3Dプリンターを用いたカスタムバイク「建造」を見つつ、日本のバイクパーツ製造の今を知る
英ロンドンのカスタムバイクショップ「DEATH MACHINES OF LONDON」(以下、デスマシーン)が手がけたホンダ・ゴールドウイングのカスタムバイク「建造 -KENZO-」に3Dプリンターによるボディパーツが用いられており、注目を集めている。(出典:DEATH MACHINES OF LONDON)
3Dプリンターで作られたワンメイクパーツが見どころ
ベース車両は、本田技研工業が1977年に北米市場で販売していたメガツアラーバイク「ゴールドウイング」。原型をとどめているのがエンジンだけと言っていいほど大幅に手を加えられたタウンユーススタイル「カフェレーサー」にまとめられている。独創的なボディデザインと「建造 -KENZO-」という和名が目を引く一台だ。
「建造 -KENZO-」の名は、イギリスの伝統的なバイクレース「マン島TTレース」に、1930年(昭和5年)に日本人として初めて参戦した多田健蔵氏に由来する。「多田氏のモーターサイクル界への貢献とホンダが生んだジャパンメイドバイクへのリスペクトから名付けた」とは、デスマシーンのデザイナー James Hilton氏。
武士のような多田健造氏の猛々しいライディングに着目し、「サムライの甲冑をイメージした」(James Hilton氏)というボディパーツ。ヘッドライトを覆うソリッドなカウルは「ブレード」(刀)を、エンジン上部のフューエルタンクを覆う大型ファンのようなボディパーツは甲冑を、そしてアシンメトリーなシートは重ねて着る着物をイメージしたそう。このフロントカウルとタンクカバーの製造に3Dプリンターを用いている。
これほどの大きさのボディパーツをワンオフで作ることができたのも、オンリーワンな一台に仕上げるカスタムバイクだからこそ。素材や用いられた機器といった情報は開示されていないが、これまでハンドメイドのパーツを扱ってきたバイクの世界に新たな価値観を示したと言える。
日本のバイクパーツ製造における3Dプリンター活用
バイク業界における3Dプリンターの活用という点では、あまり表に出る話題ではないため関係者間でも知られていないが、名だたる大手アフターパーツメーカーのほとんどは業務用3Dプリンターを導入している。活用度合いは企業によりけりながら、30 x 30 x 50cmほどのサイズにおさまるパーツの試作は3Dプリンターによるものと、関係者への電話取材で知ることができた。
しかしながら、最終部品として販売されているパーツはほとんどない。コストや製造時間もさることながら、関係者がもっとも気にかけるのが「強度」だ。バイクの駆動にほとんど関与しないデコラティブなパーツであれば最終部品として販売しても問題は小さいが、スイングアームやホイール、ハンドルといったバイクの操作に関わる重要な部位に欠陥があると、不安定な乗り物であるバイクにとっては命にかかわる事態ともなり得る。リスクヘッジの観点から、最終部品としての採用には踏み切れていないのが現状のようだ。
海外に目を向けると、カナダのアフターパーツメーカー MJK Performance はハーレーダビッドソン用トリプルクランプを製造、販売を開始している。トリプルクランプとはフロントフォークとフレームを接続するパーツで、バイクの操舵性を司る箇所である。デザインはもちろん強度が品質を決定づける重要な部位で、ハイエンドパーツを手がける同メーカーが自信をもって送り出す製品なので強度は保証されていると言っていい。改めて世界は一歩も二歩も先を行っている印象だ。
試作の先にある最終部品までまだ踏み切れていないものの、世界の潮流を鑑みるとそう遠くない未来に3Dプリンターから生まれたバイクのアフターパーツが市場に出てくるだろう。注目が集まる自動車業界の3Dプリンター活用はもちろん、今再びブームとなっているバイクでの3Dプリンター活用について、ShareLab NEWSでは最新情報を入手次第お届けしていくのでお楽しみに。
樹脂3Dプリンターに関する基礎知識
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