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AM活用のヒントは「あたりまえ」の中に!

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。

AM活用の現場に行って学んだこと

2024年も残り2か月を切り、アメリカ大リーグも日本のプロ野球も、私を含めたファンを例年以上に楽しませてくれたシーズンが終わりました。今年は、始まる前には予想が出来なかったことがたくさんあったシーズンでした。やっぱり球場に行って、その場で観る方が感動も楽しさも大きいのですが、残念ながら今年は球場で観る機会がなく、ほぼテレビ観戦でしたが、来シーズンはまた行ければと思っています。

さて、AMにおいても、実際の現場に行ってみる、また直接話を聞いてみると、新たな発見や考えが生まれることは、おそらくみなさんも経験されていると思います。そうとは言え、日々の仕事の中で、そうそう実際の現場に行ける、また現場で働く方々も、他の現場に行ける機会はなかなか作れないと思いますので、ShareLabでは出来るだけ現場の情報をお伝えすべきですが、いろいろな事情もあって十分には程遠いのが実情です。それでも今回貴重な機会を得て愛知県名古屋市の株式会社山一ハガネ本社にお伺いし、AM関連事業を担当されている営業企画本部 事業開発Gr.事業開発Sec. 生産材Gr.営業Sec. マネージャー 小林 祐太 様から直接お話を伺い、工場現場も見せていただくことが出来ました。そこから知ったこと、学んだことを大事なほんの一部ではありますが、お伝えしようと思います。

株式会社山一ハガネ AM営業Gr. AM営業Sec. マネージャー 小林 祐太 様

 

 

山一ハガネとAMとの関わり

山一ハガネは昭和2年(1927年)創業の歴史ある会社で、主に自動車製造の金型などに使われる高級特殊鋼に特化した販売だけでなく、高精度な熱処理、精密加工、高度な測定まで一気通貫で行うメーカーでもあります。またユニークなのは自社の技術を活かし、アウトドア用品である焚き火台「HITAKI」や、フィギュアスケート靴のブレード「YS BLADES」を自社開発販売し、現在現在世界で活躍する日本のトップスケーターの多くに使っていただき、日本のジュニアから世界のスケーターへユーザーが広がっているとのことでした。そこからもわかるように、買う人、使う人のために常に挑戦をし、自社技術を高め、惜しみなく提供する企業文化があるように見えます。一方、多くの日本の中小企業が直面しているであろう課題として、自動車産業の変革により特殊鋼のビジネスはこのまま続かないという見通しを早くからもち、対策として新事業開発にも積極的に取り組まれていました。そのひとつとして、当時まだ今ほど普及していなかった金属AMの研究と受託加工ビジネスを2016年から始めます。そこでも独特なのは、初めから航空関連部品製造の需要をつかみ、速い開発のために金属AM製造で進んでいたフランスのPrismadd社と提携、技術者も日本に受け入れました。2019年には顧客からの航空機部品製造認証も得た上に、設計の重要性も理解し、アメリカのソフトウエアメーカーnTopology(現nTop)含めた数社と提携し、自社活用技術を高めると同時に代理販売ビジネスも始め、軌道に乗せました。しかし、「お客様自体の事情で需要がなくなってしまった」(小林氏)ことから、2021年に金属AM事業から樹脂AM事業に転換し、海外プリンター代理販売を経て、現在の「工業用多品種少量生産のためのオリジナルAMワークフロー」を作り上げるに至られています。

「工業用多品種少量生産のためのオリジナルAMワークフロー」(小林氏提供)

 

言うまでもなく、このような工程を作り上げるのは容易ではなく、長年のAMビジネス開発から得られた理解や人材があってこそですが、一方で「AMで工業用多品種少量生産を行う」という目的から遡り、理にかなった「あたりまえ」なツールと工程を開発整備されたものということがわかりました。

AM製造と活用のヒントは「あたりまえ」の中に

「3IxD(スリーイクシット)」外観

山一ハガネにとって、継続的に工業用部品生産を行うには、安定した品質で、速く、止まらず生産できる装置が必要で、自らの目的と要求に合ったプリンターを求めるのは「あたりまえ」であり、しかし市販に適した製品がないので、自社開発した樹脂フィラメントMEX(材料押出法)プリンターが「3IxD(スリーイクシット)」です。それには世界で初めての除湿乾燥機能と温度管理機能を実装し、特許も出願したとのことです。現在工場内には9台配置されていましたが、生産量増加に伴い増設されるとのことでした。実際に工場に行ってわかったのですが、3IxDは材料リール格納部から造形機内全部が密閉構造で、その内部を除湿温度管理しているため、市販プリンターで必要な工場内室内はほぼ空調していませんでした。「これが最も効率的かつ安定的な方法」(小林氏)とのことでした。更に速いスピードでヘッドを動かすために徹底的に軽量化、冷却ノズルも最適形状設計とAM製とし、それより重要な汎用フレーム組立による筐体は見るからに剛性の高いものでした。これもMEXの原理を理解され、「あたりまえ」を実現された装置だと思いました。さらには材料についても、コスト・品質・性能の自社要求を満たすために、材料開発、フィラメント製造、市販にはない大容量リールまで自社開発製造しており、さらに後仕上げ工程の塗装も、工場内にロボット式ノズルを持つ塗装ブースを設置するという徹底ぶりには驚きました。

パーツフィーダー「Shizukaru」製品例

この工場では既に多くの製品が製造、販売されていますが、公表され、かつAM活用の見本のような用途の実物も見せていただきました。それは2024年9月の本コラム「AMを使うと良いビジネスモデルとは?」でもご紹介した、パーツフィーダー製品「Shizukaruシリーズ」です(詳しくは山一ハガネウェブサイトを参照)。まずこの製品が出来たきっかけは、既存のパーツフィーダーメーカーからの現状課題から始まったそうです。パーツフィーダーは需要に合わせて1点ごと違う設計製造となりますが、パーツを整列して流す部品は金属板金加工で、それでは出来ない形状もあり、また加工納期が長く、実際流して調整するのも時間と手間がかかるのがメーカーにとって「あたりまえ」だったそうで、それらが理由で受注できない案件がかなりあったそうです。その課題を聞いた小林様から、3Dプリンターで製造すれば課題は解決できることを提案し、その結果これらの製品が出来たということです。また写真のパーツフィーダーは医療関連のボトルの整列に使われるため、接触部には適合した青色の塗料で塗装されていますが、使用中に摩耗した箇所がすぐ見てわかるように赤色樹脂材料で3Dプリントしたそうです。このように、「出来ないことがあたりまえ」を現場で見つけ、AMで解決することが新ビジネスや活用のヒントになることは、AMユーザーの皆さんにもぜひ参考にしていただければと思います。

ShareLabニュースにもう一言

「AM研究会第10回委員会」参加報告

AM研究会第9回にも参加してお伝えしましたが、今回もオンラインオフライン含め500名以上の参加があったとのことで、日本国内でもAMに関わる方、関心のある方が増えたことを改めて実感しました。今回はいままであまり扱われてこなかった「セキュリティ」についての講演があり、AMはデジタルデータが基盤なのですが、コンピュータやモバイルデバイスへのセキュリティ対策は言うまでもなく必須の時代ですが、AM関連装置にも同様な対策が必要で、被る被害と損害の大きさを考えれば、装置メーカーだけでなく、ユーザー自身も必要な投資をして自衛対策をしていかないとならないのではないかと感じました。

「4DFFカンファレンス2024」参加報告 3D+1Dが拡げる価値と可能性

こちらも私が前職からずっと参加してきたカンファレンスですが、他のAM関連イベントでは少ない学生含めた若い世代の方の参加や、論文講演数もさらに増えたことがわかり、AMの普及と活用可能性分野の広がりが進んでいることも実感できました。参加者の方からも「このカンファレンスに参加すると、若い方々の新しいアイデアから多くの刺激をもらえ、元気になる」という声が聞かれ、私も同感しました。来年の4DFF2025は10月23,24日に京都工芸繊維大学60周年記念会館で開催予定とのことですので、興味のある方。お近くの方はぜひ参加してみてください。

ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!

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