3Dプリントされたミツバチの巣による生態系保護活動
英ランカスター大学の研究グループは、マルハナバチ(bumblebee)の巣を3Dプリンターで作製し、ミツバチの行動に関する調査と、個体数の保護に役立てる研究を推進している。
ヨーロッパ農業に欠かせないマルハナバチ
マルハナバチ(英名:bumblebee)は、12~14mmほどの大きさと言われるミツバチより少し大きな体を持つハチで、ヨーロッパで多く生息する。体に比べると小さめの羽を持ち、特徴的な低音の羽音が特徴だ。この羽音が英語で bumble と形容され、英名の由来となっている。穏やかな性質であり、積極的に人を刺すことは稀だ。
日本ではあまり見かけないが、ヨーロッパでは花粉を媒介する益虫として親近感を持たれており、トマトやナスの栽培の受粉をはじめ、牧草に用いられるアカツメクサにも利用することが多い。
マルハナバチの存在がヨーロッパでどれほど重要であるか、さまざまなエンターテインメント商品や文化からも窺い知れる。映画でも人気を博したイギリスのファンタジー小説「ハリー・ポッター」シリーズに登場するホグワーツ魔法魔術学校校長、アルバス・ダンブルドアの「ダンブルドア(Dumbledore)」は古いデヴォン(イギリス南西部の一地域)の言葉で「マルハナバチ」を意味する。またデンマークのスポーツ用品メーカー「hummel(ヒュンメル)」は、マルハナバチをドイツ語読みしたものだ。
マルハナバチが生態系で果たす役割
人間にとってありがたい特徴を持つマルハナバチだが、20世紀後半の環境の変化(異常気象、生息地の喪失、農薬使用の増加)によって数が激減した。ヨーロッパの一部の農地はマルハナバチの受粉にかなり依存していたため、大きな損失が出たこともあるという。2012年には、イギリス政府が無許可でスウェーデンのマルハナバチを捕獲しようとしたが、そのことがスウェーデン側に発覚して国際問題にまで発展した。
こうした状況を改善するため、野生の緑地を作るなどの試みが進められている。今回の3Dプリントを用いた巣の作製も、マルハナバチを保護する活動の一環だ。
絶滅から救う3Dプリント ハチの巣箱
環境科学者のフィリップ・ドンカースリー博士らは、3Dプリント技術を用いて、ウェブカメラ付きのマルハナバチの巣を作製した。この巣箱は “Bee Box” の愛称で呼ばれている。
Bee Box は再生プラスチックを原料としており、半球状の黒いドームのような見た目を持つ。牛などの好奇心旺盛な哺乳類から壊されないよう、地中に埋め込むことができ、強度面も十分だ。
通常の巣を模した細い入口パイプを持ち、ドーム上部には観察用のカメラモジュールが取り付けられている。マルハナバチたちの生活を脅かすことなく、コロニー内での営みを垣間見ることが可能だ。
ドンカースリーらの研究チームによると、このデバイスは、マルハナバチの女王蜂にも大変人気があるらしい。Bee Boxは、英国で減少の一途を辿るマルハナバチの個体数増加に大きく貢献すると期待されている。
巣箱の導入状況と今後の取り組み
Bee Boxの設置と活用は未だ始まったばかりだ。
研究者たちは、英国工学・物理化学研究会議(EPSRC)から資金の助成を受け、Bee Box を 100個生産した。これら Bee Box を用いてマルハナバチの生態系について調査を進めつつ、最終的には、Bee Box の一般販売を行う予定だ。
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