【世界初】ハイスペックディスプレイに活用されるOLEDが3Dプリンターで製造
ミネソタ大学Ruitao Su博士らの “3D-printed flexible organic light-emitting diode displays（3Dプリントで作製された柔軟な有機発光ダイオードディスプレイ）” と題する論文が Science Advances誌で報告された。スピンコート法や真空蒸着を用いず、3Dプリンターの機能のみで作られた有機発光ダイオードディスプレイは世界初。同一基板上に作られた8×8の素子は全て良好に動作し、高い歩留まりを示した。
開発された「OLED」とは
「OLED」とは「Organic Light Emitting Diode」の略で、発光材料に有機物質（Organic）を使った「LED（発光ダイオード）」という意味で有機ELとも呼ばれる。発光ダイオードとは、電気を光に変換する素子であり、信号や室内照明など、あらゆる光源に用いられている。
OLEDを用いたディスプレイは色彩のコントラストに優れ、広い視野角を有する（画面を横から見ても鮮明に見える）。このため、近年ではスマホや 4Kモニターなど、ハイスペックなディスプレイにOLEDが用いられることが多い。加えて、柔軟であるため、曲面ディスプレイやフレキシブル（折り曲げできる）ディスプレイへの応用が期待される。
OLEDは塗布印刷プロセスで生産できるため、潜在的には低コスト化が可能だ。しかし、現状では部分的に真空蒸着などの高コストなプロセスが必要で、完全に塗布印刷プロセスのみで製造しているわけではないため、OLEDディスプレイの値段は高い。
OLEDが現行の液晶ディスプレイに取って代わるためには、完全に『印刷プロセスのみ』で作製する必要がある。
こうした背景のもと、ミネソタ大学の研究グループは、OLEDディスプレイを実用化へと大きく前進させる結果を発表した。Ruitao Su博士らが発表した “3D-printed flexible organic light-emitting diode displays（3Dプリントで作製された柔軟な有機発光ダイオードディスプレイ）” という論文によれば、実験室レベルではあるものの、OLED作製の全工程を印刷プロセスのみで遂行し、8×8の全ての素子で良好な発光特性が得られている。
ミネソタ大学はYoutube上で OLED作製プロセスや動作デモンストレーションの様子を公開している。
製造難易度が高いOLEDディスプレイで3Dプリンターを活用した理由
動画を見ても分かる通り、OLED は様々な層を積み重ねて作られる。塗布印刷プロセスで OLED を作ることの難しさは、塗り重ねるインクによって下層を浸食してしまうことだ。
適切な材料、インク溶媒、プロセスを選択しなければ、上層を塗り重ねる際に下層が溶けてなくなるため、ダイオードとして機能しない。Su博士は論文中で「均一な発光層を作るために工夫が必要であった」ことを述べている。
この問題を解決したのが、多モード（機能）を使い分けた3Dプリントだ。Su博士は 3Dプリンターの 3つの機能を使い分け、6つの層を巧みに積み重ねていった。
発光層（第3層）以外の 5つの層を形成したのはextrusion-3Dprinting、いわゆる押出成形である。粘度の高いペーストを平面状に塗り広げる。
発光層は、全ての層の中で特に薄く、均一であることが求められる層であり、ここではスプレー印刷が用いられている。スプレー印刷用のノズルは数十µmの微細な液滴を吐出できるよう工夫した。スプレー印刷で形成した発光層は、高い動作安定性に寄与している。
第5層の正孔注入層は押出成形したのち、ノズルで機械的圧力を加えた。形を整えることで、電流を流れやすくしている。これもノズルを自由に動かせる 3Dプリンターならではのプロセスだ。
今回の報告により、3DプリンターのみでOLEDが作製できることが示され、長年の課題であった製造コスト問題に解決の目途が立った。OLEDディスプレイの今後の躍進に期待が集まる。
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