患者向けに3Dプリンターで歯ブラシのグリップをカスタマイズする研究ーMNR Dental College and Hospital(インド)
インドのMNR Dental College and Hospitalの研究チームが、老化や関節炎、脳卒中などの理由で歯ブラシが握りにくい人のために、3Dプリンターで歯ブラシのグリップを作製する方法を、医師がオンライン上で症例報告を行える雑誌『Cureus』にて発表した。(画像は3Dプリンターでつくられた歯ブラシグリップ 出典:Cureus)
患者に合わせた歯ブラシグリップを3Dプリンターで作製
健常者にとってはなんでもない歯を磨くという行為だが、加齢や関節炎、脳卒中の影響で身体機能が低下した患者にとっては、歯ブラシを握るだけでも一苦労する。握力が衰え、適切な力で歯ブラシを握り、ブラッシングを行うことが大変な重労働だ。そうなれば口腔内の健康維持が困難になり、歯肉炎や歯周炎の発生リスクが増大し、口腔衛生が悪化すると感覚や咀嚼機能も損なわれるので、栄養失調の原因にもつながってくる。百害あって一利なしだ。
このように患者の健康維持のために、歯や入れ歯の適切なブラッシングは不可欠な要素だが、ちゃんと歯を磨きたくても体が思うように動かない患者でも歯を磨きやすい歯ブラシがなければ問題は解決しない。身体能力が低下してもちゃんと歯磨きできる歯ブラシは健康維持の観点から無視できない問題だ。
患者にとって握りやすい歯ブラシ開発の取り組んできたMNR Dental College and Hospitalの研究チームが発表したのが3Dプリンターで作製する歯ブラシグリップだ。市販の歯ブラシの柄の部分をシリコン製のパテで覆い、患者に歯を磨く際と同じように、力の入るかたちで握ってもらう。その際に得た型をデータ化し、その後、低コストで強度に優れたポリ乳酸(PLA)を素材に3Dプリントする。Cureus上での発表された作製モデルでは、3Dデータ化にはMaterialise NV社の3Dプリント用ソフトウェア「Mimics」が、造形する3DプリンターにはUltimaker 社の「Ultimaker 2+」が用いられている。
作製した3Dプリント製のグリップは、歯ブラシにはめ込むアタッチメントとして使用できるので、使い古した歯ブラシを交換しての再利用も可能だ。3Dプリントグリップに補助パーツを用いることで、歯間ブラシのグリップにもできる。3Dプリンターを活用することで、介護をする際の介助具や患者で自分の面倒を見る自助具を用意することができるというわけだ。
3Dプリント製グリップの素材であるPLAは一定の耐久性があり、水を吸収しにくい素材だ。長く使用できるため、グリップの再作成のための時間やコストも節約できる。価格は約2,500ルピー(約4,300円)とのこと。また、作製したグリップに少し手を加えれば、異なる形状の歯ブラシにも再利用できるので、将来的に新しいグリップを作るための時間とコストを最小限に抑えられるとしている。
3Dプリント製の歯ブラシグリップが患者の生活の質を向上させる
3Dプリント製の歯ブラシグリップを用いて、患者自身が適切なブラッシングができるようになれば、口腔疾患を予防し、歯科治療の回数が減らせ、適切な栄養摂取にもつながる。
その人にあった一人一様のモノづくり最適な用具を作ることは、コストや手間の問題から簡単ではなかった。しかしMNR Dental College and Hospitalの研究チームの取り組みのように、3Dスキャナーや3Dプリンターを活用することで、現実的な手間とコストで、各人に最適化された自助具や介助具を作ることは、もはや夢ではない現実的な取り組みになってきた。患者に合わせたカスタマイズ製品を3Dプリンターで安価に作製する。そのような流れが今後も大きくなっていくと予想される。患者の家族や介護従事者への依存度も軽減できるため、患者自身の生活の質(QOL)や自尊心の維持と向上にも貢献するだろう。
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