NASA月面着陸船のロケットエンジンをEOS社3Dプリンターで製造
NASAが計画する「アルテミス計画」の一環として2022年に実行される商業月面ペイロードサービス(CLPS)プログラムで使用される月面着陸船のロケットエンジンの技術開発を行っているMasten Space Systems社は、今回新たに軽量かつ強度が高い「Broadswordエンジン」を開発した。このロケットエンジンは、Elementum3D社が開発した軽量なアルミニウム合金素材が使用し、EOS社の3DプリンターM400で開発・製造された。
今回はBroadswordエンジンの開発背景や、3Dプリンターを用いることでいかにNASAの要望に応えたかをご紹介する。
目次
Broadswordエンジンの開発背景
Masten Space Systems社は2004年開業以来、600回以上の月面への飛行実績を持るベンチャー企業である。NASAは、商業月面ペイロードサービス(CLPS)プログラムで使用する月面着陸船の開発企業を、このMasten Space Systems社に決定したことを昨年2020年4月に発表した。
CLPSプログラムは、「アルテミス計画」の一環としてNASAが民間企業の開発をサポートし、2024年の有人月面着陸に先立ち必要な貨物を月面に送り込むプロジェクトである。アルテミス計画の目的は月面に人を送るだけではなく、月とその周囲に長期にわたり人間を滞在させることで、火星の探査ミッションの準備を行う目的も含まれる長期的計画である。
Masten Space Systems社は、打ち上げ間の遅延をほとんど伴わずに、月への繰り返しの離着陸を可能とするNASAの要望を実現するために、軽量で再利用可能なロケットエンジン「Broadsword(ブロードソード)」を開発した。2022年の貨物輸送のための月面飛行に、今回の「Broadswordエンジン」の開発技術が活用される予定とのこと。
Masten Space Systems社は、このロケットエンジンを製造する方法として積層造形に取り組んでおり、今回Elementum3D社により開発されたアルミニウム合金の材料を採用し、EOS社の3DプリンターでBroadswordエンジンの燃焼室を製造した。
数百部品をわずか3部品に統合
今回のロケットエンジン「Broadswordエンジン」の製造では、3Dプリンターのメリットが最大限生かされている。
まずひとつは、複雑な造形も実現できる自由度の高さだ。ロケットエンジンは燃料室とノズルがあり、燃焼室で燃やしたガスをノズルで噴射する。高温になる熱量を冷却する構造も含まれるため内部流路は複雑な造形で構成されている。従来の製造方法では数百にわたる部品を組み合わせて作られていたが、今回、3Dプリンターを用いることで、わずか3部品に統合し、複雑な構造を作り出すことが可能となった。
また、3Dプリンターで造形することにより開発期間を大幅に削減した。従来の製造方法は、鍛造素材と呼ばれる金属の塊から必要な形状に削り出すか、鋳造といって溶かした金属を鋳型に流し込んで特定の形状に冷やして固めるといった二つの方法が主流で、事前準備から製造工程までかなりの時間が必要だった。しかし、3Dプリンターで造形することで無駄な材料の削減、作業工程を短縮することにより、開発期間を大幅に削減することが可能となった。
さらに、複雑な造形も3Dプリンターで製作されたため強度も十分に確保され、メンテナンスなしで10回分の飛行が可能とのこと。ロケットエンジンは使い捨てのケースが多く、毎回メンテナンスを必要としていたが、「Broadswordエンジン」ではその作業が必要なくなる。これは作業時間の削減だけではなく、信頼性の確保としても重要である。
耐熱性のあるアルミニウムを使用した画期的なロケットエンジン
Broadswordエンジンで使用する材料は、Elementum3D社によるアルミニウム合金を使用。一般的にロケットエンジンには耐熱性に優れたインコネルやニッケル合金を使用されるが、今回はElementum3D社の技術を活用し、セラミックの粉末を合わせることで熱に耐えうるアルミニウム合金を使用できるようになった。特殊な技術力についての詳細は、Elementum3D公式サイトにてデータシートを公開している。
今回このアルミニウム合金材料にこだわった理由は、ロケットエンジンに重要な軽量化を実現するためだ。アルミニウム合金、は軽量かつ強度にも優れているめ。今回繰り返し利用するロケットエンジンにとって最適な材料である。
ロケットエンジンに採用された耐熱性のアルミニウム合金は宇宙領域だけでなく、さまざま業界での活用が想定されており、3Dプリンターでの製造の可能性は大きく広がるだろう。
Elementum3社Dとは
銅合金や純銅、アルミ合金等の素材を扱うアメリカの金属粉末材料メーカー。EOS社の3DプリンターのM290やM400など活用し、顧客のニーズ・悩みに合わせた材料の開発・提供を行っている。また、EOSグループのAM専門VC(ベンチャーキャピタル)AM Venturesのポートフォリオの1社でもある。
EOS社とは
インダストリアル3Dプリンティング分野において世界をリードする技術サプライヤーで。EOS社は1989年に設立された独立系企業で、AMの包括的なソリューションの提供をする、この分野での先駆者であり革新者である。
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3Dプリンターの繊細で創造性豊かなところに惹かれます。そんな3Dプリンターの可能性や魅力を少しでも多くの人に伝えられるような執筆を心がけています。