大成建設、3Dプリンティング技術を用いた耐震補強の実証実験を公開
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大成建設株式会社(東京都新宿区、以下、大成建設)は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(以下、SIP)第3期「スマートインフラマネジメントシステムの構築」の一環として、サブ課題B「先進的なインフラメンテナンスサイクルの構築」に取り組んでいる。本プロジェクトでは、東京大学の石田哲也教授を研究開発責任者とし、3Dプリンティング技術を活用した柱の耐震補強技術の研究を進めている。2025年1月30日、この技術の有効性を実証するため、3Dプリンティング技術を用いて耐震補強を施した既設柱の交番載荷実験を公開した。本技術の開発により、既設柱の耐震補強工法のさらなる進化が期待される。(上部画像は公開実験の実施状況。出典:大成建設)
目次
3Dプリンティングを活用した耐震補強技術
大成建設は、SIPの枠組みの中で、3Dプリンティング技術を活用した柱の靭性向上に向けた研究を行ってきた。従来の新設柱の構築においては、あらかじめ配置された鉄筋を避けながら、3Dプリンティングによって柱の外殻を形成する積層工法を開発しているが、今回の実験では、既設柱の外側に3Dプリンティング技術を用いて補強外殻を構築し、その間に高流動コンクリートを打設することで巻き立て耐震補強を実施した。
特に、外殻構築時には短繊維補強モルタルを用い、巻き立て部に配置する補強筋を回避することで、施工の柔軟性を向上させた。この外殻は高強度であり、コンクリート打設時に発生する圧力を受け止めるため、外部支保工を不要とし、耐震補強作業の効率化に寄与する。また、巻き立て補強筋として、同じくSIPのサブ課題Bにおいて開発されたバサルトFRTPロッドを採用した。これにより、鉄筋コンクリート柱に比べて耐震性能が大幅に向上することが確認された。この成果は、耐震補強工法の省力化・高強度化・高耐久化の実現に大きく貢献するものである。
バサルトFRTPロッド(Basalt Fiber Reinforced Thermoplastic Rod)とは
バサルト繊維(玄武岩繊維)を強化材とし、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複合材料のロッド(棒材)である。バサルト繊維は高強度・耐熱性・耐腐食性に優れ、軽量で環境負荷が低い特性を持つ。これにより、鉄筋コンクリートの代替材料として、インフラ補強や耐震補強に活用されている。施工の効率化や構造物の長寿命化にも貢献する新素材である。
世界初の技術としての意義
3Dプリンティング技術とバサルトFRTPの組み合わせによる巻き立て耐震補強柱の性能確認実験は、世界で初めての試みである。本実験には、SIPを提唱する内閣府や、研究推進法人である国立研究開発法人土木研究所、プログラムディレクターをはじめとするマネジメント関係者、サブ課題Bの開発関係者など約30名が参加した。
東北大学大学院の久田真教授(SIPプログラムディレクター)は、以下のように述べた。
「この技術は世界に誇れるものであり、今後さらにイノベーションを加速させるためには、国際的な標準化や共通ルールの策定が重要である」
技術の発展とともに、その社会実装に向けた国際的な枠組みの整備も求められる。
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今後の展望
大成建設は、SIPでの各機関との連携を深めながら、3Dプリンティング技術を活用した柱の靭性向上技術の確立を進めていく。また、性能・品質評価手法の確立や、技術パッケージとしての展開を視野に入れ、社会実装に向けた取り組みを加速させる。この技術が実用化されることで、インフラの維持管理におけるコスト削減や、耐震補強工事の生産性向上が期待される。持続可能なインフラマネジメントシステムの構築に向け、引き続き研究開発を推進していく考えである。
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