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イノベーションを形に。ミシュランが群馬積層造形プラットフォームとはじめた挑戦。

2022年4月15日、日本ミシュランタイヤ株式会社が、群馬県太田市にあるR&D拠点にAMアトリエという名称で金属3Dプリンターを活用できるセミオープンな研究施設をオープンした。同施設は群馬県に拠点を置く群馬積層造形プラットフォームを通じて産官学連携の上、新しいモノづくりを目指す中核施設となる位置づけだ。

フランスに本社をおくタイヤの世界的なメーカーであるミシュランだが、タイヤ製造に使う金型の一部を金属3Dプリンターで造形しているほか、傘下に3Dプリンターメーカーである仏AddUp社を持つAM先進企業でもある。

本記事ではミシュランが音頭を取って形成された群馬積層造形プラットフォームの取り組みとAMアトリエについて紹介していきたい。

ミシュランにとってのAM事業

ミシュランはタイヤを製造する際に金型を用いる。雨や雪に強くしっかり止まり静かに走るタイヤには複雑な構造が求められる。高機能化するタイヤには複雑な構造の金型が必要不可欠だ。こうした高機能タイヤの開発や製造に金属3Dプリンターで造形される金型が活躍してきたという。

2023年夏には本社もこの群馬県太田市の太田サイトに移転するミシュランを率いる須藤社長。

「私たちは高機能タイヤの開発製造のために金属3Dプリンターを活用してきました。そこで培ったノウハウを活かし、タイヤを超えた新規事業として金属AM事業に取り組んでいます。」( 日本ミシュランタイヤ株式会社 須藤 元社長)

ミシュランはタイヤ事業、タイヤ周辺事業、タイヤを超越した事業の3つの事業を視野に入れている。タイヤを超越した事業としてはグリーンエネルギー、医療、金属3Dプリンター事業などに取り組む。どれも本業のタイヤ製造の中から派生した事業だが、タイヤ製造業のの枠組みを大きく超える新規事業だ。ミシュランとしてはこの新規事業の売上比率を2030年には30%程度まで引き上げたい考えだ。こうした新規事業の開発を推進するためのR&D拠点として群馬県太田市の拠点は重要な位置づけを占める。

ミシュラン社の新規分野の構想図
「タイヤを超越した事業」としてハイテク素材事業、金属3Dプリンター事業、医療向け事業、グリーンエネルギー事業などを構想

「関係していない社員は入れない場所があるほど、機密度が高い施設なので、いままでは公開することがありませんでした。ですが金属AMは産官学が連携して日本に根付かせていかなければならない分野だと考えています。私たちだけではできないことを、一緒に取り組んでいくきっかけにできればと思いAMアトリエを開所しました」 (須藤氏)

金属3Dプリンターで造形された、AMアトリエ開所式のテープカットに使われたハサミ
AMアトリエ開所式のテープカットに使われたハサミも金属3Dプリンターで造形

活用主体としての群馬積層造形プラットフォーム

AMアトリエは金属3Dプリンターを知り、活用方法を学び、実際に実践できる共同研究の場所として位置づけられている。その運用は群馬積層造形プラットフォームの代表を務める共和産業株式会社の鈴木宏子社長は語る。

群馬積層造形プラットフォームの代表理事をつとめる鈴木氏。左にはイベントにかけつけたご当地キャラぐんまちゃん。地域密着で新価値創造に挑む。

「金属の積層造形は新しい可能性に満ちた分野なのですが、まだまだこれからの分野です。金属3Dプリンターは一台1億円以上する高価な装置で、装置を導入すればだれでも簡単にものが作れるような装置でもありません。使いこなすノウハウが必要とされるのです。ミシュランさんには、その活用実績と体系化されたノウハウがあります。初級、中級、上級といった形で体系化されたカリキュラムを日本語で、地元の太田市で受講できます。装置も購入前に利用できます。これから年間数十人の技術者が育っていくと思います。」(鈴木氏)

群馬積層造形プラットフォームの参加企業

群馬積層造形プラットフォームの参加企業を50音順で紹介すると(株)秋葉ダイカスト工業所、関東精機(株)、共和産業(株)、しげる工業(株)、東亜工業(株)、日本ミシュランタイヤ(株)、富士部品工業(株)、矢島工業(株)の8社。各社が協賛金を拠出し、教育プログラムを受講したり、施設を利用していくという。

「太田市は航空・宇宙・自動車の産業集積地です。そんな近隣の企業の中でもスバルのティア1企業が多いです。CASE対応というように、自動車のあり方が変わっていく未来に対して、ビジネスを変えていかないといけないという危機意識を持っている企業が参画していると思います。中京エリアからも参加を希望する声が出ています。」(鈴木氏)

群馬積層造形プラットフォームの代表を務める鈴木氏が率いる共和産業はデトロイトにも支社を構える自動車関連部品加工業を行うが、医療用分野への取り組みに力を入れているとのことだ。

ミシュランが群馬積層造形プラットフォームで提供する教育カリキュラム

群馬積層造形プラットフォームで提供される教育プログラムはミシュランが過去10年間、3Dプリンターを活用したモノづくりのために蓄積したノウハウがもとになっているという。もともとミシュランの太田サイトはミシュランのR&D拠点ということだが、AMアトリエには何人のエンジニアがいるのか。

PBF方式の金属3Dプリンターにある、8つのプロセスの図
PBF方式の金属3Dプリンターでモノづくりを行う際の8つのプロセス。AMアトリエはこの8つのプロセスに対応したゾーンを用意している。

「太田市の拠点には550名ほどの社員がいますが、その中で5名程度が専門のAMエンジニアです。GAM参画の企業からは1名以上の技術者が参加していますので、AMアトリエには10名以上のエンジニアがあつまり、共同研究を行っていきます。それ以外にも地元の大学などとも連携し、共同研究をおこなっています。ノウハウを学び基礎研究を行っていく場としてAMアトリエが機能する形です。」(須藤氏)

「カリキュラムはミシュランがフランス語で蓄積してきた社内教育資料が基になっています。日本語に翻訳され、初級、中級、上級の3つの課程にまとめられています。指定のソフトウェアは特にありません。各社設計や開発で利用している環境は異なりますので、利用するCADやCAMソフトをしばらず、考え方を学ぶ場となっています」(鈴木氏)

参画企業各社は、ミシュランからAMに関するノウハウを学びながら、基礎研究の過程や成果を共有していく。取り組むテーマはそれぞれ全く別なものになるということだった。

ミシュランにとってのビジネス上の狙いは?

なぜミシュランは自社単体での取り組みではなく、群馬積層造形プラットフォームという活動に取り組むのか。

「AMアトリエの整備には多額の資金を投入しました。装置自体の費用もそうですが、安全対策や後加工用設備など万全の体制を整えるためには資金が必要です。その投資を行った狙いは私たちだけでは生み出せない価値の創造でした。ミシュランとして持っている金属積層造形のノウハウを共有することで、タイヤを超越した領域での新しい価値を産官学の連携で産み出していきたい。ミシュランとしてグリーンエネルギーや新素材開発、医療用分野での事業創造に取り組んでいますが、私たちだけではできない事業創造を群馬から発信していきたいと思っています。」(須藤 氏)

ミシュランが提供しているAddup社の3DプリンターはPBF方式。精密加工に優れるが、大規模量産には向かない方式だ。現段階では自動車のような大量生産への対応は限定的で、高付加価値部品の製造に効果を発揮する。こうした点も踏まえて、産学官の連携や試行錯誤できる場としてのAMアトリエが3年の準備期間を経て生まれたという。

群馬積層造形プラットフォームへの参加がAMアトリエの利用の条件で、賛助する資金に応じて利用できる範囲が変わってくるということだが、先進設備を活かした新しい価値創造に向けた取り組みとして動き出している企業がすでにいることは心に留めておくべきだと思う。一緒に研究を行う中でともにビジネスを行うケースも出てくるかもしれない。チャレンジする企業の中に飛び込んでみたい企業は、参加する中で可能性を探ることができるだろう。

AMアトリエの中身

AMアトリエは展示スペース、打ち合わせスペース、造形スペース、後処理スペースの4つの区画にわかれた施設だ。展示、打ち合わせスペースで学んだことを造形スペースや後処理スペースで実践する。コロナの影響もあり、事前の座学はオンラインミーティングが主体になったということだが、今後はリアルな場での交流も行っていくという。

AM アトリエの建物の平面図

実際に配備されているのは先ほどふれたようにPBF方式の金属3Dプリンターが2台だ。

AMアトリエ内の工房。金属3Dプリンターが並ぶ。
Addup社製の金属3Dプリンター。造形室内は万全の安全対策を誇る。

材料となる金属粉末は非常に細かい粒度で、人が誤って吸い込むと健康被害につながる、また粉塵爆発の危険性も伴う取り扱いには注意が必要な材料だ。ミシュランのAMアトリエでは、金属粉末を扱うための防塵防爆対策として、造形スペースは気圧を下げ、粉塵の流出を予防するほか、床面には静電気対策も施されている。また安全教育を受けた技術者だけが、造形スペースに立ち入ることができ、その際も防爆服を着用の上、エアシャワーを利用するなど徹底した管理を行っている。

減圧処理を持つ空調系と静電気対策床など万全の安全・環境対策が施された造形室。入室時は防護服を着用しエアシャワーを通る。

「装置自体でも安全対策を万全に行っていますが、利用者の健康被害や環境への影響が起こらないように施設自体でも対策を行っています。」(ミシュランタイヤ説明員)

こうして造形エリアで加工された造形品は、ベースプレートと呼ばれる台座に溶着しているため、放電ワイヤーなどの機材でカットし、サポート材の除去や表面の研磨などの処理をおこなって完成となる。残念ながら当日は非公開のエリアという位置付けだった。

造形だけではない。全体像をカバーするAMアトリエ。実際に造形に携わるミシュラン社員が説明員として後処理の重要性を解説。

なにをAMで取り組むべきか。どのように設計し、造形するべきか。どのように後処理をおこない製品として使える水準に仕上げるべきか。

理論だけではなく実践も行う場としてAMアトリエが開所されるわけだが、ミシュランがいままで実践してきた内容をもとに、日本の製造業の一翼を担ってきた部品加工メーカーが新しいアプリケーションをどう生み出していくのか今後も見守っていきたい。

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シェアラボ編集部 | + posts

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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