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3Dプリンター最前線企業に聞いた、3Dプリンターの現在-丸紅情報システムズ

今回インタビューにおこたえ頂いた、丸紅情報システムズ株式会社の丸岡浩幸氏(右)、菊地健一氏(左)

今から4半世紀前に、米国ストラタシス社の総販売代理店として、日本に本格的な3Dプリンターを輸入した丸紅情報システムズ。ストラタシス社が1990年に開発したFDM(熱溶解積層法)は、今日における3Dプリンターの礎ともいえる技術だ。そうしたベンチャーをいち早く見出し、日本に紹介した丸紅情報システムズは、3Dプリンターの発展の歴史とともに歩んできたといえる。

今回、同社で3Dプリンターの新しい使い方を提案するスペシャリストの丸岡浩幸氏に「3Dプリンターの現在」について話を伺った。

日本は元来3Dプリンター先進国:MAKERS ― ものづくり革命からのその後

同社の丸岡さんと菊地さんは二人揃って、「20数年前までの3Dプリンターは一般的には知られておらず、知る人ぞ知る、という存在だった」と語る。そうした業界だったのが、ここ数年で変化が現れて、注目を集めている。

開口一番、「この6年間、私がアメリカやドイツに調査に行って感じているのが情報の格差です」と丸岡さんは話す。「英語圏では3Dプリンターに関する情報はものすごく出ていて、情報共有サイトや情報誌、カンファレンスなどが沢山あるが、それはあくまでも英語であって、日本語で入手できる情報は圧倒的に少ないのです」という。また、中国や韓国、シンガポールなどでは産官学の連携を含めて、積極的に海外に出て情報を得ているという。「アメリカにおけるMAKERSの流れはあるものの、元来日本は3Dプリンターの先進国です。日本の個々のユーザーは欧米と変わらず凄いことをやっています。ただもったいないことに発信が少ない」

産官学一体の海外各国:情報が欲しければまず自分から情報を発信する

「アメリカやヨーロッパであれば、情報を欲しいと思ったときには、まず、自分達で情報を発信します。それによって関心のある人が反応して欲しい情報が入ってきたり、自然と誰かが手を挙げて組織を作ってしまうのです。例えばドイツでは、インダストリー4.0という大きな御旗を政府が立ち上げると産官学が一斉にそちらの方向を向きます。そして、お互いに立場の違いを気にするのではなく、共同体として全体利益を考える流れに向かっているのです。」という。その背景には、かつてオバマ大統領が一般教書演説で語りかけたように「3Dプリンターは製造業復活の鍵になる」という見方があるからだ。

日本国内での情報不足:3Dプリンターは使う側からの情報発信が重要

近年、3Dプリンターは飛躍的に進化を遂げている一方、日本の中だけでは情報が十分ではないという状況が生まれている。

丸岡さんは「情報が中途半端なために間違った選択をしたり、本格的に取り組めば大きな利益になるかもしれないのに躊躇したり、ということが日本には散見されるように思います」という。これまで企業規模や業種を問わず、3Dプリンティングの相談を受けてきた丸岡さんだが、「レベルの差こそあれど、情報が十分ではないというのがユーザーの共通の悩み」だという。

さらに売る側からの情報はある程度あるものの、使う側からの情報発信、つまり「こういうものを持っている人はいませんか? 一緒になってメーカーを動かしましょう」といった考え方がまだ足りないという。

一方で「若い人の間では、コラボレーションして『クラウドファンディングでお金集めて、まず3Dプリンターで作って売ってみようよ。』というような動きが日本でも出てきています。それはデジタルツールに対する抵抗感がない人が増えていたり、デジタルツールは人とのコラボレーションのハードルを下げる効果があることも一因です」

新宿区の丸紅情報システムズ内にある東京ショールーム
新宿区の丸紅情報システムズ内にある東京ショールーム

環境の変化とともにより利用しやすくなった3Dプリンター

「皆さん、どうしても値段、材料、コスト、精度、CADなど、3Dプリンターを使うためのハードルの話から始められるのですが、例えばCADが使えないとならないことはなく、今は色々なやり方があって、例えば撮影して立体データをつくることもできれば、数学的な計算で形をつくっていく方法もあります。自分でデータがつくれなくても、誰かが作成したデータをデータシェアリングサイトなどでダウンロードすることも可能です。近場の公的な技術センターや出力サービスに相談してみるのもいいですね。クリエイターズマーケットのようなところでは、自分で考えたデータをアップロードしておけば誰か欲しい人がデータを買って、近くにある3Dプリンターでプリントしたら入手できるというビジネスが成り立っています。商流や流通も変わってきています」

ものづくりサイクルの高速化:3Dプリンター単体で価値を生むことは難しい

それでは、どうすれば3Dプリンターでさらなる価値を生み出すことができるのか? 丸岡さんは「3Dプリンター単体で価値を生むことは難しい」というのだ。

「よく、『3Dプリンターさえあれば何かできるんじゃないの?』といった話になるのですが、やっぱりまずは人。アイディアや発想、こういうものを作りたい、現状をこう変えたいといったことが大事。さらにデータがなければ何もできない。アイディア、3Dデータ、そして3Dプリンターの3つが揃って始めて形になります」

しかも一度やってみただけだと、大きな価値は生まれにくいと丸岡さんはいう。

「一度、3Dプリンターでモノを作ってみると、新しいアイディアが生まれる。それをまた3Dプリントして、改良してみる。品質、コスト、時間の視点で価値を検証しながらものづくりサイクルを回していく。それがうまく、しかも高速に回ると大きな価値を生み出すのです」

製造業に与える影響:3Dプリンターで得られる利益は製造プロセス全体でみる

丸岡さんは、3Dプリンターから得られる利益は一旦品質、コスト、時間に分解し、またそれを総合して考えるとわかりやすいという。

「3Dプリンターの場合は、材料物性が従来工法と全く同じにはならない、積層していくので段差があるなど切削や成形品に比べ品質に劣るケースもあります。それでも圧倒的に設計から現物を手にするまでの時間が早くなる。

輸送の点でいえば、ものを運ぶより、データを送って近くで3Dプリントしたら輸送の時間とコストが大幅に下がることがあります。3Dプリンターで作るのであれば、設計データだけ送って、現地で作れます。スピードの点でもメリットがあり、輸送コストもかかりません。

使用の点では、治工具を3Dプリンターで金属から樹脂のものに作りかえれば、軽くなって負担がかからないことで一定時間当たりの生産量が増えます。

在庫の面でも、修理や補修部品のため今まで金型をずっと持っていないといけなかったのがデータだけ持っていればいい、必要な数だけ作ればいいと変わってきます。

単に『試作コストが下がりました』という話だけではなくて、製造プロセス全体を見てどこで利益が生まれるかをみることが大事です。品質や時間などの価値をどこで生み出せるか。

もし作るプロセスだけに注目した場合、型成形用の材料費と3Dプリンターの材料費だけを比較して3Dプリンターをあきらめてしまうケースがあります。実は、3Dプリンターで作った場合、設計や、評価だけでなく、生産、輸送、使用、在庫の各フェーズで利益がでるということがあります。

航空機メーカーがもっと3Dプリンターを使おうと考えているのは、飛行機として運用した時に1kgでも軽くなれば燃料費が大幅に安くなるからです。そうなると製造や運用プロセス全体の利益は膨大になります。また、切削加工では形状により削って捨てる部分が多くなることがありますが、3Dプリンターでは捨てる材料が少なく、その処理コストの差なども見落としてはいけないですね」

製造プロセスからみた3Dプリンター導入の効果の図
3Dプリンター導入の効果は製造プロセス全体を見て判断する必要がある

導入メリット:3Dプリンティングは、サプライチェーンまでも変えることができる

3Dプリンターで得られる利益は、モノ単体ではなく製造、運用プロセス全体の中にこそある。トータルでみて3Dプリンティング導入前と導入後、どちらに利益がでているかが重要だ。しかし、3Dプリンターを使っている部署単体でみると利益が不十分と捉えられがちで、会社全体では利益が出ていることをなかなかわかっていただくことが難しいことが多いという。

例えばGeneral Electric社のような企業の場合、グループ全体で3Dプリンティングの活用を推進しているのはサプライチェーンの柔軟化が狙いだという。

「3Dプリンティングはサプライチェーンを大きく変える可能性をもっている。日本でも複数の企業が公表しているように、治工具を3Dプリンティングで作ることにより、例えば軽くなる、それにより工程や作業が大きく改善されることもあります」

これまで当たり前になっていた、どこで、だれが、どう作り、どう運び、どう使うという流れを大きく変えられるというのだ。3Dプリンターを魔法の箱のように捉えて、他力で期待をするのではなく、日本の製造業が従来持っている、小さな工夫やニーズの種と3Dプリンティングを掛け合わせることで、新しい発想や大きな利益につながっていくのかもしれない。

3Dプリンターが切り開く新たな価値

丸岡さんは、「3Dプリンティングで価値を生み出すには、まず情報を知ること、そして新しいアイデア、機器の使いこなしがカギとなります。これまで3Dプリンターを使ってこられなかった方でも、製造業に関わっていない方でも、もっと広く見渡していけば新たな価値を見つけられると思います」という。また菊地さんは、「日本では製造業の現場に熟練者がいるからこそ、3Dプリンターの使いどころを思いつくことが出来るのだと思います」と話す。「スーパー3Dプリンターの到来を待つのではなくて、まずは一緒にやれることを探していきませんか?」というのが長年、3Dプリンティングの牽引役を担ってきた丸岡さん、菊地さんの共通の願いだ。

関連情報

丸紅情報システムズ3Dプリンターサイト
丸紅情報システムズはストラタシス社製3Dプリンターの世界トップリセラー。3Dプリンターの販売、保守サポートを25年以上にわたって行っている他、出力サービス、レンタルも行っています。

【基礎知識一覧】業務用3Dプリンターを学ぶ
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