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国内スタートアップ企業が、ウクライナ市民に3Dプリント義足を送るためのクラウドファンディングに挑戦

「私たちにしかできない」デジタル義足製作でウクライナの人を救いたい

日本のスタートアップ企業であるインスタリム株式会社が、戦火で負傷したウクライナ市民を対象に100本の義足を提供するためのクラウドファンディングに取り組んでいる。募集期間は2023年4月21日から6月19日で、募集金額は530万円を目指す。(2023年5月23日時点で約200万円のファンディングが集まっている。)

インスタリム株式会社とは

インスタリム株式会社(以下、インスタリム社)は、義足を3DプリンターとAI技術でカスタム製造する日本のスタートアップ企業だ。従来の約10分の1以下となる低価格・短納期の3Dプリント義足を現在フィリピンとインドで製造販売している。日本を代表する優れたスタートアップとして経産省「J-Startup」に採択されており、注目を集めている。

足を失った人の断端を3Dスキャナーで計測している様子(出典:インスタリム社)

後天的に脚の一部を失くし、義足が必要になった患者は少なくない。後天的に足を失ったものの、経済的理由で義足を購入できない患者は世界に4,000万人以上も存在するという。現在の義足は、一人ひとりの体に合わせて、義肢装具士と呼ばれる職人が医学的に最適な形状を手作りしている。日本円にして1本あたり30~100万円と高価な医療器具となっているためだ。

インスタリム社は義足を買えない患者に義足を届けるために、AI技術と3Dプリンティング技術を活用し、従来の約10分の1水準となる低価格・短納期の3Dプリント義足を、2019年よりフィリピンで、2022年からはインドでも製造販売してきた。2023年現在で、すでに1,000名以上のユーザーに義足を提供してきた。フィリピンでは毎月100名程度に義足を販売している実績を持つ。

クラウドファンディング立ち上げの背景

そんなインスタリム社が今回取り組んでいるのが、戦火で負傷したウクライナ市民への義足提供だ。2023年1月にインスタリムがウクライナで現地調査を行ったところ、最大5,000人の市民が義足を必要としており、さらには義足の提供体制に問題がある状態だったという。

足を失ったウクライナ市民
足を失ったウクライナの戦争被害者(出典:ウクライナ義肢装具提供プロジェクト「Unbroken」)

戦争前は、義肢装具を作るための施設が機能していて、国の予算で義足が購入できていたし制度や施設は健在だ。各国からの寄付などにより義足製作のための材料もパーツもある。しかし人手不足によって機能不全に陥っていたことが明らかになった。

現地では発電所の戦争被害もあり電気などのインフラも安定を欠いている状況だ。戦火を逃れるために義肢装具士が疎開したことで、市民のために義足を作る義肢装具士が大幅に不足している状況になっていた。疎開せず業務を続ける義肢装具士も、戦場で負傷した兵士のための義足製作を優先させている。結果的に一般市民への義足提供は後回しにならざるを得ない。そこで今回のプロジェクトで製作される100本の義足は、兵士ではなく「市民」に対して提供する予定になっている。

インスタリム社は、クラウドファンディングWebサイトの中で「義足が足りていないのは確かだが、今、義肢装具士を増やしたら終戦後どうするのか?仕事を失って食べられなくなる。」という現地のリハビリドクターの発言を紹介している。戦争が終わったあとも日常は続く。安易に義肢装具士を増やすこともできない苦悩が伝わってくる。明らかに国外からの支援が必要な状況だ。

AIと3Dプリンティング技術で義足の生産性を10倍に

今回のクラウドファンディングはこうしたウクライナの義足不足に一石を投じるものだ。インスタリム社によると、一般的なビギナーの義肢装具士が従来の手作業・アナログ製作プロセスで製作可能な義足の生産量は1週間に1本程度とのこと。一方で同社の義肢装具製作専用の3Dプリンターと独自アルゴリズムによる形状レコメンド機能などを備えた3Dモデリングソフトを利用したデジタルな製作に移行すると、1日2本程度まで向上する。

3Dプリンターを活用して義足を製造すると、手作業よりも生産効率が約10倍高くなる(出典:インスタリム社)

20日間の稼働としても、月間の製作本数は手作業で作る月4本からAIと3Dプリンティング技術で作る月40本に約10倍まで向上。加えて、従来の手作業の約10分の1となるコストダウンを実現できるという。

インスタリム社では、フィリピン・インドで義足の製造販売を実施している。患者の自宅で脚部の3Dスキャンを行い、スキャンしたデータを工場に送ることで義足を製造している。現地で3Dスキャンのみを行い、製造を現地以外で行う体制が整えば、今回のプロジェクトの実現も見えてくるだろう。

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