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和牛ステーキを3Dプリンターで完全再現!SDGsに貢献する培養肉の進化

大阪大学が、培養した牛肉の筋繊維と脂肪、血管を線維組織ファイバーとして細長く作り、和牛肉の組織構造を基にそれらを束ねて、3Dプリンターで和牛のステーキ肉を作ることに成功したことを発表した。(写真はイメージ/出典:pixabay)

これまで、ShareLab NEWS編集部がご紹介した3Dプリンターで作ったケンタッキーのチキンのように、培養肉のほとんどは筋肉繊維のみでミンチ肉のような構造であり、肉の複雑な組織構造を再現することは難しかった。

そこで、松崎教授らの研究グループは、3Dプリンター技術を活用した「3Dプリント金太郎飴技術」を開発し、複雑な肉の構造を再現することに成功した。

研究目的

2050年には世界の人口が97億人を超えると予想されており、それに伴う食糧需要の増加や気候変動の影響から、十分な食糧の供給ができなくなる可能性があると言われている。そのため研究者たちは、世界がいわゆる「タンパク質の危機」に直面する可能性があると考え、代替タンパク質源として植物性タンパク質や培養肉に注目しています。

培養肉の研究は以前から行われていたが、前述したように、今まで培養肉のほとんどがミンチ肉のような構造再現にとどまっていた。その培養肉製造技術のさまざまな限界を解決するために、個々の肉の構造、質感、特性を真に再現した複雑な肉構造を作り出すことを目的に開発。

今回の研究は、世界的な食糧需要の増加に対応するだけでなく、気候変動、森林破壊、オゾン層破壊などの要因による影響を緩和するのにも役立つと考えられている。

研究しているのは、大阪大学 大学院工学研究科の松崎通也教授を筆頭とした研究員や学生。そのほか、凸版印刷や日本ハム、リコーといった企業の研究部門の関係者が研究開発に関わっている。

松崎通也教授は今回の研究成果について、以下のようにコメントしている。

本研究の技術は、世界的に有名な日本の和牛に見られる複雑で美しい大理石の構造を再現するために開発されました。培養した和牛ステーキ肉が日本の新しい産業になることを期待しています。

大阪大学の松崎通也教授

3Dプリント金太郎飴技術とは

筋・脂肪・血管という異なる線維組織を3Dプリンターで作製し、それを金太郎飴のように結合して肉の複雑な構造を再現する。その技術が「3Dプリント金太郎飴技術」である。

この技術により、和牛特有の霜降り構造を本物の肉のように再現できた。

3Dプリント金太郎飴技術による和牛培養ステーキ肉の作製方法を示した図
3Dプリント金太郎飴技術による和牛培養ステーキ肉の作製(出典:大阪大学)

金太郎飴技術は、TIP(Tendon-gel-Integrated Bioprinting)といい、3Dバイオプリンティングを用いて腱のようなゲルを開発し、これを組み立てることで、長さ10mm、幅5mmのステーキのような肉の構造体を作っていく。

市販の和牛を正確に再現するため、見た目にもこだわって作製されている。研究チームは和牛のカット断面画像を撮影し、必要な筋肉、脂肪、毛細血管の細胞繊維の数と、その配置を示すモデルパターンを作成。和牛の構造体は、42本の筋肉繊維、28本の脂肪組織、2本の毛細血管を含む、合計72本の3Dプリントされたウシの細胞繊維から構成されている。

この技術のポイントについて、松崎教授は以下のようにコメントしている

3Dプリント技術を用いて、筋肉や脂肪、血管などの組織を安定的に作製するためには、分化誘導時に生じる収縮を抑制することが重要でした。研究チームは腱が筋肉を支えていることに着目し、腱の主成分であるI型コラーゲンを用いて人工腱組織を作製。そして、この人工腱組織にそれぞれの繊維状組織を貼り付けることで、生産用の繊維状組織を安定して作れるようになりました。

松崎通也教授 コメント抜粋

今後考えられる3Dプリンター製培養肉製品の貢献

進化する3Dプリント技術は、培養肉製品の商業生産にも役立つようになってきている。

例えば、3Dプリント食品のスタートアップ企業である Redefine Meat 社は、最近、イスラエルの一部のレストランやホテルで、3Dプリントされた「ニューミート」製品の最初のシリーズを発売。

一方、同じく食品印刷関連のスタートアップ企業である SavorEat 社は、世界的なホスピタリティ企業であるSodexo社と提携し、3Dプリント技術「Robot Chef」と最初の「アルトミート」製品を来年、米国の大学で試験的に導入します。

また、食品技術企業の MeaTech 社は、昨年、培養脂肪製品を開発している Peace of Meat 社を買収したことで得られた技術を用いて、2022年中に鶏脂肪の生産に参入する計画を発表した。

SDGsにも貢献できる可能性に期待

さらに、今回の技術をさらに改良することで、和牛の美しい“サシ”などさらに複雑な肉の構造の再現や、脂肪や筋成分量の制御による微妙な味・食感の調節も可能だという。また、3Dプリント以外の筋・脂肪・血管細胞の培養プロセスも含めた自動装置を開発できれば、場所を問わずどこでも培養肉の作製が可能となる。

それにより、国連の持続可能な開発目標(SDGs)である「環境保全」や「食糧危機の解決」に貢献できる。畜産に必要な穀物を生産するための森林伐採による環境破壊や、家畜自体や飼育工程から排出される温室効果ガスを抑え、地球温暖化の進行を防ぐことができる可能性がある。

また、培養肉を必要なときに必要な場所で生産すれば、食肉用の牛を育てるよりもはるかに短時間で生産できるため、省エネ効果も期待できるなど、改良研究による培養肉産業の可能性の広がりは今後も注目だ。

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シェアラボ編集部

3Dプリンターの繊細で創造性豊かなところに惹かれます。そんな3Dプリンターの可能性や魅力を少しでも多くの人に伝えられるような執筆を心がけています。

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