【3Dプリンター導入①】機種の検討・選定時のポイント
3Dプリンターを導入しようと考える理由はいくつもあります。「開発サイクルを早くしたい」「今までにない新しいものを作りたい」「外注コストを下げたい」。なかには「他が導入を進めているから、乗り遅れないように」という理由もあるでしょう。
しかし、いざ導入しようとなると、分からないことが多く出てきます。どのような造形方法、どの機種がいいのか? メーカーには何を伝えたらいいのか? 設置のために必要な設備や工事、手続きはどうすればいいのか? 導入して継続的に運用する健全な方法は?などなど。
ここでは3Dプリンターを導入するにあたり、導入前~導入後までの過程で気になるポイントを解説します。
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導入前のポイント
- 3Dプリンターで何をつくりたいか、何をやりたいのかを明確に
- 3Dプリンター導入によるメリット、デメリットをよく考える
- 作りたいものがどの造形方式でできるかを考える
- 導入にかかる別の費用や、ランニングコストなども含めて造形方式と機種を検討
- どのようなメーカー/代理店から導入するかを検討
- 関係部署間で内部調整し、導入時から導入後までの計画を綿密にたてる
機種の検討・選定時のポイント
3Dプリンターで何をやりたいのか
3Dプリンター導入に際して、まず決めておかねばならないのが 3Dプリンターで何がやりたいのか です。「3Dプリンターで何を作りたいのか」とも言い換えられます。
目的が明確だと、導入する業務用3Dプリンターの機種は自ずと決まってきますが、そうじゃない場合——「何を作るかは決まっていないけど、まずは導入して使いまわしてみよう」という動機があります。こちらだと、運用までのフローを考えたときにベストな機種が選べるかどうかは難しくなります。
予算面やスケジュールに余裕があり、「まずは安価な3Dプリンターを導入して、使ってみるところから始めよう」と取り組める企業・組織なら良いかもしれませんが、3Dプリンター導入の主な動機にはコスト削減も含まれているので、運用まで見据えたうえで初手の段階から最適解を導き出したいところ。そもそも、試作であっても最終製品であっても、3Dプリンターを導入することでどのようなメリットがあるのかを考えておかなければ、現状のままの方が良いという場合もあるため、無用なものを導入することがないようにという意味でも「何がやりたいか」は明確にしておきましょう。
造形方式の選定
やりたいこと、作りたいものが決まれば、次に決めねばならないのが造形方式です。ここの選び方次第で使える材料や造形精度、造形強度が変わってきます。何よりやりたいこと・作りたいものが決まっていれば、自ずと最適な造形方式が導き出されるのです。
造形方式の種類
3Dプリンターの造形方式は何十種類にも及びますが、大きくカテゴライズすると以下の7つから成ります。
- 材料押出方式/MEX(Material Extrusion)
- 材料噴射方式/MJT(Material Jetting)
- 粉末床溶融結合法/PBF(power bed fusion)
- 液槽光重合/VPP(Vat Photopolymerization)
- 結合剤噴射/BJT(Binder Jetting)
- 指向性エネルギー堆積/DED(Direct Energy Deposition)
- シート積層/SHL(Sheet Lamination)
樹脂を材料とする簡単な試作や、精度がそれほど高くなくてもいい治具が作りたいのであれば、設置が楽で価格も比較的安い材料押出方式という選択が出てきます。最終製品にもなる金属を使った部品などを作りたいのであれば、粉末床溶融結合法を用いると良いでしょう。滑らかな造形面が必要であるならば液槽光重合が向いており、フルカラーでの製品を作りたいというのであれば材料噴射方式があります。それぞれの造形方式の特徴をよく理解して、作りたいものに最適な造形方式を選択することが重要です。
≫3Dプリンターの造形方式について詳しく知る
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設置環境の確認
造形方式によっては空調や材料保管庫などの付帯設備が必要なものもあるので、それらも含めて導入が可能であるのかを検討する必要があります。
例えば、粉末床溶融結合法ならば粉末が飛散しないようにするための排気装置や、使用後の粉末をリサイクルする装置、材料粉末の保管庫などが必要になります。さらに導入する場所の確保と排気設備の工事、防火管理などの申請も必要です。液槽光重合ならば、空調の他に洗浄するための水設備を用意せねばなりません。
設置するための必要な環境を整えられないと、その造形方式が採用できないことになるので、事前確認は必ずしましょう。
ランニングコスト
造形方式ごとに異なるランニングコストについても考えておきましょう。粉末床溶融結合法のように、余った粉末材料は再利用可能なので、トータルで見るとコストが安価に抑えられるメリットも。材料押出方式と異なりサポート材も不要なので、使用する材料も少なく済みます。
このように、造形方式ごとの特徴や設置環境によって運用時の費用が大きく変わってくるので、「どうしても作りたいものがあるけど、コスト面・環境面から見ると難しい」「当初考えていた造形方式の導入は難しいが、別の造形方式なら導入可能で品質の面でも満足のいくものができる」「ランニングコストを鑑みると導入は見送った方がよさそう」といった判断に結び付けていっていただければと思います。
3Dプリンターの機種選定
造形方式が決まれば、次は機種の選定です。ひとくちに造形方式と言っても、機種の幅はローエンドからハイエンドまで各社ともさまざま。端的に言うと、ハイエンドの機種は性能に優れるが比例して価格も高くなりますし、ローエンドの機種だと造形サイズが限られるうえ、製造物の精度が落ちることも。
実際に導入した3Dプリンターを管轄するのが部署レベルか全社的なプロジェクトかによっても変わってきますが、大前提は 作りたいものを作れる機種を選ぶ とです。せっかく3Dプリンターを導入しても思っていたものが作れない、想定していたことができないとなると、プロジェクト面から見ても大きな損失になります。事前調査とテストは十分に行いましょう。
メーカー/代理店の選定
候補となる機種が絞られてきたら、次は その製品を取り扱っているメーカー/代理店への見積もり請求 です。多種多様なメーカーの機種を取り扱っているマルチベンダーの代理店であれば、複数の製品について一度で見積もりを取れるメリットがあります。またそれぞれの製品に関する情報も多く保有しているので、比較・検討するうえで相談しやすいですね。
導入候補となる機種の試用やプリントサンプルが入手できるかどうかも機種選びのポイントのひとつ。前述のマルチベンダーであれば製造物の比較ができるので、機種選定の決定打にもなります。またアフターフォローの内容も確認しておきたいですね。
内部調整
3Dプリンター導入に際して 取り組んでおいた方がいいのが導入時の計画と導入後の運用を見据えた内部調整です。
装置の大きさがオフィスデスクに載る程度で、部署内の人員数名で利用する範囲なら問題になりませんが、付帯装置が必要な大型機器を導入し、複数の部署での使用する場合は、部署間での役割分担をしておく必要があります。
- 導入までの段取りは誰が担うのか
- 導入後の運用における役割分担
- 何の目的で3Dプリンターを使うのか
このあたりのルールは最低限整えておく方が良いでしょう。こうした約束事がないまま導入すると、目的がブレたり使用時の責任の所在があいまいになるなど、効率的・効果的な3Dプリンターの活用が難しくなってしまいます。ルール設計の音頭を取るのも、導入担当者の役回りと言えます。
まとめ
3Dプリンター導入に際して何より大事なのは、3Dプリンターで何がやりたいのか を明確にすることです。ここを固めることで運用までの道筋を明確に描けるようになるので、目的の名言化にまず取り組みましょう。