする既存材料を利用することになるようだ。
導入コスト、運用コストがともに下がり、造形速度が向上する今回の脱脂不要材料の登場は、導入を迷っている企業にとっては大きな後押しになるだろう。
現行装置のアップデート対応は心強い
大変大きなインパクトをもつ今回の発表だが、今回の取り組みで最も評価されるのは、既存機種への手当ての部分だ。すでに導入した機種も追加回収を行うことで、新機種と同等の脱脂不要材料に対応できる。
進化の過程にある装置では、旧機種を切って捨てる形でしか実現できない性能革新もあるのかもしれないが、互換性の確保や、アップデート対応が手当てされていることは導入企業に対する大きな安心材料になる。日本では丸紅情報システムズ、アルテックなどが取り扱うが、3Dプリンターで金属部品を造形することに取り組む企業にとっては導入障壁が下がり、取り組みやすくなることで、普及が加速しそうだ。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。