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JIMTOF2022から見えてきた、工作機械が金型を変えモノづくりを変える近い未来~3Dプリンティング最新市場動向~

JIMTOF全景

2年に一度の工作機械の祭典、JIMTOF2022(第31回日本国際工作機械見本市)が閉幕した。累計14万人以上の参加者が集まった一大イベントから、工作機械メーカーがどのように3Dプリンティング技術をはじめとした付加製造に取り組んできたかを考えた。大きなポイントが4つ見えてきたが、中でも最も注目したいのでは、金型を通じてモノづくりが大きく変わる可能性だった。

14万人以上を動員したビッグイベントJIMTOF2022

工作機械の国際的な展示会JIMTOF(ジムトフ)が2022年、リアル開催としては4年ぶりに開催された。11月8日から13日の6日間で、合計114,158名の来場があった。(延べ人数でいうと141,948名の参加があった。)

JIMTOF2022の来場者数(JIMTOF公式サイト発表)
JIMTOF2022の来場者数(JIMTOF公式サイト発表より)

工作機械や工場設備の周辺をテーマにした展示会なので、来場者はメディアを別にすればすべて製造の現場に近い人たちであったわけだが、多くの企業は代表として1、2名が調査にきていた様子がうかがえる。東京ビッグサイトの東棟、西棟、南棟をすべて借り切って開催されたJIMTOFだが、今年は3Dプリンター関連展示を専門に行うAMエリアが設けられ、南館が会場となった。

ポイント1:AM技術と工作機械の進化・・・PBF方式とDED方式

AMエリアは今年から新設されたコーナーで南館のワンフロアを借り切って開催された。3Dプリンターの専門展示会でよく見かける3Dプリンターの販売会社以外にも、やはり工作機械の展示会であるJIMTOFらしく工作機械メーカー各社が出展していた。

工作機械メーカーの展示ブースを見ると華やかで力の入れ具合を感じるが、ブースが大きく実機があるという以外にも、具体的な導入事例やユーザーサンプルが目立った点が特長といえるだろう。工作機械を買うような加工メーカーがAM機能を持った装置をすでに導入し、具体的な案件に活用している姿を各社が発表していた。

工作機械はツールヘッドを換装することでさまざまなタイプの加工に対応してきた。工作機械は3Dプリンティング技術も取り込み、切削工法と付加造形工法の両方に対応するハイブリッドで加工を行う機種が登場している。JIMTOFで確認できた限りでいうと、AM専用機の他には、DED方式+切削を行う機種と、PBF方式と切削に対応した機種が登場している。

DMG森精機|DEDとPBFの二方式に対応 

DMG森精機は、工作機械メーカーが並ぶ東棟とAM関連企業が並ぶ南棟の両方にブースを構えていた。切削加工をメインにしながらもAM機能を内蔵し金型補修やコーティングに対応できる「LASERTEC 3000 DED Hybrid 」は東棟に、PBF方式のレーザ⾦属積層造形機「LASERTEC 12 SLM」は南棟に展示があった。

賑わいを見せるDMG森精機のブース(南棟AMエリア)
賑わいを見せるDMG森精機のブース(南棟AMエリア)

LASERTEC 12SLMは、材料交換をモジュール式にしており、わずか2時間で違う金属材料と交換できるという触れ込みで汎用性をアピールしていた。パウダー材料の交換は非常に手間で、一つの材料の専用機になってしまう傾向にある中で、現実的な時間で交換が可能で複数の材料に対応できることは、運用の自由度を大きく向上させる可能性がある。

AMゾーンで実機の他に目を惹いたのは、ユーザー事例の紹介だ。

AeroEdgeの事例 | 航空機エンジンのTier1と直接取引する凄み

エアロエッジ社のパネル(DMG森精機ブースより)

AeroEdge(エアロエッジ)は、栃木県足利市に本拠を置く機械加工メーカーで、航空機エンジン製造大手のフランス企業(Safran Aircraft Engines社)から次世代航空機用エンジン「LEAP」に搭載されるチタンアルミ製タービンブレードの国内初の長期量産サプライヤーに選定されている。

「『加工だけ』のような単一工程では最早生き残っていけません。 航空業界のグローバルOEMがサプライヤーに求めるものは、単一工程だけでなく、材料から完成品までOne-Stopで取りまとめることができる力です。」(AeroEdge社サイトより)

非常に厳しい航空業界の業界規格に対応した上で、材料調達から製造、品質管理まで一貫して責任を持てる体制を築き上げてきたAeroEdge。2018年、2020年と第三者割り当て増資で28億円を集め積極的な設備投資を続けながら、高い期待値に応える実績を残している。Additive Manufacturing分野での取り組みにも精通し、DfAMやパラメーター開発にも取り組んでいる。(写真:DMG森精機のパネル展示を撮影)

ロボコム・アンド・エフエイコム | ロボット産業の水平化を支えるAM技術

ロボアンドエフエイコム社のパネル(DMG森精機ブースより)

自動車業界など、限られた業界だけにロボット活用がとどまっている現状を変えることを志す、ロボコム・アンド・エフエイコムは、2,000万円以上ともいわれるロボット導入のコストを大幅に下げるための水平分業の実現を目指し活動している福島の企業だ。工場自動化、ロボット導入、部品加工を柱に営業を行っているが、工程に最適化させる部品を造形したいというニーズを的確に実現するためにAMにも力を入れており、樹脂造形はHPのJetfusion5200、金属造形はDMGのLASERTEC 30 DUAL SLMと松浦機械製作所のLUMINEXを導入しているとのことだ。

ブラスト機の他に乾式電解研磨機や熱処理機も備え仕上げ加工にも対応するロボコム・アンド・エフエイコム。震災被害にあった南相馬市から最先端の自動化ソリューションをより安価に運用しやすい形で届けようとする同社の取り組みの中にAM技術も活用されているようだ。 (写真:DMG森精機のパネル展示を撮影)

DMG森精機のブースでは、AeroEdge社やロボコム・アンド・エフエイコム社の他にも、東金属産業、KOMINE工業、長岡技術大学への納入事例を紹介していた。機密保持が厳しい大企業は避けたという側面もあるかもしれないが、着実に今の最善手を考え抜き大きな投資を行って勝負している中小企業や研究機関という見方もできる。DMG森精機の今後の装置展開も気になるが、同社の装置を導入した各社の今後の活躍も注目していきたいと感じさせた良展示だった。(展示にはなかったがニコンの金属3Dプリンターである光加工機Lasermeisterの販売も行っている。)

ポイント2:AM技術を取り入れた工作機械が金型を変える

工作機械はマザーマシンと呼ばれるように生産に用いられる金型や装置の中核部品などモノづくりを行うための製造にも活用される。3Dプリンティング技術を取り入れた工作機械は、内部に冷却用流路を備えた金型を製造したり、金型では加工点が多すぎて加工時間が膨大になってしまう複雑な形状に対応できる。AM技術に対応する工作機械は金型を変える。金型が変わればモノづくりが変わる。JIMTOF2022の会場で見つけた工作機械の最先端をご紹介しよう。

ソディック|PBF方式+切削、金型造形で自由度を実現 

ワイヤー放電に強みを持つソディックだが、金属3Dプリンターにも力を入れている。中でも目を惹いたのは、金型を金属3Dプリンターで作るアプローチだ。金属積層を行い、切削を行い、金属積層を行う。このサイクルを何度も繰り返すことによって、精度の高い内部中空構造を持った造形物を完成させることができる。

実機展示のほかに、ワークも多数展示されていたソディックのブース
実機展示のほかに、ワークも多数展示されていたソディックのブース

金型を冷却できれば、生産性が上がり金型寿命も延びるためメリットがある。効果的に冷却するために、三次元での流路を金型内部に造形している。冷却用流路を着色しわかりやすく透明樹脂で造形した展示物と、実際に金型として造形された入れ子の展示がされていた。写真は精密機器から自動車、衛生・一般工業部品、医療関連部品、OA・電子・IT機器などを幅広く樹脂成形を手掛ける三光化成株式会社の金型見本。

冷却管のある金型(ソディックのブース展示より)
冷却管のある金型(ソディックのブース展示より)

工作機械の中に金属の付加造形ができる機能を備えたことで、造形、切削、造形、切削と工程を重ね、立体的な内部流路を持つ金型を自由自在に製造できる。成形の精度や生産性、材料の自由度を活かし、金型製作のリードタイムとコストを削減する取り組みが実現できるとモノづくりが大きく変わるだろう。

昆虫の模型とその金型(ソディックのブース展示より)

フィギュアの製造などを手掛ける株式会社エムアイシーの金型と実際に造形した昆虫のフィギュア。こうした多種多様な製品を作るための金型を迅速に造形するためにソディックの装置を使っているようだ。

松浦機械製作所|PBF方式+切削で多くの実績あり

松浦機械製作所の金属3DプリンターLUMEX Avance-25
松浦機械製作所の金属3DプリンターLUMEX Avance-25
松浦機械製作所の金属3DプリンターLUMEX Avance-25の説明

松浦機械製作所のLUMEXシリーズもPBF方式の金属3Dプリンターの内部に切削機能が内蔵された装置だ。金属粉末にレーザーを照射した後に切削加工を行い、その上に金属粉末の層を敷き、再度レーザーを照射するというサイクルを交互に行っていくことで、内部に水冷菅がある金型や細かいラティス構造を持っている部品でも精確に造形ができる。

さらに松浦機械では、内部流路を流体研磨することで面粗度を改善し、冷却性能と金型寿命を延ばす取り組みに関して、自ら検証した結果も報告している。ただ造形サンプルを置くだけではなく、多くの顧客との対話の中で出てきた課題感に一つ一つ答えてきた蓄積の凄みを感じさせる。

さらに展示ブースの外側で造形のプロセスを紹介し、展示ブースの内部でユーザー事例を紹介しているが、パネルとサンプルの数が多く、非常に情報量が多い。金属3Dプリンターの活用が着実に進んでいることを感じさせる展示となっている。

こうした密度の濃い展示パネルがここで紹介した以上にずらっと並んでおり、壮観だ。装置メーカーのサンプルワークももちろん参考になるのだが、実際のユーザー事例からは現場感を感じさせる導入効果が表現されている。

ポイント3:大型化する造形領域

4,5年前は大型造形を意味するワークサイズは300mmだった。そして現在、大型造形は1000mmを越える。樹脂材料でも金属材料でも大型化を望む声にこたえ、3Dプリンティング技術が造形できるワークサイズは拡大を続けている。

日本電産マシンツール|2m以上の金属部品も造形

日本電産マシンツールは、日本電産グループ傘下に三菱重工工作機械が参画し誕生した企業だ。装置としては、国家プロジェクトとして国産金属3Dプリンターを開発するTRAFAMの研究成果をもとに開発された、2m以上の金属造形が可能なDED方式の金属3Dプリンター「LAMDA」シリーズとマークフォージドに買収されたデジタルメタルのバインダージェット方式の3Dプリンター「DM」シリーズを扱っている。

日本電産マシンツールのブース
日本電産マシンツールのブース
さまざまな形状の造形サンプル
さまざまな形状の造形サンプル
2m近いという大型造形サンプル
2m近いという大型造形サンプル

桜井製作所|1mの造形が可能な大型樹脂3Dプリンター

桜井製作所は、1m角サイズを造形できる樹脂3DプリンターHERO1000と、500mmを造形できるHERO500をJIMTOFに出展した。国産3Dプリンターとしては、エス.ラボの樹脂3Dプリンターが3m以上の造形が可能であり、装置の造形できるワークサイズの幅は確実に広がってきたといえるだろう。

桜井製作所の大型樹脂3Dプリンター。造形領域は1000mmを誇る
桜井製作所の大型樹脂3Dプリンター。造形領域は1000mmを誇る

ポイント4:製造業の自動化に挑戦

芝浦機械|双腕ロボットによるワークの自動取り出しと後工程へのセット

芝浦機械は、オーダーがあればいつでも出荷できる状態まで開発が進んでいる自社開発の3Dプリンターを展示していた。展示の中では、日本の腕を持つロボットが自動で造形が完了したワークを取り出し、後加工装置にセットする実演が行われていた。3Dプリンターは製造現場のDXのツールでもあるというメッセージが伝わってくる展示だった。

芝浦機械
芝浦機械

工作機械の進化がモノづくりを変える

JIMTOF2022を通じて、工作機械のAM技術への取り組み(DED方式とPBF方式)、AM技術による金型の進化、ワークの大型化、自動化の4つのポイントがあることを見てきた。それぞれ論点があるが、今後のモノづくりに最も直接的な影響をもたらすのは、金型の進化だろう。

3Dプリンターの長所と短所のおさらい

試作や治具製作に使われてきた3Dプリンターだが、JIMTOFを通じて感じた最も大きなインパクトは、AM技術を取り込んだ工作機械が金型を変え、モノづくりを変えていく姿だった。

ご存じのように、3Dプリンターはラティス構造のような加工点の高い形状でも加工コストが変動しない。また切削工法が苦手な難削材の取り扱いに優れる。しかも切削の刃が入らないため加工が困難な部品内部に流路を設けるなどの設計意図を実現できる長所がある。一方で加工速度はゆっくりで、表面性に難点があり、異方性を持つ場合もある。

その為、非常に高価な材料を時間をかけてワンオフで作り上げるという航空宇宙医療分野で最終部品用途と、素早く形状確認するという試作用途で利用が進んできた。

今後は生産に関する治具や金型などの部品生産を直接行うわけではないが、大きく生産工程に関与するノウハウが詰まった部品への利用が進むだろうと言われているが、まさにシェアラボ編集部が目にしたのは、金型が大きく姿を変えている姿だった。そして展示されているワークサンプルの多くは撮影不可の、本当に実戦で利用されている金型だったり造形物だった。

導入企業が取り組む金型の進化

装置メーカーの想定ではなく、利用している旨を採用している加工業者がみずからAMへの取り組みを公言し展示に協力する姿からは、今後ますます成形加工を行う加工会社が3Dプリンターで造形された金型への取り組みに追随し、大きくモノづくりの常識が変わっていく可能性を感じた。

しかし、3Dプリンティング技術を取り入れた工作機械の普及はまだまだこれからだ。話を伺ったある説明員によれば「AM機能を取り入れた装置はまだ1%程度」ということだった。つまり今取り組んでいる先端ユーザーに追随する際の競合が少ないチャンスだということだ。

内部流路をもつ長寿命・ハイサイクルな金型、一体造形で組金型の部品点数を減らした金型、破損した金型の補修など、従来難しいまたは不可能とされてきた加工を実現し、顧客が体感できる付加価値を生み出すことが可能になる。

現状の3Dプリンターの多くは部品製造における速さの面で、従来工法に劣る。しかし部品を生み出す金型が変われば量産が変わる。3Dプリンティング技術を取り込んだ工作機械は金型に質的な進化をもたらすインパクトがある。金型が変われば量産品が変わる。まさにモノづくりに大きな影響が起こり始めているといえるだろう。

AM技術対応の工作機械の導入がビジネスチャンスを切り開く

工作機械はマザーマシンと呼ばれる装置を作る装置だ。日本の工作機械が世界に輸出され世界のモノづくりを変えてきたともいえる。韓国や中国に輸出された工作機械が、安価で早い金型を作り、日本に輸入される時代になって久しい。しかしコロナ化を契機にサプライチェーンのローカル化が模索されている。新鋭の工作機械を導入し最新の金型を近所で生産することで、海外に流れた需要を取り戻すことができるかもしれない。そのきっかけの一つが金属3Dプリンター技術を取り込んだ工作機械の導入かもしれない。

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編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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