インスタリム、3Dプリント義足でグローバル展開へ!11億円を調達

インスタリム株式会社(東京都隅田区、以下、インスタリム)は、3DプリンティングおよびAI技術を活用した世界初の3Dプリント義足製造ソリューション事業を日本、インド、フィリピンにおいて展開している。同社はこのたび、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社(東京都千代田区)、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東京都文京区、東大IPC)、みずほキャピタル株式会社(東京都千代田区)などを含む計9社を引受先とする第三者割当増資により、総額約11億円の資金調達を実施した。これにより、同社の累計資金調達額は21.3億円に達した。(上部画像はインスタリムのプレスリリースより。出典:インスタリム)
目次
グローバル・サウスを視野に、3Dプリント義足で医療アクセス格差に挑む
本資金調達の目的は、インドおよびフィリピンにおける既存事業の加速に加え、2025年度にはウクライナ、インドネシア、ナイジェリアの3か国において同時展開を図ることにある。さらに、5年以内に全グローバル・サウス地域への進出を目標としている。
同社は「必要とするすべての人が、質の高い義肢装具を手に入れることができる世界の実現」をビジョンに掲げており、現在は以下の2事業を主軸として展開している。
1. クリニック事業
自社製の高品質かつ低価格な3Dプリント義足を製造し、直販する形式のクリニックを運営している。これまでにフィリピンおよびインドで累計5,000本以上の義足等を提供しており、特にフィリピンにおいては市場シェアNo.1を獲得している。
2. ライセンス事業
同社の3D義足製造ソリューションを他社にライセンス供与するモデルであり、義足製造に必要な設計・製造ソフトウェアや材料を提供している。このソリューションは、インドの国営義足製造機関であるALIMCOや、世界最大級の義足提供NGOであるBMVSS(通称ジャイプールフット)への導入が既に進んでおり、アジア地域を中心に急速にシェアを拡大中である。
社会課題に挑む3D義足モデル、投資家から高評価
このように、義足の供給が十分でない国々において、同社のビジネスモデルは実効性を証明しており、今回の資金調達は新市場における導入と、グローバル・サウス全体への展開に向けた布石と位置付けられる。
なお、調達先の全貌は以下の通りである:
- JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社
- みずほキャピタル株式会社
- 東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)
- 株式会社アイティーファーム(IT-Farm)
- 未来創造キャピタル株式会社(みずほリース)
- 信金キャピタル株式会社
- リブライトパートナーズ株式会社
- 達盈管理顧問股份有限公司(Darwin Venture Management)
- 京セラ株式会社およびグローバル・ブレイン株式会社が共同設立したCVCファンド
今回の資金調達は、同社のテクノロジーと社会課題の解決を両立させるビジネスモデルが、投資家から高く評価されていることを示すものである。引き続き、義足の新しい供給モデルを世界に広げる取り組みが注目される。
世界初の3Dプリント義足を実用化!日本発「インスタリム」の革新と拡大
インスタリム株式会社は、2018年に創業した日本発のディープテック・スタートアップであり、世界で初めて3Dプリント義足を実用化した企業である。3DプリンターとAI技術を駆使し、従来の義足と同等の品質を保ちつつ、価格を10分の1以下に抑えることに成功した。また、「3D義足製造ソリューション」としても、納期と初期費用を大幅に短縮するとともに、義肢装具士一人あたりの製造能力を10倍以上に引き上げることが可能である。
フィリピンおよびインドにおける義足の直販では、すでに5,000本以上の提供実績を有し、ソリューションとしては、各国の公的機関を含む9つの組織で導入されている。

4,000万人の希望をつなぐ!インスタリムの社会課題解決モデル
義足の製造には、個々の身体に合わせた医学的に最適な形状が求められ、その工程は高度な医学知識と技術を有する義肢装具士によるアナログ製作が基本である。しかしながら、特に中低所得国では義肢装具士の育成が不十分であり、その結果、必要な数の義足が供給できていない。このような状況により、世界には義足を購入できない人々が4,000万人以上存在するとされている。多くの人々は義足がないことによって就業機会を失い、貧困から抜け出す術を持たない。この社会課題は長らく放置されてきた。
インスタリムは、この課題に対して、義足製造をアナログからデジタルへとDXするソリューションをゼロから開発し、製造能力を飛躍的に向上させることで、「必要とするすべての人が、質の高い義肢装具を手に入れられる世界」の実現を目指している。
拠点展開と疾患背景を追い風にグローバル展開を加速
本社および研究開発機能は日本にあり、クリニック事業としては、フィリピンの2拠点とインドの5拠点において、現地製造による直販を行っている。さらに、インドの子会社には3Dプリンタ製造工場および材料(フィラメント)製造工場を備え、グローバル展開の拠点として機能している。現在、全体で約200名(日本35名、フィリピン65名、インド100名)体制で各事業を推進している。
義足市場の背景として、下肢切断の約8割が糖尿病性壊疽などの血管疾患によるものであり、義足の需要は糖尿病の増加とともに高まっている。特に開発途上国では、定期的な健康診断の不足により、症状に気づかずに進行し、結果的に脚の壊疽による切断に至るケースが後を絶たない。このため、糖尿病は「貧困病」とも呼ばれ、2045年には世界で7.8億人に達する見込みである。そのうちの約9割が新興国・開発途上国の患者とされている。
義足の世界市場はおよそ2兆円規模とされており、インド市場は約750億円、フィリピン市場は約98億円と試算されている。
こうした背景の下、インスタリムは2019年にフィリピン、2022年にはインドにてクリニック事業を開始し、いずれも順調な成長を見せている。フィリピンでは2022年11月に単月黒字化を達成し、以降も年次成長率120%を維持している。インドにおいては創業以来30ヶ月間の平均月次成長率が122.8%と、鋭角な成長を続けている。

ウクライナからグローバル・サウス全域へ!国際展開とIPOを見据えた飛躍へ
また、インドネシアでは財閥系病院チェーンとの契約が進行中であり、ナイジェリアやエジプトでは政府との協議が進んでいる。他にも100件以上の商談が進行しており、世界各国からの引き合いが急増している状況である。
とりわけウクライナにおいては、戦前の義足提供数が年間3,000本程度だったのに対し、戦争の影響により需要は約30万本にまで急増している。この状況に対応するため、国連からインスタリムに対して3D義足製造ソリューションの技術移転プロジェクトが発注されており、大規模な支援が開始されている。

インスタリムは、2027年度以降のIPOを視野に入れており、今回のシリーズB-エクステンションラウンドによる資金調達を通じて、2025年度にはウクライナ、インドネシア、ナイジェリアの同時展開を実施し、5年以内に全グローバル・サウス地域への展開を完了することを目指している。
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