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国産量産車にAM製造品を正式採用されたSOLIZEの強さの秘密

務台氏とMJF機

SOLIZE(ソライズ)株式会社は1990年の創業から3Dプリンターの活用に取り組み30年以上の実績を持つ、3D設計や解析にも強みを持つデジタルエンジニアリング企業だ。客先での設計支援、持ち帰りでの設計請負などを通じて自動車業界をはじめとした製造業の設計業務を支援してきた。 そんなSOLIZEは2023年9月7日にトヨタ自動車の高級車ブランドであるレクサスの量産車両で樹脂3Dプリント部品が採用されたと発表した。

安全性と生産効率では世界屈指の水準を持つトヨタグループでの採用実績は今後の日本のAM活用に大きく影響を与えるに違いない。またそうした感度の高い先進ユーザーを多く抱えるであろうSOLIZEはどんな体制や思想でAMに取り組んでいるのだろうか。実際にSOLIZEでAM(アディティブマニュファクチャリング)事業に関わる沼田 信太郎 氏、務台 光平 氏に話を伺った。(写真: SOLIZE工場内でHP社の HP Jet Fusion 機を説明する務台氏)

1990年から取り組む3Dプリンター事業。3D設計、シミュレーションにも強み

沼田氏:弊社は自動車業界などを対象に、設計支援、設計人材の派遣、受託設計、受託製造、装置販売、設備保守などを行っています。AMに関していえば、創業当初の1990年からAM事業に取り組んできました。現在連結で社員が約1800人程度いる中で、AMに関係するメンバーは150人ほどいます。

シェアラボ編集部:想像よりも多くの方々が関わっていたので驚いています。顧客の手応えはいかがですか?どんな方がどんなご相談をされているんでしょうか。最近はAMでの最終部品生産のお話が増えていますか。

沼田氏:はい、増えています。これまでは3Dプリンターを試作に活用したいというのご相談がほとんどでしたが、近年は治具や最終部品の製造に関するご相談も増えてきました。特にAMの最終製品適用の関心度は高まっていると思います。最終製品適用の取引実績はここ数年で10倍程度に増えてきました。

シェアラボ編集部:10倍ですか!やはりAMの最終製品適用への関心度が高まっているんですね。トヨタ自動車さんのレクサスへの最終部品納入が決まったということで、さらにこの勢いが伸びそうですね。そのあたりは別記事でもご紹介を予定していますので、この取材では、トヨタさんのような安全性や信頼性に対する世界レベルの配慮をする企業へAM品を納入するSOLIZEさんがどんな会社さんか、どんな取り組みをしていらっしゃるのかを伺っていこうと思います。相談される材料は樹脂が多いですか、金属が多いですか。

この数年で顧客が10倍に。市場の広がりを語る沼田氏
この数年で顧客が10倍に。市場の広がりを語るSOLIZE 沼田氏

沼田氏:ご相談は両方いただきますが、一定以上の数量を作りたいというご相談は樹脂部品の方が多い印象です。弊社では3D Systems社の装置を主体に装置を導入していますが、2018年以降はHP Jet Fusionの導入を進めてまいりました。この装置は、物性や生産性も含めて、樹脂の最終製品製造への適用の可能性があると感じ、検討・取り組みを開始しました。

試作と最終部品の大きな違いは「常識」

シェアラボ編集部:この5年で大きく状況が動いたんですね。試作と治具や最終部品は何が一番変わるんでしょうか。

務台氏:一番大きいのは試作と量産では考え方や常識が全く違う点です。話している言葉の目線合わせから必要になってきます。試作品は毎回違う形状のものを短時間で早く作るという取り組みですが、量産品は毎回同じ部品を事前に取り決めをした条件内で定期的に納品し続ける取り組みです。重要視する項目や取り組みをする期間も違いますし、お客様が重要に思っているポイントも違います。

3DシステムズのFigure 4 Modular。最終部品を意識した材料ラインナップと複数台同時稼働がシステム化されている。
3DシステムズのFigure 4 Modular。最終部品を意識した材料ラインナップと複数台同時稼働がシステム化されている。

シェアラボ編集部:一概に言えないとも思うのですが、一定以上の数量の量産を考えているユーザー企業は工場見学されますよね。どんな観点でSOLIZEさんの工場を視察されているんでしょうか?

務台氏まちまちのようです。実際のところ、発注する企業さんも何を視察すればよいかわからない、という事も多いんです。生産能力や品質を確かめるために工程を見に来るわけですが、何が品質に影響を与える工程なのか、初めてなのでわからないというところからスタートします。

シェアラボ編集部:何をどこまで見れば必要十分か、合意形成するのが難しいですよね。そのあたりも初めてのケースでは難しいでしょうが、取り組みを続ける中でちょうどよい水準を見つけていく必要があるんでしょうか。

務台氏企業によって求める水準が大きく異なります。最終部品を生産する際には、何を材料に使うかを検討するとこから始まりますが、材料評価をどの程度やるかは、その企業の今までの取り組み方によって変わってきます。スタートアップ企業や中小企業の自社製品開発の場合は、その基準にある程度の自由度があるので、スピード感やコストを意識しながら作っていくことになりますし、人の命にかかわるような分野の部品製造を行う場合は、材料の評価から徹底的に行うことになります。

シェアラボ編集部:その最たる例がレクサスの事例だと思うのですが、SOLIZEさんがトヨタ自動車さんを取材した事例記事はとてもわかりやすかったので私たちも勉強させていただきました。

沼田氏:ありがとうございます。各社、評価や検証の取り組み方法は企業秘密ということもあるので、取り組んだ内容の詳細をそのままお伝えすることはできませんが、ご一緒させていただいた経験をもとにコンサルティングをさせていただくことは可能です。

最終部品を作りたいがやり方がわからない時の対応

シェアラボ編集部:内部で適切な仕様を出せない場合は、要件の整理だけしてご相談すればご提案いただけるということですね。

沼田氏:はい。こんな部品をこんな納期でほしい。予算をこれくらいで考えている、というお話をいただければ、現実的に対応できるかどうか一緒に検討させていただきます。たとえばメーカーが用意していない樹脂材料があった場合でも、「いまはこの材料を使っている、こんな材料特性をもった材料はないか」とご相談いただければ、対応材料がない場合、材料開発からもお手伝いできます。

シェアラボ編集部:「この材料がないからできない」とあきらめてしまう事もあるんじゃないかと思います。でも材料開発は、かなり大変な作業ですよね。

務台氏材料開発は、十分な体制がないと難しいかもしれません。パラメーターがオープンになっていない機種ではそもそも材料開発できません。例えばHP Jet Fusionでは、認定材料以外を投入すると造形自体ができません。またできる機種の場合でも、認定材料以外で造形するとメーカーの保守対象から外れるケースがあります。ただ我々SOLIZEはメーカー認定エンジニアが多数在籍しており自社で保守管理ができるので、材料開発にも取り組みやすい環境にあります。例えば、PP、PA6、SIS-200など自社でこれまで開発した実績があります。

ですが3Dプリンターは魔法の箱ではありません。製造したい部品の3Dモデルデータや造形に利用する装置、パラメーターや材料など複数の相関関係にあるものを管理し、最適化していく地道な取り組みが必要です。期間や相応のコストがかかります。本当に材料開発に取り組むべきか慎重に検討し、より難易度が低く応用範囲やメリットが大きい取り組みを先に行うべきという場合もあるでしょう。

シェアラボ編集部:いろいろなことが可能だけれど、コストや時間が必要になってくる。だからなにから手を付けるかを考えて取り組むのが重要ということですね。

沼田氏:そうなんです。最初から最適化された開発ロードマップをお持ちで、見通しが立っている企業さまはいないと思います。そこで当社ではAM技術支援の一環で部品選定やAMならではの設計を支援するサービスとして「3Dプリンティング技術導入支援」というサービスをご用意しています。AM技術でどの部品の製造に取り組むべきかの選定や、どのように製造すれば合理的にメリットを出せるかという取り組み方の策定も重要だからです。

「材料は自由度が効く装置で開発し生産機で最終調整します。」(務台氏)
「材料は自由度が効く装置で開発し生産機で最終調整します。」(SOLIZE 務台氏)

シェアラボ編集部:自社で経験がないとロードマップ策定は難しいと思います。試作用の装置は触っているけれど、最終部品製造できるような高級機は手軽に触れないので、実現できるかも手探りな方は多いんじゃないでしょうか。だからまず作ってみたいという方もいるでしょうね。

沼田氏:もちろん当社でラインアップしている材料で条件を満たせれば、お手元の3Dモデルを造形依頼いただくだけで生産できます。トライアルでまずは1個2個作ってみたいということであれば、オンラインで完結するサービスもご用意していまして、スタートアップ企業や個人の方のご依頼も受け付けています。

シェアラボ編集部:それはちょっと意外です。大手企業の仕事しか受けていないのかと思っていました。

沼田氏:いえいえ、企業規模に関係なく、スタートアップ企業のお仕事もお手伝いしています。公開できる事例は多くはありませんが最終部品の製造をお手伝いしていますよ。スタートアップ企業の方は開発のスピード感と造形品質を重視しています。HP Jet Fusionで対応させていただくことが多いですね。

シェアラボ編集部:発注する側は、装置によって対応材料も造形時間、仕上がりなども変わってくるので、いろいろ悩むと思います。でも経験がないからわからない。そんな時は実際にデータをお渡しして作ったものを見たほうが、判断が早くなる場合もありそうですね。

沼田氏:そうですね。データと併せて、想定してる用途や見た目、質感など最終的なゴールを共有いただければこちらから造形方法や材料選定のご提案をします。そういったご相談は大歓迎です。

装置メーカーが純正オプションで提供しない搬送装置を企画製作。「運用の中で必要なものは作ります」(務台氏)
装置メーカーが純正オプションで提供しない搬送装置を企画製作。「運用の中で必要なものは作ります」(SOLIZE 務台氏)

シェアラボ編集部:3Dプリンターは汎用的な加工装置ですが、それだけに従来工法で作った方がメリットがあるケースも多いと思います。3Dプリンターは量産効果も限定的で考慮するべき点も多いはずです。なぜ多くの企業が3Dプリンターに取り組んでいるのでしょうか?

沼田氏:スタートアップ企業の場合は、3Dプリンターでのモノづくりが現実的だから選択されています。数万個も生産しないが、金型で作った部品と同じような強度や品質がほしい。そんな時に現実的なコスト感で部品を調達できるから選択していると思います。一方で、特に大企業のお客様は、少量のものづくりが必要になってくるときに備え3Dプリンターでの生産を手の内化しておきたいという考えがあると思います。すぐに切り替えようと思っても難しいことをよくご存じなんですね。だからゆとりをもって自社の基準で技術や装置を使いこなしておく。工法の特徴を理解した上で、どのように活用するかを選ぶことができる状況を作っておくというお考えだと理解しています。

シェアラボ編集部:金型保管を協力工場に頼めなくなったり、協力工場が倒産してしまうリスクが現実のものとなってきました。中国から部品が入らなくなったり、グローバルなサプライチェーンも見直さなくてはいけなくなったりと状況は動いていますから、そうしたリスクへの備えという意味もあるんでしょうか。

沼田氏:そうした観点もありますね。型保管やメンテナンス、サプライチェーン面でのリスクなど、AMの活用で改善出来る可能性のあることはたくさんあります。いきなり大掛かりな取り組みを検討するのは大変ですから、小さな取り組みから始めるのがお勧めです。

シェアラボ編集部:また自動車業界の例で恐縮ですが、今回のような現行の量産車両に取り組む前に、自動車OEM各社が廃番になった過去の名車の補給部品をAM製造で取り組んだのは良い事例かもしれませんね。

汎用装置での試作と汎用装置での量産はノウハウが違う

今回の取材で大きく印象に残ったのは、試作と量産はノウハウが違うという点だ。世間的には、レンジでチンするように部品ができるハコモノ装置というイメージがある3Dプリンターだが、製造現場に設置されている装置は生産装置であり、生産プロセスの中にある一工程を担当するだけに過ぎない。非常に汎用性が高い装置だからこそ、使い手に多くのスキルを要求する側面もある。

2018年のHP Jet Fusion機の登場を契機に、SOLIZEが過ごした過去5年は試作のプロフェッショナルが、複数の国内企業とともにAMでの量産工程を整備する過程だったのかもしれない。その試行錯誤を経て蓄積された経験とノウハウこそが、SOLIZEの強さの秘密だろう。制約も多い中ではあるが、装置も取り組み方も高度化する中で、活用用途の拡大に取り組む企業はますます増えそうだ。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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